蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

残月記

2024年11月29日 | 本の感想
残月記(小田雅久仁 双葉社)

月にまつわる幻想譚の中編を3つ収録。

「そして月がふりかえる」は、突然自分の身代わりの男が出現して、家族全員が自分を他人だと認識していることを知った男の話。

「月景石」は、仲がよかった叔母からもらった風景石(模様が風景のように見える石)には月に生えた巨木の模様があった。その模様のような異世界?を経験した女の話。

表題作は、月昴症という、月の満ち欠けによって気分や体調が変わり、陰月には適切な治療をしないと死に至る病気にかかった主人公が、格闘技大会で台頭する話。

著者は極端な寡作だが、発表した作品(3冊のみ?)は、どれも高く評価されている。
デビュー作の「増大派に告ぐ」も読んだことがあるが、相性が悪いのか、イマジネーションの広がり方についていけなくて、読み進みにくい感じがあった。

本作では「そして月がふりかえる」は、不可思議な状況に陥った男の行動が、なるほど、と思えるもので、サスペンスとしても楽しめたが、他2作は、「増大派に告ぐ」と同じで、幻想的なストーリー展開にうまく乗れないまま終わってしまった感じ。著者のノリ?に同調できる人にはとてもおもしろい話なんだろうとは思うが。
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こちらあみ子(映画・小説)

2024年11月22日 | 映画の感想
こちらあみ子 映画・小説(今村夏子・ちくま文庫)

小学生のあみ子は、落ち着きがなく、学校にも行ったり行かなかったり。父はやさしいが、自宅で習字教室を開く母はどこか他人行儀。その母が妊娠して弟か妹ができることになるが・・・という話。

映画を見てから原作を読んだ。もし先に原作を読んでいてこの小説を映画化すると聞いたら「無謀だ・・・」と感じたと思うが、映画は驚くほど原作に忠実でその持っている奇妙でやや不気味なんだけどカラッとしているムードをとてもうまく再現できていたと思う。

今村さんの作品を読むのは4冊目だが、世間からするとちょっと異常なところがある人を、世間並の人の視線から描いて、そのうちどちらが正常なのかがわからなくなるような内容が多いかな、と思えた。
本作も、小説にしても映画にしても、あまり人気が出るような内容ではないと思えるのに、いずれも評価が高く、今村さんの(読書界?における)人気が非常に高いのは、皆、何が正しくて、何が間違っているのかわからなくなっていることに不安を感じているせいではないかと思った。

映画では父親役の井浦新さんと、あみ子の臨席の男の子が、特によかった。
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勁草

2024年11月22日 | 本の感想
勁草(黒川博行 徳間文庫)

橋岡はオレオレ詐欺集団の一員で主に受け子の統括を担当していた。知り合いの矢代が刑務所から出所してきて二人で暴力団が仕切る賭場で大きな借金を作ってしまう。二人は詐欺集団のリーダー格の高城からカネを引き出そうとするが・・・という話。

本作を原作とする映画「BAD LANDS」を見たけれど、今ひとつ話が入ってこなかったので、小説を読んでみた。なんと、黒川さんの作品を読むのは(多分)初めて。とても読みやすかったので他の作品も読んでみたくなった。

映画とは、オレ詐欺集団の話、という意外ほとんど共通点がない、といってもいいほどで、映画では橋岡役は安藤サクラで、矢代役は山田涼介なので、キャラとしてかなり充実?している(有体に言って、キャラの設定としては充実しているが全く活かしきれていなかったけど)のだが、本作では主人公の二人はほとんど空っぽ。犯罪にためらいが全くなくて目先の利益しか考えていない。橋岡の方はまだ頭がまわって用心深いが、矢代の方は行きあたりばったり。
しかし、逆にそこが魅力にもなっていて、二人の中身のない会話も妙にリズミカル?で(ストーリー自体はノワールなんだけど)読んでいて妙に楽しい気分になれた。

会話の妙といえば、二人を追う刑事のバディ:佐竹と湯川の間のそれの方が、よりレベルが高くて?面白い。犯罪小説やミステリでは、犯人方のバディが仲良くて警察・探偵方のバディがいがみ合っている、というパターンが多いと思うが、本作は真逆で、橋岡と矢代は信頼が皆無だが、刑事の二人は息がぴったりで、二人が捜査のために各地を巡っていろいろな食事をするグルメものという側面がないでもない。
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なずな

2024年11月20日 | 本の感想
なずな(堀江敏幸 集英社)

菱山秀一は45歳独身で地方紙の記者。弟夫婦の生後2ヶ月の娘なずなを(夫婦が病気や怪我で育児できなくなったので)預かることになる。未経験の乳児の世話に苦戦するが、新聞社は時短&在宅を認めてもらい、近所の医者やいきつけの居酒屋のママに助けられ、育児に慣れていく・・・という話。

2011年末ころ、本の雑誌ランキング1位というオビの宣伝文句にひかれ、また、著者らしくない?分厚いフィクション?ということで買ったのだが、以来十数年、全く読まずにいた。
引っ越しするときに発見して、10年以上経つのに、1ページも読まずに押入れの奥にあったので、出来立ての新刊のような外観に驚き?読んでみた。

フィクションなんだけど、400ページ以上あるのに、事件や波乱は全く起こらず(冒頭でボヤ未遂があるくらい)時間がゆったりゆったり流れて、主役のはずのなずなの登場場面は非常に短くて、菱山さんの子育てエッセイみたいな感じ。
そのくせ、読んでいても飽きず、毎日寝る前に30ページずつ読んだのだが、割と幸せに入眠することができた。
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パリわずらい 江戸わずらい

2024年11月17日 | 本の感想
パリわずらい 江戸わずらい(浅田次郎 集英社文庫)

浅田さんの作品で初めて読んだのはエッセイシリーズの「勇気凛々ルリの色」。主に作家になるまでとなりかけのあたりの経験を綴ったものなのだけど、これが滅多やたらに面白かった。その後、「蒼穹の昴」を読んで、エッセイとはかけ離れた真面目さ?とスケールに圧倒されて、本当に同一人物が書いたのか?と疑ってしまった。
その後も小説はたいてのものは読んで、どれも面白かったのだけど、なぜかエッセイは読むことがなかった。

本作は、航空会社の雑誌(機内誌?)に長期連載されているもの。なので、押しも押される大作家になって編集者同伴のアゴアシ付海外旅行談などばかりなのでは?人気が出た作家のエッセイの陥りがちなパターンなのでは?いやあ、あけすけな失敗談が面白かったんだけどな。。。などと思って手が出ていなかったが、図書館で見かけて読んでみた。

たしかに大名旅行の話もあるんだけど、「勇気凛々・・」ばりの自虐?ネタも豊富で、電車の中で読みながら思わず笑ってしまえるような面白さは健在だった。
面白すぎて「これは実話ではないのでは?」と思える物も多いのだが、小説家のエッセイなので「いやたまに創作も交えています」というのも趣きだと思える。

代々?いいかげんに決めてきた浅田家の家紋の話「家紋のゆくえ」

著者自らがそうだという金縛りに関する経験を綴った「カナシバリ同好会」

三連単で大穴をあけたはずが・・・という「貴族的ふるまい」(これはあまりに内容がベタなのでかえって実話かも)

変わった形の郷土自慢「続・消えた2千円札」

最も爆笑したのは最後の「真冬の帰り道」。→はしごを外された友人が「裏切られたカエサルのような表情」をしていた、という表現はお見事。
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