落合順平 作品集

現代小説の部屋。

北へふたり旅(93) 裏路地の道産娘⑦ 

2020-04-15 18:22:31 | 現代小説
北へふたり旅(93) 

 
 「信じられないべ。
 大金をつかい、何しに本道(北海道)までやって来たのさ。
 札幌にだって見どころはわんさあるっしょ。
 時計台に大通公園、テレビ塔もあるし、明治に建てられた赤レンガの庁舎、
 それから大志をいだいたわが母校、北大のポプラ並木・・・
 どこもおりがみつきの観光名所です」


 「したっけ(でもさ)」とどさん娘がため息をつく。


 「目いっぱい観光しようとして、無茶な計画をたてる人もいるっしょ。
 2泊3日で函館の夜景と札幌市内の観光と、小樽の寿司と旭山動物園と
 温泉をまわりたいけど どう回れば効率がいいと思う?
 なんて平気で聞いてくるお客さんがいたっしょ」


 「なかなかの観光コースだと思うけどなぁ。
 でもそれって無茶すぎる日程なの?」
 
 「北海道の大きさをなめとんのか、てことさ。
 函館と札幌と旭川回るは、東京から名古屋と京都まわるのとおなじ距離。
 函館と札幌が340キロ。札幌と旭川までが130キロ。
 そこへ小樽までつけたら、京都旅行に飛騨高山をプラスするのと同じっしょ。
 二泊三日でやろうとすると全体力を消耗して、骨と皮だけになります」


 「なるほど・・・たしかにすさまじい強行軍だ」


 「札幌と言えばラーメン。
 ラーメン横丁は有名ですが、札幌市民はほとんどいかないっしょ。
 むしろ札幌ラーメンの面汚しだと思ってるさ。
 お客さんに頼まれると案内して、見るだけ見せますが他の場所へ連れていきます。
 「えっ・・・此処で食べないの?」と言われるけど、3回食べて、
 3回とも腹が立ちました。パスして当然でしょ」


 「なるほど。地元の人はラーメン横丁へ行かないのか。
 東京の人が築地の場外市場へ、マグロを喰いにいかないのと同じだな。
 観光客御用達の店に、おいしいものはないということだね」


 「漁港がある小樽は、星の数ほどおすし屋さんがあるっしょ。
 「寿司屋通り」なんて道があるくらいです。
 でもね、観光バスが行くような店は絶対にパスだべ。
 考えてみて下さい、一時に数百人の観光客が来て、それさ対応するんだべ。
 作り置きのロボット寿司だべ。
 路地裏には小樽市民が行く店があるっしょ。そういうところは安くておいしい。
 町の人つかまえて「この辺でいい店ありますか?」と聞きます。
 そうすると100%いいお店を教えてくれます。ハズレはないっしょ」


 「君。居酒屋のアルバイトのほかに、旅のコーデネイトもできそうだ。
 大学を卒業したら、何をするの?」


 「実家へ戻り、牧場を継ぎます。
 わたし一人っ子です。
 たぶんうまれたときから、わたしはばんばと生きる運命です。うふっ」


 「ほかの選択肢はないの?」


 「ひとなみの夢は見ました。
 アナウンサー、キャビンアテンダント、一流企業のOLさん、新聞記者、
 でもいちばん居心地が良いと思っているのは、やっぱり馬の背中。
 わたし、子供のころからばんばのうえから、釧路の原野を見てきたのさ。
 両親には何も言ってませんが卒業したら、まっすぐ家さ帰るっしょ」


 「いい子だね・・・君は」


 「おじさま。話をもとへ戻しましょう。
 ホントにノープランなのですか、札幌にいるあいだの2日間は?」


 「おなじホテルへ2泊する。
 2日間あるといっても、明後日の朝10時に帰りの電車へ乗る。
 実質的には1日半かな、札幌へ居るのは」


 「1日半のご予定は?」


 「何処へ行くか、まだまったく何も決めていない」


 「呆れたぁ・・・
 おばさま。いいんだべか、こったらノー天気なご主人で!」


 
(94)へつづく