北へふたり旅(91)
9時をすぎて店の中に空席が目立ってきた。
気が付けば、3時間ちかくこの店で呑んでいたことになる。
「君。しめのおすすめは?」
通りかかったどさん娘を呼び止めた。
「締めは、パフェがおすすめです」
「パフェ・・・?。
締めラーメンは聞いたことがあるが、締めパフェは初めてだ」
「最近の女子は飲み会の後さ、パフェでシメるのが定番です。
夜遅くまで営業しているおしゃれなカフェも、わんさ有るっしょ。
よかったらご案内しましょうか?」
「君。仕事は?」
「お店はまだまだ営業してますが、わたしはお昼から働いていますので、
9時30分に終わるっしょ」
「パフェですか・・・うふっ、おいしそう!」
妻が目を細める。
女2人がその気になっているのに、男があとに引くわけにいかない。
「いいだろう。行こうじゃないか、その締めパフェとやらへ」
と、啖呵を切ってしまう。
9時40分。一日の仕事を終えたどさん娘が、表へ飛び出してきた。
「お待ちどうさま!」私服に着替えてきたどさん娘は、すこし雰囲気が違う。
どこが違うのだろう。思わず上から下まで凝視する。
あ・・・黒縁のメガネが、見当たらない。
メガネは変装の小道具だったのか。
「メガネをはずすと可愛いね、君」本音が出てしまった。
「失礼ですね。あなたったら。
最初に会った時から可愛かったでしょ。ひどいです。いまさら」
「いいんだべさ。
仕事をしているときは別人だって、よく言われますから」
「恋人はいるの?」
「いないっしょ。仕事と勉強で忙し過ぎて、口説かれる暇がありません」
「お店でチャコちゃんと呼ばれていたけど、本名なの?」
「チャコはお店の名前で、ホントの名前はユキです」
「ユキちゃんか。名前まで可愛いね」
「おじさまったらお世辞の言いすぎだべさ」
「そうか?。それは失礼した。酒がいわせた言葉だ。
今夜はひさしぶりに、美味しい酒を飲むことが出来た。
君のおかげだ。旅のいい想い出ができた」
「おじさま。今夜はまだまだ終わらないべさ。
マチのうまい締めパフェが、わたしたちを待ってるっしょ」
「そうだ。締めのパフェを忘れていた。
ユキちゃん。できたらお酒とパフェがいっしょに楽しめるお店がいいな。
パフェも楽しみだが、もうすこし呑みたい。
有るかな。そんな都合いいお店が」
「まかせてほしいべさ。
このあたりには、どちらも楽しめるお洒落なお店がいくつもあるっしょ。
午後9時から開店するお店もありますから」
「午後9時から開店する店がある!。
すごいね。さすが北の都、サッポロだ。
ということは一晩中、酒とパフェが楽しめるということになるな」
(92)へつづく