赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま (50)
登山前の、ノーパン姉妹

「かつては女人禁制のお山であったと、市奴姐さんから伺いました」
「知っているよ。
そのむかし。女人禁制の掟を破って入山した女がいる。
怒った山の神が、石に変えてしまったという伝説は、有名さ。
飯豊山へはじめて登山したのは、会津女子高出身の猪股なんとかという18歳の女。
安心しな。女人禁制は昔の話さ。
山頂の神社まで行き、山上のお花畑を楽しむと、2泊3日の日程になる。
お前。本格的な山登りは初めてかい?」
「ヒメサユリの花を見るだけで、2泊3日もかかるのですか?」
「ヒメサユリだけじゃないよ。ニッコウキスゲも満開さ。
登るにつれてあちこちで、たくさんの高山植物を見ることが出来る。
天上にひろがる花園なのさ。梅雨入り前の飯豊連峰は」
「3日間も歩いたら、脚がパンクしそうです。
大丈夫でしょうか。あたしみたいな初心者がいきなり登っても」
「最初はみんな初心者さ。
心配はいらない。お前はそのへんの連中より、しっかり足腰を鍛えているもの。
中腰で踊る日舞は、足腰の鍛錬にもってこいだ。
ほら。このへんなんか鍛え抜かれて、見るからに、ムチムチしているもの!」
登山ズボンに足を通している清子のお尻を、恭子がポンと叩く。
『きゃっ!』悲鳴を上げた清子が、片足をズボンに突っ込んだまま、
ケンケンで室内を移動していく。
驚いたのはのんびり昼寝を決め込んでいた、たまだ。
態勢を崩した清子の大きなお尻が、たまの目の前に落ちてきた。
『うわ~っ。油断していたおいらが、迂闊だった。大ピンチだ。
今度ばかりはオイラも助からねぇぞ・・・絶体絶命の大ピンチだ!。もうだめだ!』
たまが観念して両目をつぶる。
覚悟を決めたその一瞬。横からさっと市の手が伸びてくる。
「馬鹿だねぇ、お前も。
何が起こるかわからないお部屋の真ん中で、昼寝なんかするんじゃないよ。
ほらごらん。清子のお尻は最近すっかり大きくなってきた。
あんな大きなお尻に乗られたら、お前なんか、いっぺんにぺっちゃんこのノシイカだ。
ホント。危なかったねぇ、命拾いしましたねぇ、たまや」
「失礼ですねぇ。そんな風におっしゃる市奴姐さんは。
少しばかり丸くなってきましたけど、それほど大きくはありません。
と、自分では思っております。
今でも、昔のままのパンツが、そのまま履けると思います。
履いてみればのお話ですが」
「履いてみれば?。ということはなんだい、今のお前は、
パンツを履いていないということかい?。
じゃ、ノーパンか?」
「はい。浴衣を着はじめた時からノーパンです。
ついでですが、ズボンを履くときもノーパンで過ごしております。
あら・・・いけないでしょうか?。
ズボンの時は、パンツを履いたほうがよろしいでしょうか?」
「別に構わないさ。パンツを履こうが履くまいが、清子の勝手です。
でもね。山へ行くときは別です。
何が有るのか分かりません。万一にそなえて下着だけはつけていきなさい。
遭難した時。下着を着けていないようでは物笑いの種になります。
だいいち。涼しすぎてあそこが、風邪などをひきかねません。うっふふ」
「そうですよねぇ登山ですもの、万が一という心配は確かにあります。
それではあたしも今回だけ、パンツを履いて登ろうかしら」
「おや?。10代目もパンツを履いていないのかい?。
なんだいお前さんたち。2人揃ってノーパンなのかい。驚いたねぇ・・・・」
「はい。清子に浴衣の着付けを教えてもらった時から、わたしもノーパン党です。
黙っていれば誰にもわからないし、楽だし、快適です。
やはり変ですか。パンツを履かないと?」
「勝負パンツを履く年頃でもないし、特に問題などはないでしょう。
パンツを履かなくてはいけないという法律も、ありませんし。
しかし。山の夜は冷えます。
山に行くときだけはパンツの上に、毛糸のパンツも重ねて履いてくださいな。
女は冷えると後々が、厄介になります。
どんな場所であれ、女らしさを忘れてはなりません。
悪いことは言いません。
今回だけ、二重にパンツを履いていくんですね、二人とも」
(51)へ、つづく
