アイラブ・桐生
(16)第1章 怪人たち館に美女がいる
(古い木造のアパートの入り口。むかしはこんな風なアパートが沢山ありました)
青柳インテリャの仕事は実に多岐にわたります。
デパートやスーパーマーケットでの内装の取り換えや補修などから始まって、
新築住宅や改築時のカーテンの取り付けなどはもちろんのこと、
イベント会社の応援で、徹夜で会場の設営をこなすなど
とにかくすべての分野を網羅して、さながら「便利屋」のような様相を呈していました。
昼と夜との作業を交互に繰り返しながら
些細な修理から、体育館のようなイベント会場の設営までを飛び回ります。
もちろん、茨城くんに教えられたように、『ばれない程度』に
適度な範囲で手抜き作業を行いました・・・・
壊れやすくしておくことも、実は大切な「技」のひとつです。
「見た目を綺麗に仕上げておいて、適度に壊れやすくしておく」ことが肝心でした。
丈夫に造りすぎると、次の仕事に差し障りがでるのです。
ほどよく消耗させて、壊れやすくしてことも、作業を効率化させる狙いのひとつです。
しかしイベント会場などでは、簡易に作りすぎたために、いつ壊れるのかと、
舞台裏で、はらはらドキドキとしすぎた時などもありました・・・
仕事に慣れてくると
漫画家志望の茨城くんの部屋と、私の部屋の往復がはじまりました。
どちらも青柳インテリァの社宅代わりとして、借り上げてくれた部屋ですが、
茨城君のアパートは、現代版「ときわ荘」のような趣があります。
■ときわ荘。
かつて売れる前の新人の漫画家たちが、集結をしたという伝説のアパートです。
現在でも一線で活躍している、巨匠たちが此処から沢山誕生しています。
風呂なしの4畳半一間が10室もあり
そこには自称絵描きや、見るからに怪しい美術大学の学生、
将来を夢見るマンガ家たちで、連日にわたって人があふれています。
日暮れと共に、どこからともなく住人たち以上の人数が集まってくるのです。
必ずどこかしらの部屋で、夜を徹しての芸術談義が始まります。
初めて茨城君の部屋へ寄りこんだ晩も、実にそのままの有様でした。
開け放たれたドアからは次々に、見るからに怪しそうな人たちが覗きにやってきました。
「おう、新入りか、どこの部屋だ?」
「いや、いまは満室だから部屋は空いていないはずだ。
茨城の居候か・・」
「専攻はなんだ、俺は多摩美で油絵を書いている。」
「おれは、彫刻だ」
「まてまて、こいつは俺と同じ仕事場の友人だ。
今夜は二人で語りあう予定だから、そのあたりの話は明日にしてくれ。
とりあえず、今日は2階のゴッホのところにでも集まってくれ。
ハイハイ、みなさん本日のところは、こんなところでは解散、解散。」
茨城くんは熱狂的な手塚治のファンです。
壁に書いた自作の鉄腕アトムは、大きなこぶしをまっすぐに突き出して
いまにも大空へ飛び出しそうな勢いがあります。
「俺は断然、手塚だな。
第一、画の勢いが違うもの、
これからの時代は、冒険活劇かSFものだと思うけど、
群馬のすきな漫画家は誰だ。」
「永島慎二で、『フーテン』と『漫画家残酷物語』。
あと、面白いと思うのは、つげ義春の『ねじ式』かな
怪奇物が得意な水木しげるというのもいるが、話は面白いが、
画自体が個性的すぎて、好きになれない。」
「なんだよ・・・・全部、月刊ガロの作家だな。
まぁ、それでも群馬の片田舎に住んでいる割には、いい感度をしているほうだ。
つげ義春に関しては、俺も面白いと思っている。
しかし、やっこさんは筆が遅すぎて、まったく新作を出さないからなあ~
俺はやっぱりなんといっても手塚治だ。
雑誌といえば、月刊COMが命だな。」
「うん、手塚プロ(正式には虫プロ)はすごいね。
今度、アトムが映画にもなるそうだね。」
「数ある手塚作品のなかでも、アトムだけは駄目だ。
所詮は、小学生か、そのへんのガキ向けの科学漫画にすぎん。
