落合順平 作品集

現代小説の部屋。

北へふたり旅(100)北の赤ひげ③

2020-05-07 18:26:22 | 現代小説
北へふたり旅(100)

 
 大病院へ行くかと思ったら、タクシーは小さな医院の前で停まった。
(ここか?・・・大丈夫か。古い看板がかかっている町医者だぞ)


 「学生たちが良く来る病院です」とユキちゃんがささやく。


 「学割がきくの?。ここは」


 「うふっ。よかった。冗談が出るまで回復したようです」
 
 「タクシーの中ですこし休めたからね」


 「でも急に動かないで。気を付けてくださいな。
 病院へ着いたからと言って、安心するのはまだ早いっしょ」


 孫に諭されるジイャのように病院へみちびかれていく。
受付で容態を説明するユキちゃんによどみは無い。


 「てきぱきしています、あの娘は。おかげで助かります。
 わたしが説明したのでは要領を得ず、たぶん、しどろもどろですから」


 待つこと5分。診察室へ通された。
中で50代半ばくらいの、メガネをかけた先生がまっていた。


 「とりあえず心電図をとりましょう」


 座るなり。先生が切り出す。


 「心電図?」


 「きゅうに具合悪くなったと聞きました。
 疲れが原因で、心臓になにかの異常がおきているかもしれません。
 まず心電図をとり、原因をさぐりましょう」


 案内されるまま検査室へとおされる。
検査担当の若い看護師さんがでてきた。2種類の心電図をとるという。


 「2種類?」


 「安静の状態で、さいしょの心電図をとります。
 その後、かるい運動していただきます。
 踏み台を上下してもらいます。
 50回前後を予定していますが途中で苦しくなったり、
 具合が悪くなったら中止しても問題ありません」


 「完走しなくても大丈夫ということ?」


 「はい。無理に動いて悪化したら、心電図どころではありませんから」


 うふふと看護師さんが笑う。
言われるまま上着を脱ぐ。シャツだけになり、診察台へ横たわる。
「電極をつけますね」看護師さんがのぞきこむ。


 「あきみちゃんのブラは むらさき・・・」


 小声でつぶやきながら赤、黄色 緑 茶 黒 ムラサキの電極を貼り付けていく。


 「君。あきみちゃんというの?。もしかしてブラはムラサキ?」


 「そんなことありません。私のブラは・・・あっ!」


 看護師さんが顔をあげる。


 「ごめんなさい。緊張してました。
 心電図とるの、はじめてなんです。
 貼る順番を間違えないよう、口のなかで呪文をとなえていました」


 「そんなことないよ。しっかり聞こえたよ。
 大きな声で、わたしのブラはムラサキ色ですって。はっきりと」


 「失礼しました!。申し訳ありません。
 電極を順番通り張るためのゴロ合わせが、あきみちゃんのブラは
 むらさき、なんです。
 ごめんなさい。ブラは白です。うふっ。わたしったら」


 「よかったぁ・・・
 君のブラがムラサキでは、あまりにも刺激的すぎる。
 ドキドキし過ぎて、とんでもない心電図が記録されるところだった」




(101)へつづく