落合順平 作品館はこちら
登山前の、ノーパン姉妹

「かつては女人禁制のお山であったと、市奴姐さんから伺いました」
「知っているよ。
そのむかし。女人禁制の掟を破って入山した女がいる。
怒った山の神が、石に変えてしまったという伝説は、有名さ。
飯豊山へはじめて登山したのは、会津女子高出身の猪股なんとかという18歳の女。
安心しな。女人禁制は昔の話さ。
山頂の神社まで行き、山上のお花畑を楽しむと、2泊3日の日程になる。
お前。本格的な山登りは初めてかい?」
「ヒメサユリの花を見るだけで、2泊3日もかかるのですか?」
「ヒメサユリだけじゃないよ。ニッコウキスゲも満開さ。
登るにつれてあちこちで、たくさんの高山植物を見ることが出来る。
天上にひろがる花園なのさ。梅雨入り前の飯豊連峰は」
「3日間も歩いたら、脚がパンクしそうです。
大丈夫でしょうか。あたしみたいな初心者がいきなり登っても」
「最初はみんな初心者さ。
心配はいらない。お前はそのへんの連中より、しっかり足腰を鍛えているもの。
中腰で踊る日舞は、足腰の鍛錬にもってこいだ。
ほら。このへんなんか鍛え抜かれて、見るからに、ムチムチしているもの!」
登山ズボンに足を通している清子のお尻を、恭子がポンと叩く。
『きゃっ!』悲鳴を上げた清子が、片足をズボンに突っ込んだまま、
ケンケンで室内を移動していく。
驚いたのはのんびり昼寝を決め込んでいた、たまだ。
態勢を崩した清子の大きなお尻が、たまの目の前に落ちてきた。
『うわ~っ。油断していたおいらが、迂闊だった。大ピンチだ。
今度ばかりはオイラも助からねぇぞ・・・絶体絶命の大ピンチだ!。もうだめだ!』
たまが観念して両目をつぶる。
覚悟を決めたその一瞬。横からさっと市の手が伸びてくる。
「馬鹿だねぇ、お前も。
何が起こるかわからないお部屋の真ん中で、昼寝なんかするんじゃないよ。
ほらごらん。清子のお尻は最近すっかり大きくなってきた。
あんな大きなお尻に乗られたら、お前なんか、いっぺんにぺっちゃんこのノシイカだ。
ホント。危なかったねぇ、命拾いしましたねぇ、たまや」
「失礼ですねぇ。そんな風におっしゃる市奴姐さんは。
少しばかり丸くなってきましたけど、それほど大きくはありません。
と、自分では思っております。
今でも、昔のままのパンツが、そのまま履けると思います。
履いてみればのお話ですが」
「履いてみれば?。ということはなんだい、今のお前は、
パンツを履いていないということかい?。
じゃ、ノーパンか?」
「はい。浴衣を着はじめた時からノーパンです。
ついでですが、ズボンを履くときもノーパンで過ごしております。
あら・・・いけないでしょうか?。
ズボンの時は、パンツを履いたほうがよろしいでしょうか?」
「別に構わないさ。パンツを履こうが履くまいが、清子の勝手です。
でもね。山へ行くときは別です。
何が有るのか分かりません。万一にそなえて下着だけはつけていきなさい。
遭難した時。下着を着けていないようでは物笑いの種になります。
だいいち。涼しすぎてあそこが、風邪などをひきかねません。うっふふ」
「そうですよねぇ登山ですもの、万が一という心配は確かにあります。
それではあたしも今回だけ、パンツを履いて登ろうかしら」
「おや?。10代目もパンツを履いていないのかい?。
なんだいお前さんたち。2人揃ってノーパンなのかい。驚いたねぇ・・・・」
「はい。清子に浴衣の着付けを教えてもらった時から、わたしもノーパン党です。
黙っていれば誰にもわからないし、楽だし、快適です。
やはり変ですか。パンツを履かないと?」
「勝負パンツを履く年頃でもないし、特に問題などはないでしょう。
パンツを履かなくてはいけないという法律も、ありませんし。
しかし。山の夜は冷えます。
山に行くときだけはパンツの上に、毛糸のパンツも重ねて履いてくださいな。
女は冷えると後々が、厄介になります。
どんな場所であれ、女らしさを忘れてはなりません。
悪いことは言いません。
今回だけ、二重にパンツを履いていくんですね、二人とも」
(51)へ、つづく
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