落合順平 作品集

現代小説の部屋。

北へふたり旅(91) 裏路地の道産娘⑤

2020-04-09 17:51:27 | 現代小説
北へふたり旅(91) 


 9時をすぎて店の中に空席が目立ってきた。
気が付けば、3時間ちかくこの店で呑んでいたことになる。


 「君。しめのおすすめは?」


 通りかかったどさん娘を呼び止めた。


 「締めは、パフェがおすすめです」


 「パフェ・・・?。
 締めラーメンは聞いたことがあるが、締めパフェは初めてだ」


 「最近の女子は飲み会の後さ、パフェでシメるのが定番です。
 夜遅くまで営業しているおしゃれなカフェも、わんさ有るっしょ。
 よかったらご案内しましょうか?」


 「君。仕事は?」


 「お店はまだまだ営業してますが、わたしはお昼から働いていますので、
 9時30分に終わるっしょ」


 「パフェですか・・・うふっ、おいしそう!」


 妻が目を細める。
女2人がその気になっているのに、男があとに引くわけにいかない。
「いいだろう。行こうじゃないか、その締めパフェとやらへ」
と、啖呵を切ってしまう。


 9時40分。一日の仕事を終えたどさん娘が、表へ飛び出してきた。
「お待ちどうさま!」私服に着替えてきたどさん娘は、すこし雰囲気が違う。
どこが違うのだろう。思わず上から下まで凝視する。
あ・・・黒縁のメガネが、見当たらない。
メガネは変装の小道具だったのか。


 「メガネをはずすと可愛いね、君」本音が出てしまった。


 「失礼ですね。あなたったら。
 最初に会った時から可愛かったでしょ。ひどいです。いまさら」


 「いいんだべさ。
 仕事をしているときは別人だって、よく言われますから」


 「恋人はいるの?」


 「いないっしょ。仕事と勉強で忙し過ぎて、口説かれる暇がありません」


 「お店でチャコちゃんと呼ばれていたけど、本名なの?」


 「チャコはお店の名前で、ホントの名前はユキです」


 「ユキちゃんか。名前まで可愛いね」


 「おじさまったらお世辞の言いすぎだべさ」
 
 「そうか?。それは失礼した。酒がいわせた言葉だ。
 今夜はひさしぶりに、美味しい酒を飲むことが出来た。
 君のおかげだ。旅のいい想い出ができた」


 「おじさま。今夜はまだまだ終わらないべさ。
 マチのうまい締めパフェが、わたしたちを待ってるっしょ」
 
 「そうだ。締めのパフェを忘れていた。
 ユキちゃん。できたらお酒とパフェがいっしょに楽しめるお店がいいな。
 パフェも楽しみだが、もうすこし呑みたい。
 有るかな。そんな都合いいお店が」


 「まかせてほしいべさ。
 このあたりには、どちらも楽しめるお洒落なお店がいくつもあるっしょ。
 午後9時から開店するお店もありますから」
 
 「午後9時から開店する店がある!。
 すごいね。さすが北の都、サッポロだ。
 ということは一晩中、酒とパフェが楽しめるということになるな」
 
(92)へつづく