赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま (48)
会津の初夏
木々の葉が新緑から深い緑に変わる。
山藤や桐の花が咲くと、会津に夏がやってくる。
川霧が発生するのもちょうどこの頃から。
梅雨までの短い間。会津はひとときだけ、初夏の色彩に染まる。
「市さんが引き取ってくれたのか。それはまた好都合。
駅前だし、喜多方からのバスの便もいい。
チョコチョコ遊びに来るのに、ちょうど手頃な場所だ」
「チョコチョコ来られるほど、暇なのですか?。恭子さんは」
「夏の予選に負けてしまうと、3年生の部活はそれで終わり。
あとは進学に備えて、みんなそれぞれ準備に入る。
高校3年生の夏休みはすべてのことから解放されて、気兼ねなく遊べる、
一番良い瞬間なのよ」
「そんなものですか・・・高校生活というものは」
「紫陽花が咲き始めると、会津に本格的な梅雨がやって来る。
お前。ユリの花は好きかい?。
会津にはオトメユリの群生地があるんだよ」
「オトメユリ?。はじめて聞きます。
山百合とは、また別の種類になるのですか?」
「山百合の花は、大きめでほとんどが白。
オトメユリは、別名を姫早百合(ひめさゆり)と呼ばれている、
山間地に咲く特別なユリだ。
宮城県の南部と、新潟、福島、山形県の3県が接している飯豊連峰の
吾妻山、守門岳周辺に群生する貴重な花だ。
花は薄いピンク色。ヤマユリのような斑点はない。
花の香りは、甘くてとても濃厚だ」
「群生地があるのですか。壮観でしょうねぇ・・・」
「見たいかいお前?。じゃ、今度のお休みに見に行こう。
ただし本格的な山歩きになる。浴衣じゃ無理だ。
持っているかい、お前。山歩きができるような洋服を」
「そうなると、登山用の靴も必要になりますねぇ。
大丈夫です。お母さんからもしもの時にと、お金を預かっています」
「馬鹿だねぇ。そんなもんにお金を使ってどうすんの。
足のサイズはいくつだい?。あたしのが履けそうなら、貸してあげる」
「9文半か、 9文7分です」
「尺貫法かい。それじぁ、あたしの方が分かんないよ。
前に教わったような気もするけど、センチに直すとサイズはいくつだい?」
「9文半は、22.5Cm。9文7分は、23Cmです」
「ふぅ~ん。23センチなら大丈夫だ。
山登りの装備も必要になるな。でも大丈夫。全部貸してあげるから。
じゃ行こうか。オトメユリが咲いている飯豊山へ」
飯豊山(いいでさん)は、飯豊山地にそびえる標高2,105 mの山。
地元では飯豊本山と呼ばれている。
磐梯朝日国立公園の中に位置し、高山植物の群生地をたくさん持っている。
日本百名山のひとつに数えられている。
最高峰は、標高2,128 mの大日岳。
飯豊山は山形県の小国町と、新潟県の阿賀町の県境に位置している。
福島県側から山頂を経てさらに御西岳へ至る細い登山道が、福島県喜多方市の
所有になっている。
山頂も、喜多方市。
明治の廃藩置県のとき、飯豊山周辺は新潟県に編入された。
しかしこの時、飯豊山を神社宮とする福島県から、猛烈な反対運動が発生した。
参道にあたる登山道と山頂を、福島県に編入し直すことで、騒動が決着した。
こうした経緯があるため、飯豊山は特異な登山道を持っている。
福島県の地図をひろげると、そのことがよくわかる。
喜多方市の北部から飯豊山にむかって、髪の毛のような県境が
にょろにょろと新潟県の中を伸びていく。
(49)へ、つづく
落合順平 作品館はこちら
会津の初夏
木々の葉が新緑から深い緑に変わる。
山藤や桐の花が咲くと、会津に夏がやってくる。
川霧が発生するのもちょうどこの頃から。
梅雨までの短い間。会津はひとときだけ、初夏の色彩に染まる。
「市さんが引き取ってくれたのか。それはまた好都合。
駅前だし、喜多方からのバスの便もいい。
チョコチョコ遊びに来るのに、ちょうど手頃な場所だ」
「チョコチョコ来られるほど、暇なのですか?。恭子さんは」
「夏の予選に負けてしまうと、3年生の部活はそれで終わり。
あとは進学に備えて、みんなそれぞれ準備に入る。
高校3年生の夏休みはすべてのことから解放されて、気兼ねなく遊べる、
一番良い瞬間なのよ」
「そんなものですか・・・高校生活というものは」
「紫陽花が咲き始めると、会津に本格的な梅雨がやって来る。
お前。ユリの花は好きかい?。
会津にはオトメユリの群生地があるんだよ」
「オトメユリ?。はじめて聞きます。
山百合とは、また別の種類になるのですか?」
「山百合の花は、大きめでほとんどが白。
オトメユリは、別名を姫早百合(ひめさゆり)と呼ばれている、
山間地に咲く特別なユリだ。
宮城県の南部と、新潟、福島、山形県の3県が接している飯豊連峰の
吾妻山、守門岳周辺に群生する貴重な花だ。
花は薄いピンク色。ヤマユリのような斑点はない。
花の香りは、甘くてとても濃厚だ」
「群生地があるのですか。壮観でしょうねぇ・・・」
「見たいかいお前?。じゃ、今度のお休みに見に行こう。
ただし本格的な山歩きになる。浴衣じゃ無理だ。
持っているかい、お前。山歩きができるような洋服を」
「そうなると、登山用の靴も必要になりますねぇ。
大丈夫です。お母さんからもしもの時にと、お金を預かっています」
「馬鹿だねぇ。そんなもんにお金を使ってどうすんの。
足のサイズはいくつだい?。あたしのが履けそうなら、貸してあげる」
「9文半か、 9文7分です」
「尺貫法かい。それじぁ、あたしの方が分かんないよ。
前に教わったような気もするけど、センチに直すとサイズはいくつだい?」
「9文半は、22.5Cm。9文7分は、23Cmです」
「ふぅ~ん。23センチなら大丈夫だ。
山登りの装備も必要になるな。でも大丈夫。全部貸してあげるから。
じゃ行こうか。オトメユリが咲いている飯豊山へ」
飯豊山(いいでさん)は、飯豊山地にそびえる標高2,105 mの山。
地元では飯豊本山と呼ばれている。
磐梯朝日国立公園の中に位置し、高山植物の群生地をたくさん持っている。
日本百名山のひとつに数えられている。
最高峰は、標高2,128 mの大日岳。
飯豊山は山形県の小国町と、新潟県の阿賀町の県境に位置している。
福島県側から山頂を経てさらに御西岳へ至る細い登山道が、福島県喜多方市の
所有になっている。
山頂も、喜多方市。
明治の廃藩置県のとき、飯豊山周辺は新潟県に編入された。
しかしこの時、飯豊山を神社宮とする福島県から、猛烈な反対運動が発生した。
参道にあたる登山道と山頂を、福島県に編入し直すことで、騒動が決着した。
こうした経緯があるため、飯豊山は特異な登山道を持っている。
福島県の地図をひろげると、そのことがよくわかる。
喜多方市の北部から飯豊山にむかって、髪の毛のような県境が
にょろにょろと新潟県の中を伸びていく。
(49)へ、つづく
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