落合順平 作品集

現代小説の部屋。

北へふたり旅(95) 裏路地の道産娘⑨

2020-04-21 18:16:31 | 現代小説
北へふたり旅(95) 

 
 「これからお2人を、札幌の特別な空間へご案内します。
 その場所は、こ・ち・ら」


 どさん娘が自分の足元を指さす。


 「君の足元・・・地下?・・・地下に何かあるの?」


 「大通公園の真下に、地下街のオーロラタウンがあるっしょ。
 突き当りを左へ曲がるともうひとつの地下街、ポールタウンへ行けます。
 それだけじゃあらまないべ。
 北へ曲がれば札幌駅まで直通の、ひろい歩道空間がつづいています」


 「えっ、公園の下が地下街になってるの!。知らなかったわぁ!。
 だから地上の通りに、お店が少ないのね」


 「ぼくらの足元に巨大な地下街と、札幌駅まで行ける歩道空間があるのか!。
 ・・・おどろいたなぁ」


 「びっくりしたっしょ。うふっ」うれしそうどさん娘が目をほそめる。


 「どこから降りていくの?」


 「入り口はわんさあるっしょ。
 交差点の向こう。あそこさ見える階段からオーロラタウンへ入れます」
 
 なるほど。交差点の向こうに地下鉄のようなアーケードが見える。
ときどき人が出入りしている。


 「知らなかった。地下に巨大な商店街があったなんて・・・」


 札幌地下街の歴史はふるい。
札幌冬季オリンピックの開催まであと50日と迫った昭和46年12月15日、
札幌の地下鉄が開通した。
地下鉄が開業するほぼ一ヶ月前、昭和46年11月16日。
札幌市中心部の地下に、南北と東へ伸びる地下街がオープンした。


 大通駅とすすきの駅を南北に結んでいるのが「ポールタウン」。
大通駅から東、テレビ塔の下までのびる「オーロラタウン」。


 背景に、札幌市の急激な人口増が有る。
ラッシュ時の『4丁目十字街』は、車があふれた。最高で7台の電車が連なった。
反対側の歩道へ行こうにも道路を横切ることができない。


 狸小路のショッピング・ゾーンが、二つに分断された。
営業権や生活権をおびやかし、商売あがったりの状態をうみだした。
東西の商店街を自由に行き来できる地下歩道がほしい、という声から
札幌の地下開発がはじまった。


 店舗や公共の通路、おおきな駐車場をもつ地下街をつくることは、
人の流れと車両を分散させる。
雪深い札幌で天候に関係なく、自在に移動できることを可能にした地下街は
おおきな役割を果たすことになった。


 階段をおりていくとあかるい歩道があらわれた。
たくさんの人があるいている。
オーロラタウンの全長は310m。左右にずらり店舗がならんでいる。


 「ここにはなんでもそろっています。
 と言ってもわたしのような貧乏学生は、もっぱら見るだけですが。
 目の保養と運動をかねて、毎日ここを歩いているっしょ」


 「明るいし地上を歩くより便利そうだね。この地下街は」


 「信号は無いし、雪が降っても雨が降っても関係あらないべ。
 地下鉄の駅に直通しているので、地上を歩くより、安心で便利です」


 「驚いたねぇ・・・大通公園の真下が、こんな風になっていたなんて」


 「ほんと。びっくりしました・・・あらっ」


 妻が何かに気が付いた。




(96)へつづく