子どもに学ぶ言葉の認知科学(広瀬友紀 ちくま新書)
言語学者の著者が、自分の子供の小学生時代の漢字ドリルなどの宿題でやらかした(というくらい、間違い方が面白い)失敗を例に、人間はどのようにして言葉を認識して習得していくのかを考察している。
子どもの言い間違いの典型として挙げられているのが、「死ぬ」を「死む」と言ってしまうこと。これは「読む」とか「飲む」のようにマ行で活用する動詞はたくさんあるのにナ行で活用する動詞はほとんどないため、子どもは大人が話すのを聞いていて、死◯もマ行で活用するに違いない、と推測するためだという。日本語に限らず、英語でもあることで、典型として、goの過去形をgoedと言い間違えるそうだ。
言われてみるまで気づかなかったが、「日本人の子供でも例えば中国語環境で育てられれば中国語を話すように、またその逆も成り立つように、人間の脳はどの言語でも獲得可能な機能を持っています。同様に、獲得した言語知識を運用するための人間の脳内の文処理装置だって、その人の身につける言語が何語であろうと、性能や初期状態の性質的には同じものが備わっている」というのは、すごいなあ、と思えた。
これは恐らく、言語に限ったことではなくて、人間(というか生物)の環境順応能力は素晴らしく良くできているのだろう。
日本人が英語を習う上でやっかいなものの一つに関係代名詞があるが、本書によると、関係代名詞があることで、そこから先が関係節であることが明示されることは文意を読み取る上でとても優れた働きであるそうだ。日本語ではどこからが関係節なのかがとてもわかりにくく、日本語習得の障害の一つなのらしい。
著者の長男の珍回答?の一つに、「筆者の説明のしかたで、いいな、分かりやすいな、と思ったところはありましたか」という問題に「ありました」と回答した、というのがあった。そういう箇所を上げなさい、というのが設問の趣旨なのだが、そう言われなくても大人はそう解釈できる。
「話し手と聞き手の間には、つねに一定の了解事項があり(中略)必ずしも言葉どおりに表現されない内容のやりとりが可能なのです」
似たような話で、
熱湯風呂にまたがって「絶対押すなよ」と叫んでいる人の真意は(多くの日本人には)明白だが、現時点でのAIに正しく判断させるのはとても難しいそうで、暗黙の了解みたいな機微は、今のところ人間だけの領域みたいだ。
著者の長男の回答のうち、最も面白かったのは・・・
「太」と使って文を作る、という問題に対して「ビールをのめば太るけど芋じょうちゅうなら太らない」と回答したもの(母がよく言うセリフなのだろう)。