恒例のNHKの紅白歌合戦が始まっている。私はこの「国民的」番組には興味が持てないので長い間観たことがない。と言って民放の方にも観たい番組はないので、静かに、少し手持ち無沙汰に大晦日の夜を過ごすことにした。午前0時前にはテレビをつけ、除夜の鐘を聴こう。これは毎年観ている。寺院によって鐘の音はさまざまだが、どれも心が落ち着く良いものだ。それに全国のあちこちの初詣の様子を観るのも好きだ。
今年もまた速く過ぎ去ったように思う。ある卒業生が言っていたが、新陳代謝が活発だと時間の経過は遅いと感じ、代謝が緩やかだと速いと感じるのだそうだ、だから年を取るにつれて1年が速く過ぎるように感じるらしい。彼は、蟻は活発に動いているから、寿命は短くても結局は長く生きていると感じているようですとも言ったが、蟻にそんな感覚があるのかなあと笑った。蟻にはゆっくりと時が流れているということなのだろう。新陳代謝と時間の感覚の関係はよく分からないし、近頃は若い人でも日がたつのが速いと感じているようだから、社会の動きが慌しいからかも知れない。昔は万事がゆったりとしていたと聞く。
今年もいろいろなことがあったが、思い返してみると明るい話は少なかったように思う。何よりも9月の米国の1証券会社の破綻から始まった金融不安に続く実体経済の不況は世界的な広がりを見せ、日本も不況の波に飲み込まれたことは大きく暗い出来事だ。大企業などは派遣労働者や期間労働者などの非正規労働者の雇用契約を打ち切り、中には寮からも退去させることも少なくなく、巷には師走の寒空に放り出された労働者が数多くいる。派遣切りとなり寮も追い出された労働者がコンビで強盗をした事件も起きている。失業率は3.9%、来年3月までに職を失う非正規労働者は8万5000人と言われる。世界トップを誇った自動車メーカーなどは好調時には非正規労働者を数多く雇用しながら、不況になると容赦なく首を切る。実に非情、冷酷で勝手なものだと憤りを覚える。労働者を消耗品のように考え、会社を支える貴重な財産、資本とは考えもしないのだろう。大儲けした時に蓄えたはずの金はどこに行ったのか、その一部でも使って何とかならなかったのかと言うのは素人考えか。
銀行の貸し渋りで小企業主達が困っている。「天気の良い時に傘を貸し、雨が降れば返せと迫る」と銀行が揶揄される所以だ。大銀行はかつて経営危機に陥った時には、公的資金を注入され立ち直ったことなど忘れたようだ。大銀行も大企業も儲け一点張りで、この未曾有の不況の時には、そのモラルの荒廃ぶりが露呈されたように思える。
残虐な犯罪も多かった。特に東京・秋葉原などでの無差別殺人の横行はひどかった。若者が「誰でもよかったから、殺したかった」というあまりにも身勝手で歪んだ理由で犯行に及んだことは、日本の社会の病的な面が露呈したようだ。やはり現在の格差社会の歪みだろうか。今、香山リカ著『私は若者が嫌いだ!』(KKベストセラーズ)を読んでいるが、その中に紹介されている若者の姿には暗然とする。若者が希望を持てない社会、若者に希望が持てない社会は暗い。
毒性の強いメタミドホスの混入した中国製餃子事件に始まり、食の安全が疑われる事例も続発し、毒性のある事故米を食用に転用した悪質な事件もあった。食品の偽装も後を絶たず、とりわけ大阪の有名高級料亭の産地偽装や料理の使い回しには世間は呆れた。廃業に追い込まれたのも当然だろう。食への不信が高まっている今、食に関わる企業のよりいっそうの高いモラルが望まれる。
自然災害も、宮城・岩手地震や、8万人以上の死者・行方不明者を出した中国四川省大地震、13万人以上の死者・行方不明者を出したミャンマーのサイクロンなど大きな災害などがあった。このようなニュースには本当に心が痛む。
米国では初のアフリカ系大統領が誕生するということで変化が期待されているが、翻って国内の政局を見ると、まことにお寒い限りだ。9月には前首相が突然政権を投げ出し、党内では圧倒的多数で後継総裁に選ばれた現首相の支持率は急下降しているが、まだ政権を手放さないでいる。党利党略、面子ばかりで、国民の不満、厳しい状況などには目が向かないのか。
もちろん、日本人4人のノーベル賞受賞、北京オリンピックでの日本人選手の活躍など明るい話題も少なくなかったのだが、あまりにも暗いことが多かったためか、明るい話もかすむようだ。終り良ければすべて良しと言うが、何だかその反対で、終わり悪ければすべて悪るしのように思われてしまうような年の瀬だ。来年は少しでも良くなり、明るい話題が増えてほしいが、景気回復の方はどうも期待できないようだ。