俺のいち押しは、火の鳥シリーズだな。
第一、スケールそのものが違う、こいつは超大作だ。
神代の時代から、近未来までの
不死鳥をテーマ―にしてるんだから、こいつは奥が深くて、すこぶる凄い。」
やはり茨城くんはどこまでいっても徹底した、熱狂的な手塚ファンの一人です。
この後も次から次へと手塚治の作品の話が、延々と留まることなく続きました。
やがて、突然何かを思いついた茨城くんが、
「そうだ、待ってろ群馬。一人いいやつがいる。」とひょいと部屋を
飛び出していってしまいます。
※「ガロ」は、青林堂出版の月間マンガ雑誌として1964年に創刊され、
白戸三平の「カムイ伝」などで脚光をあび、
多くの新人作家たちを輩出してきた新進の漫画雑誌です。
編集者側からの介入がすくなく、多くの作家が意欲作や野心的作品をたくさん書き、
それらを取り上げてきたことで、革新的な漫画雑誌としてたかく評価されました。
「COM」は、これに対抗して虫プロが1967年に創刊された月刊誌です。
ともに、全共闘時代の学生たちに大きな支持を得た漫画雑誌です。
なお、水木しげるがこの時代に、ゲゲゲの鬼太郎の前身にあたる、
「鬼太郎夜話」をガロで連載していました。
「待たせたな。おい、入れよ。」
やっと戻ってきた茨城くんが、後ろを振り返り手招きをしています。
ドアのところには、長髪の女の子がどうしたものかと、たじろいでいるのが見えます。
「大丈夫だって。
こいつは、ここの怪奇館の住人じゃないぜ。
つい最近、群馬からはるばると上京してきたばかりの田舎者だ。
ついでだから、東京の暮らし方ってやつを、この田舎者にも教えてやってくれ。
こいつも、桐生とかいっていたから、さっちゃんとは同郷だろう?」
「え、桐生からですか!
私も桐生です。どのあたりですか。!」
同郷と聞いて警戒を緩めた女の子が、一歩二歩と部屋の中に入ってきました。
良く見ると色白で、まつ毛の長い、いやみをもたない細面の美形です 。
「本町1丁目です、家は下町のほうで天満宮の近所にあります。」
「うわ~懐かしい!・・・私の家も近所です。」
「あなたも、天満宮の近所ですか。」
「わたしは2丁目です。
山の手通りのすぐ下ですが。
天満宮の境内では、毎日遊んでいました!わああ、同郷なんて懐かしい!!。」
がぜん盛り上がりそうな展開になってきました。
この突然現れた女の子は、隣のアパートに住んでいる美術大学の学生です。
「怪奇館」と呼ばれているこちらのアパートにも、同じ大学へ通う2人の女学生が居るそうで、
どうやらそちらの2人と深い親交があるようです。
気配から察すると、茨城くんが恋慕しているように見えましたが、
観察をするにつけ、この二人の間にはどうやらまだまだ微妙な距離がありそな気配がしています。
すぐ隣のアパートに住むとはいえ、このさっちゃんも、
茨城くんにいくら呼ばれても一人で乗り込むには、相当な勇気がいるようです。
そんな微妙な空気に気がついたのか、茨城くんが下手な弁解を始めました。
「我が館にも、女人は3人ほどいます。
そのうちの2人が、ここにいるさっちゃんと同じ美大の女学生です。
しかしまぁ、私がこう言ってしまっては、あまりにも失礼なお話ですが、
さっちゃん以外の女性は、女としての存在価値は、まったくもっての問題外で、
二束三文といえる代物です。
女人として見ることさえも、実ははばかられる次第です。
まぁ、、これ以上、私の口からは仔細を申しあげるわけにはいきませんが。
言うと後に、いろいろと差しさわりなども出てきますので・・・・」
その時です。
どやどやと足音が響いてきて、あっというまに女性の一団が茨城君の部屋に現れました。
先頭の一人が腕組をしたまま、強い目線で茨城君を睨みつけています。
「あんたねぇ、
仔細を言うとどこにどんなふうに支障が出来るわけ?
