北へふたり旅(93)
「信じられないべ。
大金をつかい、何しに本道(北海道)までやって来たのさ。
札幌にだって見どころはわんさあるっしょ。
時計台に大通公園、テレビ塔もあるし、明治に建てられた赤レンガの庁舎、
それから大志をいだいたわが母校、北大のポプラ並木・・・
どこもおりがみつきの観光名所です」
「したっけ(でもさ)」とどさん娘がため息をつく。
「目いっぱい観光しようとして、無茶な計画をたてる人もいるっしょ。
2泊3日で函館の夜景と札幌市内の観光と、小樽の寿司と旭山動物園と
温泉をまわりたいけど どう回れば効率がいいと思う?
なんて平気で聞いてくるお客さんがいたっしょ」
「なかなかの観光コースだと思うけどなぁ。
でもそれって無茶すぎる日程なの?」
「北海道の大きさをなめとんのか、てことさ。
函館と札幌と旭川回るは、東京から名古屋と京都まわるのとおなじ距離。
函館と札幌が340キロ。札幌と旭川までが130キロ。
そこへ小樽までつけたら、京都旅行に飛騨高山をプラスするのと同じっしょ。
二泊三日でやろうとすると全体力を消耗して、骨と皮だけになります」
「なるほど・・・たしかにすさまじい強行軍だ」
「札幌と言えばラーメン。
ラーメン横丁は有名ですが、札幌市民はほとんどいかないっしょ。
むしろ札幌ラーメンの面汚しだと思ってるさ。
お客さんに頼まれると案内して、見るだけ見せますが他の場所へ連れていきます。
「えっ・・・此処で食べないの?」と言われるけど、3回食べて、
3回とも腹が立ちました。パスして当然でしょ」
「なるほど。地元の人はラーメン横丁へ行かないのか。
東京の人が築地の場外市場へ、マグロを喰いにいかないのと同じだな。
観光客御用達の店に、おいしいものはないということだね」
「漁港がある小樽は、星の数ほどおすし屋さんがあるっしょ。
「寿司屋通り」なんて道があるくらいです。
でもね、観光バスが行くような店は絶対にパスだべ。
考えてみて下さい、一時に数百人の観光客が来て、それさ対応するんだべ。
作り置きのロボット寿司だべ。
路地裏には小樽市民が行く店があるっしょ。そういうところは安くておいしい。
町の人つかまえて「この辺でいい店ありますか?」と聞きます。
そうすると100%いいお店を教えてくれます。ハズレはないっしょ」
「君。居酒屋のアルバイトのほかに、旅のコーデネイトもできそうだ。
大学を卒業したら、何をするの?」
「実家へ戻り、牧場を継ぎます。
わたし一人っ子です。
たぶんうまれたときから、わたしはばんばと生きる運命です。うふっ」
「ほかの選択肢はないの?」
「ひとなみの夢は見ました。
アナウンサー、キャビンアテンダント、一流企業のOLさん、新聞記者、
でもいちばん居心地が良いと思っているのは、やっぱり馬の背中。
わたし、子供のころからばんばのうえから、釧路の原野を見てきたのさ。
両親には何も言ってませんが卒業したら、まっすぐ家さ帰るっしょ」
「いい子だね・・・君は」
「おじさま。話をもとへ戻しましょう。
ホントにノープランなのですか、札幌にいるあいだの2日間は?」
「おなじホテルへ2泊する。
2日間あるといっても、明後日の朝10時に帰りの電車へ乗る。
実質的には1日半かな、札幌へ居るのは」
「1日半のご予定は?」
「何処へ行くか、まだまったく何も決めていない」
「呆れたぁ・・・
おばさま。いいんだべか、こったらノー天気なご主人で!」
(94)へつづく