蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

東の果て、夜へ

2018年05月12日 | 本の感想
東の果て、夜へ(ビル・ビバリー ハヤカワ文庫)

15歳のイーストは、ロスアンジェルスで麻薬の販売拠点の見張りをしていたが、(叔父である)ボスに命じられて年上の二人、殺し屋である弟タイ(13歳)といっしょに遥か東部のウィスコンシンへ判事を殺害しにいく。途中のカジノで仲間割れで一人が離脱し、弟のタイは常に反抗的で、イーストは命令を果たすために苦悩するが・・・という話。

飛行機や列車は本人確認等が厳しくかつ監視カメラで常に録画されているから、超遠距離の行程を車で行く、という設定は、なるほどと思った。
一方、15歳でギャング組織の一員だったり、13歳の弟が殺し屋だったり、日本だったら滑稽に思えるような設定なのだが、アメリカなら当然のものなのだろうか。

スペクタルな展開やサスペンス的雰囲気はほとんどなく、ミステリ的な味付けもなくて、ひたすらイーストの成長物語が追求される。これで面白く読ませるのだから、著者の筆力の高さが伺われる。(本作がデビュー作だが、著者は文学や創作を教える大学教授らしい)

ロスアンジェルスに帰ることが難しくなって、オハイオのペイントボール場に住み込みで働く第3部が特に印象的で、ラストも安易なハッピーエンドにしなかった(続編を書くつもりなのかもしれないが)のがよかった。

本書の原題は「DODGERS」(ドジャース)で、登場人物がドジャーズのTシャツを着てたことに由来するらしいが、その他にも含意があるらしい。しかし、(珍しく)邦題の方がかなりいい雰囲気がある。「夜へ」の意味はよくわからんが。
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レディ・プレイヤー1

2018年05月09日 | 映画の感想
レディ・プレイヤー1

近未来(2045年)のアメリカが舞台。
主人公のウェイドは、父母をなくし叔母の家に居候しているが、叔母のヒモにいじめられたりしている。ウェイドの(というかこの時代の多くの人の)生きがいは「オアシス」というゲームで、ゴーグル型のスクリーンを装着し、ゲーム世界では思い思いのアバターを作って、現実と遜色ない(というか現実よりも刺激的な)リアルな冒険や生活の体験が可能になっている。
「オアシス」の開発者ハリディは巨万の富を持ったまま死去するが、「オアシス」内にある3つのカギを見つけて宝物(エッグ)を探し出せば「オアシス」に関するすべての権利を譲ると遺言する。
ウェイドのような一個人から巨大企業までが、天文学的な「オアシス」の権益を求めて血眼でカギを求める。最初のカギの獲得条件は仮想カーレースゲームを完走することだが、ゴール前には巨大なキングコングが座り込んでいて・・・という話。

カーレースの映像が迫力満点のつかみで、その映像パワーにぼーっとなっているうちに、スピルバーグ監督が作った「オアシス」世界に誘い込まれてしまい、冷静に見ると陳腐かもしれない「オアシス」内の冒険にウェイドと共に夢中になってしまうのであった。

様々な名作や有名キャラが多数引用?されて画面に登場するのだが、その含意みたいなものがある程度(私が)理解できたのは、シャイニングとガンダムくらいだった。
ガンダムが(「オアシス」世界に)登場するシーンでは、ガンダムアバターを操る人(日系人)が「オレはガンダムでいく」みたいなセリフを(日本語で)言い、その人のVRゴーグルの画面には、極く小さな文字でガンダムのタイトル(日本語オリジナルのもの)が映っている。ガンダムをある程度知っている日本人にしか理解できない小ネタなのだが、だからこそ「こんなところまで作りこんでいるんだ」と、大いに感心させられる場面だった。

なので、そのほかの引用キャラ、引用映像にも、これくらいのレベルのこだわりや作りこみがあるはずなのだが、いかんせん予備知識不足でよく理解できなかった。解説本を付けたDVDなんかを作ってもらいたいなあ、と思った。

年老いたハリディは、スピルバーグ本人の見立てなのだろうか。
「70超えても、これくらいのものはできるんだぜ。おまえらももっと派手にやれよ」
と、若い映画人を挑発しているのだろうか。
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メッセージ

