やめるな外科医(中山祐次郎 幻冬舎文庫)
雨野隆治は30歳になり、依然牛ノ町病院に勤務している。難しい手術もこなせるようになったが、多忙であることは変わりなく、恋人のはるかともなかなか会うことができなかった。富士山に一緒に登頂したりして親しくなった末期癌患者(治療自体は他の病院で行われている)の葵とボウリングに行った帰りをはるかに見られてしまい・・・という話。
本シリーズでは、医者の失敗例が何度もストーリーとして登場するが、本作では雨野が手術中に糸で結んだ血管の糸が外れてしまい、体内で大量出血して再手術した、という話が描かれる。
「糸ってそんなに簡単に外れたりするんだ・・・」とちょっと怖くなったが、もっと怖いのは、(物語の少し先で)雨野を励まそうとしたベテランの看護師が、再手術なんてよくあること・・・みたいなことを言うことだ・・・
こういう場合、医師は正直に「失敗しました」と言ってくれるものなんだろうか?もちろん、物語の中では雨野の上司が医療事故として対応するのだが、現実の世界では、相手は素人なんだから、うやむやにして誤魔化したくなるのが人情のような気もする。
末期癌患者が死に至るまでのプロセスも(シリーズの他の刊含め)何種類か描かれていて、しかもとてもリアルかつ詳細なので、これも怖くなるのだが、医者にしてみると、それが日常であることも、うまく表現されていたように思えた。
患者にしてみれば、全身麻酔するような手術なんて人生の一大事だが、執刀する方は毎日(どころか1日何回も)やっていることなんだ、と思うと、手術を受けるときに多少、気が楽になるかも???