蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

オッペンハイマー

2024年09月30日 | 映画の感想
オッペンハイマー

原爆開発を指導した理論物理学者のロバート・オッペンハイマーの開発過程と、いわゆる赤狩り時代に秘密の聴聞会でソ連の協力者ではないかと追求された経緯を描く。

オッペンハイマー(キリアン・マーフィー)がソ連のスパイではないかと疑われて聴聞をうけた事象はオッペンハイマー事件と呼ばれるらしいのだけど、その史実や彼を陥れようとした原子力委員会の長;ストローズとの対立のエピソードは、アメリカでは相当に有名なのだろう。最低限の説明で時系列を無視してストーリーが積み重なるので、事件について全く無知の私は、途中まで筋を追うことができずに往生した。

アメリカ軍は、核兵器の開発を促進するため、オッペンハイマーの意見を受け入れて無人の荒野(ロス・アラモス)に開発研究だけを目的とした街をまるごと一つ作ってしまう。アメリカという国のプロジェクトに関する考え方がよくあらわれているなあ、と思った。実際、理論面でも実証面でもかなり先行していると思われていたドイツよりも先に実用化できたのだから、実際に効果があったのだ。
日本の核兵器開発を描いた映画「太陽の子」をみると(史実通りかどうか不明だが)小さな大学の研究室で、個人頼みで推進しようとしてたのだから、スケールが違いすぎて比べ物にならない。

オッペンハイマーは、原爆による人的被害の深刻さに苦悩していたそうなのだが、本作ではあまりそういう場面は長くなかったし、クライマックスは核実験の成功シーン。割合地味な内容だし3時間という長尺なのにアメリカでは大ヒットしたそうなので、核兵器に関する受け止め方は彼我でかなり差がありそうだ。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

野ブタ。をプロデュース(TV)

2024年09月29日 | 映画の感想
野ブタ。をプロデュース(TV)

木皿泉さんのエッセイが好きで、出版されているものはたいてい読んでいるのだが、脚本した作品を見たことはほとんどなくて、出世作といわれる本作を見てみたいと思っていた。
長年通ったレンタルビデオ店が閉店すると聞いて、なぜか最後に本作4本を借りてみた。多分10年くらい誰も借りていなかったんじゃないかと思う。

東京下町の高校生の桐谷修二(亀梨和也)は、社交性抜群の人気者。学校一の美人でバスケ部のキャプテンのまり子(戸田恵梨香)が毎日弁当を作ってくれるという誰もがうらやむ存在だが、本人は虚しさを抱えている。
同じクラスの草野彰(山下智久)は企業オーナーの息子だが、跡を継がせようとする父と対立し、知り合いの豆腐屋に下宿していた。
転校生の小谷信子(堀北真希)は、クラスの坂東らにいじめられている。修二と彰は、面白半分に小谷を人気者に仕立てようとするが・・という話。

学校の先生などが演じるコメディタッチの部分をたくさん挿入してまぶしているものの、テーマは、アイデンティティの探索という重いもので、信子の最初の友達だった蒼井(柊瑠美)のサイコな正体は、けっこう迫力のある怖さだった。

亀梨和也と山下智久は、今の姿とはかけ離れた見かけで、20年近く前の風俗もあいまってか、有体にいうと山出しにみえる。
しかし、
8話あたりで、人気者だった修二がある事件をきっかけにクラス全員から無視されるあたりの複雑な心象を演じる姿は、一皮むけた?と短期間での成長を感じさせた。
とぼけたキャラだった彰も、信子への恋心が明らかになるころから、人格が確立?して魅力が増した。

キャスティングからして、最後に信子の美貌が花開くという筋に(普通のドラマなら)収束すると思うのだけど、修二や彰と違っていつまでたっても一皮向けなくてうつむいたまま、という意外性に満ちた?展開も木皿脚本ならでは、なんだろうか。っていうか、堀北さんおよび事務所とかがよく了承したもんだなあ。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

文にあたる

2024年09月29日 | 本の感想
文にあたる(牟田都子 亜紀書房)

著者は、司書をやっていたが販売業に転職、その後出版社所属の校正者になったあと、フリーの校正者になったそう。フリーの校正者なんてあるんだ、と初めて知った。

今どきは校正を経ないで出版される本もあるそうで、校正者業界?もなかなか厳しいらしい。そういえば大手出版社から出たものなのに誤字だらけで回収になった本とかあったような。

ジャンルごとに専門の校正者がいる場合もあるそうで、典型的なのはレシピ本。ちゃんと料理ができるのか検証したりするそうである。まあ、塩の分量とかで語字があったりしたら台無しになっちゃうもんね。

出版社などに属する校正者は、最初は校正そのものでなくて著者略歴など(こういうのを「付物」と業界では呼ぶらしい)を書くことから始まるとのこと。著者略歴って著者本人が書くものだと思ってた。

文学作品では、故意に文法的に正しくない表現を行う作家もいるそうで、校正者泣かせだという。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

じゃむパンの日

2024年09月29日 | 本の感想
じゃむパンの日(赤染晶子 PALM BOOKS)

著者は芥川賞受賞者で故人。京都生まれで大学は北海道、その後京都に戻って就職したらしい。それぞれの地における思い出を中心にしたエッセイなのだけど、内容がかなり文学的というかシュールで、ついていくのがけっこうしんどかった。

祖父と祖母の思い出話(苦労して内職?の縫製(ミシンかけ)で一家を支えて祖母の話が特によくて作品化してもよかったのではないかと思った。もしかして既に小説になっているのかもしれないが。。。未確認)が特によかっった。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

カラオケ行こ!(マンガ、映画)

2024年09月29日 | 映画の感想
カラオケ行こ!(マンガ、映画)

原作者(和山やま)を知ったのは「女の園の星」。絵柄と正反対?、かつ、今どき珍しい?ギャグだけ?で構成されたナンセンスな内容が、ほのかな懐かしさもあって素晴らしかった。寡作なので他の作品も全部読んだのだけど、本作は成田狂児のキャラが際立っていた印象があった。

その狂児に綾野剛はちょっとどうかな、と思ったのだが、マンガをそのまま3次元化したような出来栄えで感心した。行動は完全にギャグなのに、ヤクザとしての狂気や迫力がそこはかとなく漂っているのがいい。
さらに本作のキモであるカラオケ歌唱シーンも素晴らしい。

原作ではあまり描かれなかった岡聡実の家庭の様子の描写に相応の時間が割かれていて、母役の坂井真紀がよかった。最近、よく見かけるけど、なんというか若い頃よりキレイに見える。

聡実のもう一つの部活動は原作には全く登場しない映画オリジナルなんだけど、それだけに?練りに練られた?設定で聡実の不可思議さ?を浮き彫りにしていた(ビデオデッキの秘密もよかった)。その聡実は、原作のビビリの泣き虫とは反対のツンツンしたキャラなんだけど、クライマックスのカラオケシーンは同じように盛り上がっていた。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする