オヤジ達の白球(18)国際審判員
「私がソフトボールと出会ったのは、中学の時です。
すぐ競技の魅力に取りつかれました。
白球を追いかける毎日がはじまりました。
でも進学先の高校に、ソフトボール部はありませんでした。
そのため、一時、競技から離れました。
私をたくましく育ててくれたのは、ソフトボールという競技のおかげです。
競技者でなくてもいいから、長く、この世界に携わっていきたいと思いました。
恩返しのつもりで29歳の時、公認審判員の世界へ飛び込みました」
あら・・・・美味しいですねこれと、吟醸酒を口にふくんだ美女が、
うふふと嬉しそうに笑う。
目を細め、うっとりと頬をゆるませる。
一升瓶を手にした祐介が、「地酒の中でも、最上級にランクする逸品です。こいつは」
と、こちらも特級品の笑顔を返す。
「こいつは一本ずつ、桐の箱に入って納品されます。
特級品だけに許された特別の待遇です。
実は正月の時期にだけ出回る、特別仕様の極上品です。
最上級の審判員を目指しているあなたに、ぴったりです。
何の目標も持たない、飲むだけが取り柄のウチののんべぃ達に、
あなたは希望と元気をくれました。
感謝をこめて、俺から、あなたへ贈るお礼の地酒です」
「え?。皆さん、目標を持っていらっしゃらないのですか?」
女の瞳が、祐介の顔を覗き込む。
「あるわけがないでしょう。あんな飲むしか脳の無い連中に・・・・」
2人が声をひそめる。その瞬間、2人の顔が近くなる。
距離があまりにも近過ぎていることに、祐介がすぐに気が付く。
あわてて2歩3歩、厨房の中を後ずさりする。
「目標どころか、何もやることをもっていない連中ですねぇ、あいつらときたら。
日が暮れれば、酒ばかり呑むことを考えています。
趣味もなければ、家族と過ごす時間も作ろうとしない。
いや・・・のんべぇ過ぎるがゆえに、家族から無視されているというのが、
たぶん正解でしょう。
ここにいるのは夢を見る前に、ベロンベロンに酔いつぶれてしまう連中ですから」
「うふふ。
そうした状況をつくりだしている一番の張本人は、大将、あなただと思いますけど?」
「おっ、あっいけねぇ。まさにその通りだ。
まいったなぁ。この件は、あなたと私のあいだだけの内緒話にしてください。
痩せても枯れても、居酒屋の大将だ。
これ以上の不用意のコメントは、身を滅ぼしちまう。
危ねぇ危ねぇ。これ以上は何もいえねぇ・・・」
「うふふ。確かにその通りです。
でも男の人たちがむきになっている姿は、無邪気で可愛いものです。
いいですねぇ、本当に。
居酒屋さんののんべぃさんばかりのチームが誕生したら、
ホントに楽しいでしょうねぇ」
「楽しいかどうかは、やってみなけりゃわからねぇな。
どうやらこの勢いでいくと、なんとか必要とする人数はあつまりそうだ。
だが、どこからどう見ても、致命的な大きな問題がある」
「えっ?。何か問題でもあるのですか?」
女の目が男たちのテーブルを振りかえる。
真ん中に座る岡崎が、男たちの入部申し込みを次々に受け付けている。
その姿に、特に問題がある様には見えない。
「あの中に、野球やソフトボールの経験者は、ひとりもいねぇ。
つまり。そこへ集まっているのは、ルールもろくに知らねぇ素人どもということだ。
そういう俺も監督になってくれと頼まれたが、ソフトに関しては素人だ。
俺の専門は、個人競技の柔道と剣道。
団体競技の経験は、まったくねぇ。
断ろうと思ったが、どうしてもとあいつらにゴリ押しされた」
「大丈夫です。やる気さえ有れば何でも達成できる。と誰かが言っています。
わたしが教えてもいいですよ。
日曜日なら空いてます。いつでも呼んでください。
暇をもてあましていますので」
(日曜日に、暇を持て余している?。
へぇぇ・・・ということはもしかして独身なのかな、この人は?)
(19)へつづく
落合順平 作品館はこちら
「私がソフトボールと出会ったのは、中学の時です。
すぐ競技の魅力に取りつかれました。
白球を追いかける毎日がはじまりました。
でも進学先の高校に、ソフトボール部はありませんでした。
そのため、一時、競技から離れました。
私をたくましく育ててくれたのは、ソフトボールという競技のおかげです。
競技者でなくてもいいから、長く、この世界に携わっていきたいと思いました。
恩返しのつもりで29歳の時、公認審判員の世界へ飛び込みました」
あら・・・・美味しいですねこれと、吟醸酒を口にふくんだ美女が、
うふふと嬉しそうに笑う。
目を細め、うっとりと頬をゆるませる。
一升瓶を手にした祐介が、「地酒の中でも、最上級にランクする逸品です。こいつは」
と、こちらも特級品の笑顔を返す。
「こいつは一本ずつ、桐の箱に入って納品されます。
特級品だけに許された特別の待遇です。
実は正月の時期にだけ出回る、特別仕様の極上品です。
最上級の審判員を目指しているあなたに、ぴったりです。
何の目標も持たない、飲むだけが取り柄のウチののんべぃ達に、
あなたは希望と元気をくれました。
感謝をこめて、俺から、あなたへ贈るお礼の地酒です」
「え?。皆さん、目標を持っていらっしゃらないのですか?」
女の瞳が、祐介の顔を覗き込む。
「あるわけがないでしょう。あんな飲むしか脳の無い連中に・・・・」
2人が声をひそめる。その瞬間、2人の顔が近くなる。
距離があまりにも近過ぎていることに、祐介がすぐに気が付く。
あわてて2歩3歩、厨房の中を後ずさりする。
「目標どころか、何もやることをもっていない連中ですねぇ、あいつらときたら。
日が暮れれば、酒ばかり呑むことを考えています。
趣味もなければ、家族と過ごす時間も作ろうとしない。
いや・・・のんべぇ過ぎるがゆえに、家族から無視されているというのが、
たぶん正解でしょう。
ここにいるのは夢を見る前に、ベロンベロンに酔いつぶれてしまう連中ですから」
「うふふ。
そうした状況をつくりだしている一番の張本人は、大将、あなただと思いますけど?」
「おっ、あっいけねぇ。まさにその通りだ。
まいったなぁ。この件は、あなたと私のあいだだけの内緒話にしてください。
痩せても枯れても、居酒屋の大将だ。
これ以上の不用意のコメントは、身を滅ぼしちまう。
危ねぇ危ねぇ。これ以上は何もいえねぇ・・・」
「うふふ。確かにその通りです。
でも男の人たちがむきになっている姿は、無邪気で可愛いものです。
いいですねぇ、本当に。
居酒屋さんののんべぃさんばかりのチームが誕生したら、
ホントに楽しいでしょうねぇ」
「楽しいかどうかは、やってみなけりゃわからねぇな。
どうやらこの勢いでいくと、なんとか必要とする人数はあつまりそうだ。
だが、どこからどう見ても、致命的な大きな問題がある」
「えっ?。何か問題でもあるのですか?」
女の目が男たちのテーブルを振りかえる。
真ん中に座る岡崎が、男たちの入部申し込みを次々に受け付けている。
その姿に、特に問題がある様には見えない。
「あの中に、野球やソフトボールの経験者は、ひとりもいねぇ。
つまり。そこへ集まっているのは、ルールもろくに知らねぇ素人どもということだ。
そういう俺も監督になってくれと頼まれたが、ソフトに関しては素人だ。
俺の専門は、個人競技の柔道と剣道。
団体競技の経験は、まったくねぇ。
断ろうと思ったが、どうしてもとあいつらにゴリ押しされた」
「大丈夫です。やる気さえ有れば何でも達成できる。と誰かが言っています。
わたしが教えてもいいですよ。
日曜日なら空いてます。いつでも呼んでください。
暇をもてあましていますので」
(日曜日に、暇を持て余している?。
へぇぇ・・・ということはもしかして独身なのかな、この人は?)
(19)へつづく
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