蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

アメリカとは何か

2023年01月29日 | 本の感想

アメリカとは何か(渡辺靖 岩波新書)

「米国は個人の自由や権利を重んじる近代啓蒙思想に立脚した実験国家である。特定の知や制度が強大な権威や権利を有することや、特定の権威や権力が固定化・世襲化することへの警戒心が元々強い」と著者はいう。
現代の先進国のうち、植民地支配から独立を勝ち取った国がそのまま続いているのはアメリカくらいで、そうしか過去からこのような思想が普及しているのは理解できる。
しかし、「警戒心」を抱いているのは具体的にいうと誰なのだろう?大統領?議員?学者?


デモが頻繁に行われたり、特段の利益誘導がなくても特定の政治家を熱心に応援したりする人が、少なくとも日本よりは多そうだから、国家のアイデンティティや政治思想について真剣に考える人もそれなりにいる、ということだろうか。


アメリカは昔から移民が多くて、昔はアイルランド系とかだったのだろうけど、今や白人よりヒスパニック系住民の方が数が多いという。中南米の国から移住してアメリカ居住になったとたんに「警戒心」を持つわけではないだろうから、国家理念が揺らいだり変わったりすることも仕方ないだろう。

トランプ政権のとき、頻繁に重要閣僚が交代した。それでも行政としては大きな支障は生じなかっし、軍隊にも動揺はなかった。それはシステムがよくできている以上に、冒頭のような思想が国民に浸透したいるからなのかもなあ、とも一方では思える。

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イリノイ遠景近景

2023年01月29日 | 本の感想
イリノイ遠景近景(藤本和子 ちくま文庫)

翻訳者でアメリカ在住の著者のエッセイ集。1992年頃に連載され、1994年頃に発行されたものが最近になって文庫化されたもの。冒頭の「平原の暮らし」の3編が特にいい。

イリノイの広大なともろこし畑に囲まれてくらしていた著者は、開け閉めできなくなった窓を修理するため、便利屋のアーニー・アダムを呼ぶ。アーニーはいとも簡単に修理をしてしまう。アーニーは大学を出てから自由な暮らしを求めて便利屋を続けている。彼にとって重要なのは音楽(アコーディオン)とフォークダンス。19人の子供を設けいている。
この、アーニーの描写がとても素敵だった。

領事館に用があってシカゴまで出かけるが、領事館は休み。しかたなく近くのデパートの喫茶店へ行く。そこには常連の老女がいて年かさのウエイトレスたちと愉快な掛け合いをしていた。

近所のドーナツ屋には、雨の日も雪の日も欠かさずそこを訪れる常連の老人たちが10人以上いた。タバコの煙にいぶされながら毎日とりとめのない話で時間をつぶしていた。

近所のYMCAのプールに付属したジャグジーは老女たちの井戸端会議の場。昨夜兄が死んだけど慌てて葬式に行っても生き返るわけでもなし、なんて会話がくり広げられる。

どれも、アメリカっぽいよなあ、と思わせる挿話ばかり。日本にはないシーンには、憧れを感じてしまう。
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権力は嘘をつく

2023年01月19日 | 本の感想
権力は嘘をつく(スティーブ・シャンキン 亜紀書房)

アメリカ軍による南北ベトナム間の紛争への介入を始めたジョンソン大統領の国防長官マクラマラは、戦局が悪化したのを見て政府内における一連の活動を記録して後世の教訓にしようと「ベトナムにおけるアメリカの政策決定の歴史」をまとめるように指示する。これが後に、国防省職員だったダニエル・エルズバーグによって新聞にリークされ、公表してきた事実と異なる政府の実態が暴かれてしまう・・・というノンフィクション。

エルズバーグはどう考えても政府の秘密を漏洩した犯罪者なのだが、リークの拡大を防ごうとしたニクソン政権の拙劣な裏工作(ウォーターゲート事件もその一部)が明るみに出て世論は彼の味方になり、判事は公訴棄却してエルズバーグは時代の英雄となった。

