中国ツアーの客からのクレームのことを書いたが、クレームは何もツアー客だけのことではない。最近はあちこちでクレームが増えていると聞くのは、世相の一端なのだろうか。もっともクレーマーは昔からいて、私の友人はある百貨店のクレームを扱う係りでだいぶ苦労したようだったし、私のクラスの生徒だったO君は卒業後ある百貨店の玩具売り場を担当していた時に明らかにやくざと思われる親にクレームをつけられて土下座して謝罪したという。私も近くの百貨店で30代の妻子連れの男が、ある売り場の店員にクレームを付けた挙句に激昂して、そこにあった物を床に投げつけたのを見たことがある。同じ百貨店では身なりの悪くない60代の男が、売り場でグタグタと文句を言っているのを再三目にしたことがあるが、これなどは常習的なクレーマーだったのだろう。どうも百貨店というのは、クレーマーが横行するところなのかと思ってしまう。
百貨店はクレームを付けやすいのかも知れないが、近頃は学校、企業、公的機関、商店などでクレーマーが増え、中には暴力行為や殺人などに至るケースも発生しているてクレームが違法行為に発展するかの見極めは難しく、マニュアル的に対応できないのが現実のようだ。
大阪市天王寺区にある市交通局のバス操車場で、事故処理担当の男性職員が20歳の男に刺殺された。男は市バスとの事故トラブルを抱えていた。また、同市中央区の府赤十字血液センターの献血施設で、窓口対応にクレームをつけていた41歳の男が男性所長を刺し、大けがを負わせた事件も起きている。ふつうのクレームであれば事業者側に問題があることは少なくないようだが、それが突発的に暴力行為、犯罪を引き起こすことになっては、事業者のほうでは対策に頭を悩ませることになるだろう。
ある旅行業社の男性社員は、客から呼び出しを受けて複数人から「旅行がプラン通りでない部分があった。海外旅行に招待しろ」と言われた。こうなるとクレームというよりも、脅迫、ゆすりの類で、どうせかなり悪質な連中だったのだろう。社員はパンフレットに誤りはないと思ったが、認識の相違があったとして一部返金に応じたそうだ。してやったりとほくそ笑むクレーマーの顔が想像でき、悪い奴が得をする嫌な話だと思う。
鉄道の乗客による駅員らへの暴行なども深刻化している。「ホームの端を歩いていた客に注意したら腹を殴られた」「指定席券を持たずに乗車しようとしたので購入を求めたら殴られた」など、これはクレーマーなどではなく、単なる犯罪者だ。
学校に対するクレームも増加し、大阪などでは「モンスターペアレント」がかなりいるようだ。このことは前にも書いたが、親の中には教師よりも自分のほうが学歴が上で「偉い」と思っているのが少なからずいるようで始末に悪い。
日本人が皆そうだなどとは言えないが、サービス業に従事する者(教師もそうだが)に対しては一段と見下したような態度をとる者が少なくないように思う。商店などの店員に対して、横柄なことばと態度で接しているのをよく見かける。相手が弱い立場だと見ると横柄な態度になるのは、しょせんその人間の卑小さの表れだろう。
扱いに問題があれば遠慮なく苦情を言えばいい。その場合も相手の立場を尊重して、折り目正しい冷静な態度であるべきだ。すぐに激したり怒鳴ったりするのは、品位の低さを見せ付けるもので醜い。