私自身は今年、例の後期高齢者の仲間入りをしたが、この1年も風邪ひとつ引かずに過ごせたことは有難かった。これまでの運動不足が祟ったのだろう、かなり足腰が弱ってきているが、頑健ではなくても健康で1年を終えることができたことを感謝して、今年を送りたい。
蝋梅
今年もまた速く過ぎ去ったように思う。ある卒業生が言っていたが、新陳代謝が活発だと時間の経過は遅いと感じ、代謝が緩やかだと速いと感じるのだそうだ、だから年を取るにつれて1年が速く過ぎるように感じるらしい。彼は、蟻は活発に動いているから、寿命は短くても結局は長く生きていると感じているようですとも言ったが、蟻にそんな感覚があるのかなあと笑った。蟻にはゆっくりと時が流れているということなのだろう。新陳代謝と時間の感覚の関係はよく分からないし、近頃は若い人でも日がたつのが速いと感じているようだから、社会の動きが慌しいからかも知れない。昔は万事がゆったりとしていたと聞く。
今年もいろいろなことがあったが、思い返してみると明るい話は少なかったように思う。何よりも9月の米国の1証券会社の破綻から始まった金融不安に続く実体経済の不況は世界的な広がりを見せ、日本も不況の波に飲み込まれたことは大きく暗い出来事だ。大企業などは派遣労働者や期間労働者などの非正規労働者の雇用契約を打ち切り、中には寮からも退去させることも少なくなく、巷には師走の寒空に放り出された労働者が数多くいる。派遣切りとなり寮も追い出された労働者がコンビで強盗をした事件も起きている。失業率は3.9%、来年3月までに職を失う非正規労働者は8万5000人と言われる。世界トップを誇った自動車メーカーなどは好調時には非正規労働者を数多く雇用しながら、不況になると容赦なく首を切る。実に非情、冷酷で勝手なものだと憤りを覚える。労働者を消耗品のように考え、会社を支える貴重な財産、資本とは考えもしないのだろう。大儲けした時に蓄えたはずの金はどこに行ったのか、その一部でも使って何とかならなかったのかと言うのは素人考えか。
銀行の貸し渋りで小企業主達が困っている。「天気の良い時に傘を貸し、雨が降れば返せと迫る」と銀行が揶揄される所以だ。大銀行はかつて経営危機に陥った時には、公的資金を注入され立ち直ったことなど忘れたようだ。大銀行も大企業も儲け一点張りで、この未曾有の不況の時には、そのモラルの荒廃ぶりが露呈されたように思える。
残虐な犯罪も多かった。特に東京・秋葉原などでの無差別殺人の横行はひどかった。若者が「誰でもよかったから、殺したかった」というあまりにも身勝手で歪んだ理由で犯行に及んだことは、日本の社会の病的な面が露呈したようだ。やはり現在の格差社会の歪みだろうか。今、香山リカ著『私は若者が嫌いだ!』(KKベストセラーズ)を読んでいるが、その中に紹介されている若者の姿には暗然とする。若者が希望を持てない社会、若者に希望が持てない社会は暗い。
毒性の強いメタミドホスの混入した中国製餃子事件に始まり、食の安全が疑われる事例も続発し、毒性のある事故米を食用に転用した悪質な事件もあった。食品の偽装も後を絶たず、とりわけ大阪の有名高級料亭の産地偽装や料理の使い回しには世間は呆れた。廃業に追い込まれたのも当然だろう。食への不信が高まっている今、食に関わる企業のよりいっそうの高いモラルが望まれる。
自然災害も、宮城・岩手地震や、8万人以上の死者・行方不明者を出した中国四川省大地震、13万人以上の死者・行方不明者を出したミャンマーのサイクロンなど大きな災害などがあった。このようなニュースには本当に心が痛む。
米国では初のアフリカ系大統領が誕生するということで変化が期待されているが、翻って国内の政局を見ると、まことにお寒い限りだ。9月には前首相が突然政権を投げ出し、党内では圧倒的多数で後継総裁に選ばれた現首相の支持率は急下降しているが、まだ政権を手放さないでいる。党利党略、面子ばかりで、国民の不満、厳しい状況などには目が向かないのか。
もちろん、日本人4人のノーベル賞受賞、北京オリンピックでの日本人選手の活躍など明るい話題も少なくなかったのだが、あまりにも暗いことが多かったためか、明るい話もかすむようだ。終り良ければすべて良しと言うが、何だかその反対で、終わり悪ければすべて悪るしのように思われてしまうような年の瀬だ。来年は少しでも良くなり、明るい話題が増えてほしいが、景気回復の方はどうも期待できないようだ。
私自身は今年、例の後期高齢者の仲間入りをしたが、この1年も風邪ひとつ引かずに過ごせたことは有難かった。これまでの運動不足が祟ったのだろう、かなり足腰が弱ってきているが、頑健ではなくても健康で1年を終えることができたことを感謝して、今年を送りたい。
蝋梅