2018年05月05日 | 映画の感想
メッセージ

主人公のルイーズ(エイミー・アダムス)は言語学者。世界各地に巨大な謎の浮遊物体が出現し、各国は物体の中にいるエイリアン(イカ的な感じ?の外見で、「ヘプタポッド」と命名されている)との接触を試みるがうまくいかず、アメリカ軍はルイーズにヘプタポッドとの意思疎通を依頼する。
ルイーズは科学者のイアン(ジェレミー・レナー)とともにヘプタポッドとのセッションを重ね、彼らが書く?円環のような文字の解読を進めるが・・・という話。

今まで見たことがないアプローチの宇宙人モノで、宇宙人との軋轢や戦闘シーンはなく、アプローチする地球人側のエピソードが語られるわけでもない。
ヘプタポッドとの地味な接触シーンや、カットバックされる(最後の方まで見ないと意味が分かりにくい)ルイーズの過去の記憶シーンが長く続く。
そうかといって退屈なわけではなく、カットバックシーンの意味(ホントは「バック」じゃないんだけど)が種明かしされると、納得感が強まって観客への「メッセージ」が伝わってくるようになっている。
監督(ドゥニ・ビルヌーヴ)の編集力がとても高いことが伺われた。
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徳は孤ならず

2018年05月05日 | 本の感想
徳は孤ならず(木村元彦 集英社)

Jリーグ:サンフレッチェ広島の総監督を務めて優勝に導き、その後も大分、愛媛、岐阜で地元チームの強化や会社としての改善に携わってきた今西和男の評伝風ノンフィクション。今西さんは自分の功績を自ら語るような人ではないようで、周囲の人たちの証言からその人柄を浮かび上がらせる手法をとっている。

今西さんは、スカウティングしてきた新人に、セカンドキャリアをどう考えるのか?というところから話はじめて、対人関係に関する研修や英会話などを受けるように薦めていたという。また地元への貢献活動を非常に重視し、サッカー教室などに限らず選手を地元の集会などに数多く派遣してきたそうである。
こうしたことは、今でこそ(プロサッカー界では)当たり前の取り組みなのかもしれないが、Jリーグが始まる前からそういった活動を始めていたというのがすごい。

今西さんは、乞われてなった岐阜FC社長時代に資金調達で苦労し、(本書によると)Jリーグの事務局の圧力によって、地元自治体(岐阜FCの大株主)から石もて追われるように解任される。著者は、(サッカー関係の著書が多いとはいえ元々は硬派の記者なので、自身の取材に基づいたJリーグ事務局の汚いやり口への攻撃は非常に鋭く、かつ容赦ない。
表ヅラはとても良いJリーグやサッカー協会も中にはいって見れば、まあ普通の会社なみにドロドロしてんだなあ、ということがよくわかる。
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忍びの国(映画)

2018年05月05日 | 映画の感想
忍びの国(映画)

原作もそうだったんだけど、映画でも(特に前半は)日置(へき)大膳(伊勢谷友介)の方が主役っぽくてカッコいい。小説では冒頭部分に大膳の大弓の腕前を描写した部分があり迫力満点なので、どのように映像化されているのか楽しみだったのだが、そういったシーンはあく、合戦中に大膳が弓をひくシーンはあったけど、イマイチだった。悪いことに、並の人間には引くことすら難しそうな大膳の大弓を(織田)信雄が正確無比に放つシーンが少し後に出てきて、(大膳の大弓は誰でも操ることができるみたいに見えてしまって)ちょっとシラケた。

主役の無門(大野智)のとぼけた味はなかなかよかったのだけど、とぼけているけど、気合入れたときの忍者としての凄みみたいなものも出してほしかった。格闘シーンも冴えない感じだった。
あ、それと伊賀の12人の評定衆も冴えなかったなあ。特に百地三太夫はもっと迫力がある人をキャスティングすべきだったのでは?落語家だと真面目な顔してても次のシーンでは大笑いしてそうなムードがあるもんですから(文句ばかりですみません)
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