蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

2022年06月24日 | 本の感想
泡(松家仁之 集英社)

佐内薫は、息苦しい男子高の生活に馴染めず、不登校になってしまう。心配した父の浩一は、神戸の近く?の海辺の町:砂里浜でジャズ喫茶を経営している大叔父の兼定に(夏休み中)薫を預かって気分転換させてほしいと頼む。薫は、オーブフという名の喫茶店で兼定や従業員の岡田と働くうち、立ち直っていく・・という話。

親元から離れて海辺ですごす夏休み、というのは、誰にとっても魅力的だ。そこには人生の酸いもからいも噛み分けた男がいて人生を語り?、キレイなお姉さんがいろいろなことを教えてくれる・・・まあ、本作もそういう典型的ともいえる筋なんだけど、読んでいて気分がラクになってくる感じがして、とてもよかった。

兼定はシベリアの収容所帰り。東京の実家に帰ってくると、年の離れた長兄に洗脳を疑われて追われるように関西に来た。
岡田はオーブフに客として現れてそのまま居着いてしまう。経歴は語られないが、彼も帰る場所がなさそうだ。
薫は規律の厳しい男子校から逃げてきた。
3人には共通点があって、だから兼定や岡田は薫の扱い方が上手だったのだろう。

オーブフのホットドックはとてもうまそうだ。ジャズ喫茶なんて今では絶滅危惧種なんだろうけど、こんな店の常連になってみたいと思った。そういえば常連客として登場する司法書士の所作がとてもいい感じだった。
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見知らぬ人

2022年06月24日 | 本の感想
見知らぬ人(エリー・グリフィス 創元推理文庫)

クレアはイギリスのサセックスのタルガース校の英語教師。15歳の娘(ジョージア)がいるが、今だに人目をひく超美人。タルガース校にゆかりがあるビクトリア朝時代の作家:ホランドの評伝を書いている。
クレアの同僚の教師二人が殺害される。殺害方法はホランドの名作「見知らぬ人」の見立て殺人の様相を呈している。
女性刑事のハービンダー・カー(インド系でゲイ)はクレアの周囲を捜査するが、やがてクレア自身にも犯人の手が迫る徴候が見られ・・・という話。

本格、というわけではないけど、正統派のフーダニット。著者自身も創作教育に携わっていたそうで、そのせいか伏線も手がかりも(教科書的に)十分にあってフェアな構成なのだけど、真犯人にはけっこう驚かされた。

ミステリとしてはよくできているのだけど、どうも登場人物が類型的な感じで、キャラを重視する人にとっては、好みではないかもしれない。
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Mr.ノーバディ

2022年06月22日 | 映画の感想
Mr.ノーバディ

会計士のハッチ・マンセル(ボブ・オデンカーク)は、かつては腕利きの裏工作員だったが、今は正体を隠して味気ない日常を送っていた。ハッチの自宅に強盗が押し入るが、(素人であることを見抜いて)無抵抗だったハッチを家族は白い目で見られたりして、ちょっとふてくされていたハッチは、ついつい街中の不良をノシてしまうが、その中にロシアン・マフィアの親分の弟がいて・・・という話。

あまりにもストレートすぎる設定と展開で、ストレス解消には役立つかも。

この手の「能ある鷹は爪を隠す」的主人公だと、ハッチ役の人がハンサムでスマートな役者で、そういう人がしょぼい日常を演技することが多いと思う。
始めからスーパーマン的能力を持っているハッチ役の外見や所業が最後までショボい(失礼)のが斬新なような気もした。
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クライ・マッチョ

2022年06月22日 | 本の感想
クライ・マッチョ

マイク(クリント・イーストウッド)は、ロデオの名手だったが、今は引退してカウボーイ?をしている。昔のボスに、別れた元妻とメキシコにいるボスの息子をテキサスに連れ戻すよう依頼されるが・・・という話。

今までクリント・イーストウッド監督の作品のほとんどを見てきた。どれもエンタテインメントとして優れた出来だったが、御本人が主役級で出演するのはさすがに厳しいかなと、昨今は思っていた。

本作に至っては、さすがにこの役を90歳すぎの人が演じるのはキツイと思えた。

でも、イーストウッドが監督でマイク役が壮年の人気役者であったとしても、この脚本ではキビシイかな?とも思え、70歳を超えた往年の人気プロレスラーがリングでゆったり?と闘う姿を楽しむように?、90歳を超えたイーストウッドが監督・出演している新作映画を見られること自体に価値を見出さないといけないのかも。
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鳩の撃退法(映画)

2022年06月21日 | 映画の感想
鳩の撃退法(映画)

直木賞作家の津田伸一(藤原竜也)は、編集者の鳥飼(土屋太鳳)から新作をせかされるがスランプで書けない。今はデリヘルの送迎の運転手をやっている。再起を期待する古本屋の主人は津田に遺品としてキャリーバックを残す。そこには現金3000万円が入っていたが、そのうちの一枚を使おうとして偽札であることがわかる。その偽札をめぐって地元の裏社会の支配者:倉田(豊川悦司)とその配下の秀吉(風間俊介)が暗躍する・・・という話。

原作は1回読んだだけでは十分に筋が理解できないほど複雑な構造で、「これを映画化するのはムリがあるのでは?」と心配?だった。
本作は原作に忠実とは言えないが、根本は変えることなく、かつ、2時間程度で予備知識無しの人が見て十分に楽しめるように、うまく出来ていたと思う。むしろ、映画を見てから原作を読んだ方がいいかもしれない。

配役がよくて、津田のロクでなし感や倉田のラスボス感がよく出ていた。
土屋さんが出演する映画は初見のような気がするが、私の先入観より遙かに上手だった。
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