北へふたり旅(96)
妻が耳をかたむける。
「小鳥の鳴き声が聞こえます」
「小鳥の鳴き声?。まさかぁ。ここは地下街だぜ。
小鳥なんて居るはずがないだろう」
「そんなことありません。
たしかに鳴いてます。可愛い声で」
通行人がさざめく中。妻はたしかに小鳥の鳴き声を聞いたという。
「そんな馬鹿な・・・」思わず左右を見回した。
「飛んでいないぞ。小鳥なんか・・・」
人の流れが途切れない地下の通路。

妻が耳をかたむける。
「小鳥の鳴き声が聞こえます」
「小鳥の鳴き声?。まさかぁ。ここは地下街だぜ。
小鳥なんて居るはずがないだろう」
「そんなことありません。
たしかに鳴いてます。可愛い声で」
通行人がさざめく中。妻はたしかに小鳥の鳴き声を聞いたという。
「そんな馬鹿な・・・」思わず左右を見回した。
「飛んでいないぞ。小鳥なんか・・・」
人の流れが途切れない地下の通路。
こんな賑やかな空間に、小鳥が住んでいるはずがない。
「空耳だろう君の」と言えば、「あなたったら、ずいぶん耳が遠くなったのね」
と妻が切り返す。
「通行人の会話は聞こえるが、小鳥の鳴き声なんか聞こえない。
居るはずがないだろう。こんなにぎやかな地下街に」
「たしかに聞こえました。ねぇユキちゃん」
「はい。わたしも聞いたっしょ」
女2人は口をそろえて聞いたという。
「もう少し歩けば、はっきりするっしょ」
楽しみですねぇと女2人が肩を並べて歩き出す。
仲良く歩く背中がまるで、孫と散歩しているおばあちゃんのようだ。
いつも散歩しているユキちゃんが、自信満々で妻をリードしていく。
背中に「わたしたちが正解です」と書いてある。
果たして・・・
歩くこと数分。通路のど真ん中にガラス張りの空間があらわれた。
小鳥の広場、の看板がさがっている。
中に住んでいるのはセキセイインコ。
20羽あまりがおもいおもいのポーズでくつろいでいる。
「驚いた・・・
ホントに居た。こんな地下街にセキセイインコが。
炭鉱じゃあるまいし、まさか酸欠対策じゃないだろうね」
「炭鉱の酸欠対策?。何それ?」
「平成生まれのユキちゃんじゃ知らないのも無理ない。
炭鉱労働は危険と隣り合わせ。有毒ガスの発生は日常茶飯事。
とくに可燃性のメタンガスは静電気や火花で着火し、爆発事故を起こす。
そのため坑道にカナリアが持ち込まれた。
小鳥は人より有毒ガスに敏感だ。
そういえばメロンで有名な夕張も、むかしは炭鉱の町だった」
2019年5月。驚きの話題が日本列島を駆け巡った。
夕張メロンの初売りで2玉500万円の高値がついた。前年度は300万円。
いっきにご祝儀が1.5倍に跳ね上がった。
「1個250万円!。いったいだれが食うんだ。そんな高級メロン・・・」
「話題つくりさ。大間のマグロに3億三千万のねだんがつく時代だぜ」
「2個で500万か・・・俺なんかナスを5個320円で売ってんだぜ。
差が有り過ぎだ。どうなってんだ日本の農漁業は、いったいぜんたい・・・」
と嘆いていたSさんの顔を思い出す
「夕張が炭鉱の町だったことは知ってます。
大小24の鉱山、人口12万人まで栄えましたが昭和40年代からつぎつぎ閉山。
いまはわずかに9000人の町です」
「9000人しか住んでいないのか・・・いまの夕張には。
「空耳だろう君の」と言えば、「あなたったら、ずいぶん耳が遠くなったのね」
と妻が切り返す。
「通行人の会話は聞こえるが、小鳥の鳴き声なんか聞こえない。
居るはずがないだろう。こんなにぎやかな地下街に」
「たしかに聞こえました。ねぇユキちゃん」
「はい。わたしも聞いたっしょ」
女2人は口をそろえて聞いたという。
「もう少し歩けば、はっきりするっしょ」
楽しみですねぇと女2人が肩を並べて歩き出す。
仲良く歩く背中がまるで、孫と散歩しているおばあちゃんのようだ。
いつも散歩しているユキちゃんが、自信満々で妻をリードしていく。
背中に「わたしたちが正解です」と書いてある。
果たして・・・
歩くこと数分。通路のど真ん中にガラス張りの空間があらわれた。
小鳥の広場、の看板がさがっている。
中に住んでいるのはセキセイインコ。
20羽あまりがおもいおもいのポーズでくつろいでいる。
「驚いた・・・
ホントに居た。こんな地下街にセキセイインコが。
炭鉱じゃあるまいし、まさか酸欠対策じゃないだろうね」
「炭鉱の酸欠対策?。何それ?」
「平成生まれのユキちゃんじゃ知らないのも無理ない。
炭鉱労働は危険と隣り合わせ。有毒ガスの発生は日常茶飯事。
とくに可燃性のメタンガスは静電気や火花で着火し、爆発事故を起こす。
そのため坑道にカナリアが持ち込まれた。
小鳥は人より有毒ガスに敏感だ。
そういえばメロンで有名な夕張も、むかしは炭鉱の町だった」
2019年5月。驚きの話題が日本列島を駆け巡った。
夕張メロンの初売りで2玉500万円の高値がついた。前年度は300万円。
いっきにご祝儀が1.5倍に跳ね上がった。
「1個250万円!。いったいだれが食うんだ。そんな高級メロン・・・」
「話題つくりさ。大間のマグロに3億三千万のねだんがつく時代だぜ」
「2個で500万か・・・俺なんかナスを5個320円で売ってんだぜ。
差が有り過ぎだ。どうなってんだ日本の農漁業は、いったいぜんたい・・・」
と嘆いていたSさんの顔を思い出す
「夕張が炭鉱の町だったことは知ってます。
大小24の鉱山、人口12万人まで栄えましたが昭和40年代からつぎつぎ閉山。
いまはわずかに9000人の町です」
「9000人しか住んでいないのか・・・いまの夕張には。
さびしくなったもんだ、高級メロンの故郷は。
そういえば急激な人口減少が原因で、財政破たんしたはずだ、夕張は」
「はい。財政破綻(はたん)から12年。
夕張市のホームページに、「借金時計」が載ってるっしょ。
その残高が200億円を切ったそうです。
これまで153億円余を返したことさなるっしょねぇ」
「再建は無理だといわれていたが、そこまで回復したか夕張は。
なんだかなぁ・・・
日本人はどこかで、金の使い方を間違っているかもしれねぇな・・・」
ぼそっとつぶやきながら妻とユキちゃんの肩越しに、ガラスドームの中にいる
インコたちを覗き込む。
(97)へつづく
そういえば急激な人口減少が原因で、財政破たんしたはずだ、夕張は」
「はい。財政破綻(はたん)から12年。
夕張市のホームページに、「借金時計」が載ってるっしょ。
その残高が200億円を切ったそうです。
これまで153億円余を返したことさなるっしょねぇ」
「再建は無理だといわれていたが、そこまで回復したか夕張は。
なんだかなぁ・・・
日本人はどこかで、金の使い方を間違っているかもしれねぇな・・・」
ぼそっとつぶやきながら妻とユキちゃんの肩越しに、ガラスドームの中にいる
インコたちを覗き込む。
(97)へつづく