本書の最後に登場するスノーデンもやったことは似たようなもので、現にエルズバーグはスノーデンの行為を称賛したという。

ジョンソン大統領や側近はベトナムに介入してもうまく行かないことは十分理解していたという。しかしそれでも彼らは戦争を始めてしまい、「アメリカ初の対外戦争に破れた大統領にはなりたくない」という強い、しかし後から見れば愚かな動機のもと戦力の逐次投入を続ける。
よく、日中戦争〜太平洋戦争の日本の意思決定の拙さが指摘されるが、結局同じ人間、アメリカでも似たような局面では同じような行動をしてしまうのだなあ、と思った。

拙劣という意味ではニクソン政権の裏工作も相当なもので、「プラマーズ」(配管工)と名付けられたメンバーの手際はコメディ映画みたいなひどさだった。大統領直属のスパイ?なのだから服部半蔵率いる忍者みたいな感じなのかと空想させるが、実際にはコソ泥並だった。
もっともこれは全てバレてしまったからそう見えるのであって、現実にはうまくいっていて、かつ、明るみになっていない裏工作もまた多数あるにちがいないのだが。
エルズバーグは法を冒しているのだから、彼を妨害するためには(政権側が)不法行為で対抗するのは当たり前だ、みたいな粗雑な発想を大統領側がしているのもけっこう衝撃的。

そうは言っても、アメリカって(いい意味で)すごいな、と思える所もたくさん登場する。
NYタイムズやワシントン・ポストみたいな、巨大マスコミのオーナーが、自身が犯罪に問われうることを承知の上でリークを記事にすることを認めたところ、とか
政府がNYタイムズへの掲載差し止めの訴えを起こしたNY連邦地裁の判事がこれを否定する判決を出した、などなど。


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大河への道

2023年01月15日 | 映画の感想
大河への道

千葉県香取市役所の総務課主任の池本(中井貴一)は、同地出身の伊能忠敬を主役にした大河ドラマ誘致を知事から命じられる。大物脚本家の加藤(橋爪功)を口説いてともに伊能忠敬をテーマにした博物館を見学させる。加藤は、伊能ではなく、その死後に日本地図の完成に尽力した幕府の天文方:高橋景保(中井の二役)を主役にしようとする・・・という話。

伊能の死後約3年も幕府に(出資させるために)その死を秘した、というのは、まさしく命がけだったはず。しかし、本作ではそれを高橋に決意させるプロセスが(筋立てとしては)弱いかなあと思えた。もっとも、頼まれごとに弱そうな中井さんが演じているともっともらしく見えてしまうのだが。

脚本家を演じた橋爪さんがいい。演技というより地のままなのかも・・・と思わせるくらいの自然体。なのにひねくれた大物脚本家にしか見えないのだった。

千葉県知事役は、経験者のあの人だったら面白かったのになあ。(実際のキャストは草刈正雄)
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峠 最後のサムライ

2023年01月14日 | 映画の感想
峠 最後のサムライ

幕末、北越戦争を指導した長岡藩家老:河井継之助を描く。

事前に想像していたより随分よかった。
原作は半分くらい河井が家老になるまでの話なのだけど、ここをバッサリ削って北越戦争に絞り、説明も最低限にしたところがよかったと思う。なので史実や原作を知らないと何の話がわからないかもしれないが。

戦闘場面の描写もそれなりにリアルでよかったけど、北越戦争の本質(というか長岡藩が勝勢だった部分)は前半戦だっと思うのだがそこが省略されていたのはイマイチかも。
あと、官軍のユニフォームは日中戦争のころの陸軍みたいで(多分長岡側と見分けやすくするための演出だろうけど)工夫の余地があるかなと思えた。

実戦ではガトリング砲はさほど活躍しなかったみたいだが、映画の演出としては河井自身がぶっ放す場面をもっと派手にしたらよかったかな。

河井の従僕役の永山絢斗さんがよかった。
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