蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

決戦!大坂城

2018年12月29日 | 本の感想
決戦!大坂城(葉室麟ほか  講談社)

大坂冬・夏の陣にまつわる武将たちを主人公にした短編集。

関ケ原や大坂城攻防戦のように史料が豊富で登場人物に魅力があるテーマは、これまでさんざんにいろいろな見方からいろいろな人物を主人公にして書き続けられているので、人物や舞台だけが史実であとはほとんどフィクション、みたいにするか、あまり知られていない人物の話にしないと、歴史小説を読み慣れた人には退屈になってしまう。

講談社の「決戦!」シリーズは、当代の人気歴史作家をそろえて、ある意味手あかのついたテーマのもと、書下ろしで競作させるという、作家にとってもけっこうシビアな条件設定になっている。

「鳳凰記」(葉室麟)は淀殿が主人公。冬の陣は淀殿の方から仕掛けたという設定が目新しい。

「日ノ本一の兵」(木下昌輝)は真田幸村が主人公。夏の陣で真田勢を率いたのは影武者の幸村で、本人はある目的をもって徳川陣にいたという設定。真田昌幸は次男の幸村(信繁)を後継として期待していた、という物語が多いが、本作では長男の信幸が跡継ぎの本命で、上杉家・豊臣家などに寄寓していた信繁はスパイ役でしかなく、冷遇された信繁は亡父や兄を驚かせるような手柄を求めていた、としている点が斬新。オチもなかなかよくて、本作が本書の中で一番面白かった。

「五霊戦鬼」(乾緑郎)は徳川方の武将:水野勝成が主人公。さほど有名でない人物を主人公にし、設定もSF風(勝成が伴天連からもらった死者を蘇生させるゾンビ化薬?が登場する)という両面建て(?)の上に、道明寺合戦における伊達の味方射ちの謎解きもするという意欲作。勝成の微妙な立場はよく描かれていて宮本武蔵が登場するのも楽しいのだが、ゾンビ化薬という設定が生かし切れていないような気がした。

「忠直の檻」(天野純希)は家康の孫(結城秀康の子)の松平忠直が主人公。良血なのに秀忠の対抗馬なりうるので冷遇されているという設定。私的には忠直って「バカ殿様」の典型のようなイメージがあるのだが、本作では思慮深い人物として登場する。大阪夏の陣の後、忠直はお家騒動を起こして追放されてしまうのだが、これとても幕府の陰謀だった、というのはちょっと不自然かなあ、と思えた。

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サラバ!

2018年12月24日 | 本の感想
サラバ!(西加奈子 小学館)

圷歩は父の赴任先のイランで生まれ、父の転勤につれて大阪、エジプトへ行き、父母の離婚で母の実家がある大阪に移り、大学にはいって東京に住み着く。歩はイケメンで勉強もスポーツもそこそこできて女の子にはモテまくり、大学時代からライターとして活躍しはじめ、そのままカルチャー誌の売れっ子ライターになる。
完璧な人生を送っているように見える歩だったが、奇矯な行動がめだち引きこもりになった姉、離婚後何度も男を変える母、退職後出家してしまった父、と家庭環境は破滅的な状態であった。やがて歩自身にも深刻な悩みが生じる事態がおこり・・・・という話。

非常に世評が高い本作だが、上巻を読んでいるときは「そこまですごくないんじゃない?」という感じだったし、なんか文体も主人公のキャラも村上春樹風じゃないかなあとも思えた。
しかし、下巻にはいって歩の家族関係が崩壊していくあたりからスピード感が出て来て、歩自身も身を持ち崩していく(その原因は冷静に考えると笑っちゃうようなものなのだが)過程はめくるめく?ジェットコースター感覚で、小説世界に引き込まれてしまった。
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3時のアッコちゃん

2018年12月24日 | 本の感想
3時のアッコちゃん(柚木 麻子 双葉文庫)

澤田三智子は商社のマーケティング担当契約社員。マーケティングといっても実質的な仕事は会議のアテンド程度。ある案件が停滞しているとき、旧知のアッコさん(黒田敦子。スムージーやポトフを売る外食チェーンのオーナー?)が会議にアフタヌーンティー導入を提案する・・・という話。アッコさんが登場する2編と関西を舞台にした2編を収録する短編集。

表題作は「そんなにうまくいくわけないでしょ」という感じだが、「メトロのアッコちゃん」(過労死寸前のOLをスムージーで救う話)は、ちょっと身につまされる感じがあって、しんみりした。

「梅田駅アンダーワールド」は就活中で面接に行こうとしている女子大生が梅田駅の地下街で迷う話。うーん、昔梅田にはよくいったけど、どこまで迷路じゃなかったけどなあ。もっとも20年前の話なのでその後発展拡張したのかもしれないが。
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錆びた滑車

2018年12月24日 | 本の感想
錆びた滑車(若竹七海 文春文庫)

不運な探偵:葉村晶シリーズ。

葉村の新しい大家の孫の青沼ヒロトは交通事故にあい、事故直前の記憶を失っていた。ヒロトに事故当時の自分の行動を調べてほしいといわれた葉村は、調査を開始するが・・・という話。

多くの探偵シリーズものと同じく、私にとって本シリーズは、ストーリーよりも、主人公葉村の生き様みたいなものを楽しむことに主眼をおいて読んでいるものの、本作は筋立てがかなり複雑で、登場人物が多く、伏線(らしきものも含め)が多いので、読み進むのに少々骨が折れたし、(それが売り物とはいえ)いくらなんでも本作での葉村はタフネスすぎるような気がした。

恒例?となっている巻末のミステイ本の紹介もうれしいのだが、文庫に挟み込まれた、シリーズを紹介したパンフレットもかなり力がはいっていてとても楽しめた。
例えば、電子書籍の最後にこのパンフレットと同じ内容のものが閲覧できるようになっていたとしても、あんまりうれしくなくて、紙の本に別の印刷物として挟み込まれているところが魅力的なんだよなあ。

作中のミステリ専門古書店:MURDER BEARのオーナー富山のように、著者も(電子化されていない)紙の本を愛しているであろうことがしのばれた。

なので、自作でも新しいパンフレットが挟まれていたりしたら、(まんまと著者および出版社の目論見に乗せられて)刊行されたらすぐ買ってしまうと思う。
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小暮写眞館

2018年12月16日 | 本の感想
小暮写眞館(宮部みゆき 講談社文庫)

高校生の花菱英一の両親は古びた写真館を買い取って自宅にする。その写真館には前の持ち主(小暮さん)の幽霊が出るという噂があって、近所の娘が心霊写真を持ち込んで謎解きを頼まれたれする。4話のオムニバス形式の大長編。

宮部さんの現代ものなので、前の三編で心霊モノとみせかけといて最後の一編で謎解きをするのだと思っていたら、最後まで普通のほのぼの小説でミステリでもサスペンスでもなく、ちょっと拍子抜け。
それでも抜群のリーダビリティで、文庫本上下巻合わせて1000ページの長さも気にならない読みやすさ。特に英一の弟の光(ピカちゃん)のキャラがいい。こんなこまっしゃくれた小学生が本当に身近にいたらムカつくと思うけど。
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