どうせ褒めてくれないことは解っているけれど、
さっちゃん以外は女じゃないなんて、ずいぶんと言ってくれるわね。
また言葉巧みにさっちゃんを部屋へ引きずり込んだというから、
こうして、『女ではない』3人で、救出に来たんだけど、なんか様子が変だわね・・
第一、さっちゃんが、安心したような顔で座っているし、
見かけないのも一名いるし・・・今日は一体どうなってんのさ、茨城君。」
「あら、ほんとうだ・・・見かけない顔だわねぇ、あんた」
「あらまぁ、邪魔者がいたんじゃぁ、
さすがの茨城も、さっちゃんには手をだせないか。
でもほんとに見かけない顔だねぇ・・あんた、どこから来た何者さ?」
入口に突っ立ったままで、3人で好き勝手な会話をはじめています。
すでに気遅れをしたのか、今までの勢いはどこへやら、茨城君はすでに
部屋の一番奥の壁に避難をしてしまいました。
どうやら、先頭で腕組をしているスレンダーなこの女の子が苦手なように見えます。
見た感じでは、この女の子が全体のリーダー格のような雰囲気を持っていました。
茨城君がすっかりとおじけずいているために、
仕方が無いので、自ら自己紹介をして名乗り出ることにしました。
「他人の部屋で、上がってくださいというのも変ですが、
よかったら一緒に話をしませんか。
私は、たった今ここで行き会ったばかりのさっちゃんと、同じ桐生市の出身です。
懐かしいだろうからということで、茨城くんがわざわざ彼女を誘って
連れて来てくれたというのが、どうやらこの場の顛末のすべてのようです。
せっかくだから、みんなで仲良くやりましょう。
さあ、あがって、あがって。」
「へぇ、そういうことだったんだ・・・
あんたも面白い事を言う児だわねぇ、気にいっちゃった!。
じゃあ今夜は予定を変えて、ここで一杯やろうか。
ねぇ、みんな。」
リーダー格と思われる女の子がそう言うと、
背後に顔をそろえた二人が、『嘘でしょう!』とばかりに同時に拒絶の声を出しました。
茨城君はリーダー格の女ばかりか、どうやら背後の二人からも嫌われているようです。
渋い反応ぶりの二人に向かって、
「ねぇ。私も久し振りに桐生の話が聞きたいし」と、さっちゃんが口をきき、
リーダー格も、『まぁまぁ、みんなもそう言わずに』と、強い態度と
鋭い視線で振り返りっています。
「せっかくのお客が来ているのだから、たまには、
もてない茨城の顔もたててやろう」と言う最後のひと押しが功を奏して、
二人も、ようやく飽きらめ顔で、同意をしました。
(へぇこの子、意外なほどの統率力も持ってんだ・・・俗に言う姐肌ってやつだな。)
などと思う暇もなく、あっというまに予定外の宴会の準備がはじまってしまいました。
女が4人も飛び入りで参加をして、4畳半の茨城君の部屋では、
なんとも色っぽい最初の大宴会がはじまりました。
(資料映像・虫プロより。鉄腕アトム)
・本館の「新田さらだ館」は、こちらです http://saradakann.xsrv.jp/
(16)第1章 怪人たち館に美女がいる
(古い木造のアパートの入り口。むかしはこんな風なアパートが沢山ありました)
青柳インテリャの仕事は実に多岐にわたります。
デパートやスーパーマーケットでの内装の取り換えや補修などから始まって、
新築住宅や改築時のカーテンの取り付けなどはもちろんのこと、
イベント会社の応援で、徹夜で会場の設営をこなすなど
とにかくすべての分野を網羅して、さながら「便利屋」のような様相を呈していました。
昼と夜との作業を交互に繰り返しながら
些細な修理から、体育館のようなイベント会場の設営までを飛び回ります。
もちろん、茨城くんに教えられたように、『ばれない程度』に
適度な範囲で手抜き作業を行いました・・・・
壊れやすくしておくことも、実は大切な「技」のひとつです。
「見た目を綺麗に仕上げておいて、適度に壊れやすくしておく」ことが肝心でした。
丈夫に造りすぎると、次の仕事に差し障りがでるのです。
ほどよく消耗させて、壊れやすくしてことも、作業を効率化させる狙いのひとつです。
しかしイベント会場などでは、簡易に作りすぎたために、いつ壊れるのかと、
舞台裏で、はらはらドキドキとしすぎた時などもありました・・・
仕事に慣れてくると
漫画家志望の茨城くんの部屋と、私の部屋の往復がはじまりました。
どちらも青柳インテリァの社宅代わりとして、借り上げてくれた部屋ですが、
茨城君のアパートは、現代版「ときわ荘」のような趣があります。
■ときわ荘。
かつて売れる前の新人の漫画家たちが、集結をしたという伝説のアパートです。
現在でも一線で活躍している、巨匠たちが此処から沢山誕生しています。
風呂なしの4畳半一間が10室もあり
そこには自称絵描きや、見るからに怪しい美術大学の学生、
将来を夢見るマンガ家たちで、連日にわたって人があふれています。
日暮れと共に、どこからともなく住人たち以上の人数が集まってくるのです。
必ずどこかしらの部屋で、夜を徹しての芸術談義が始まります。
初めて茨城君の部屋へ寄りこんだ晩も、実にそのままの有様でした。
開け放たれたドアからは次々に、見るからに怪しそうな人たちが覗きにやってきました。
「おう、新入りか、どこの部屋だ?」
「いや、いまは満室だから部屋は空いていないはずだ。
茨城の居候か・・」
「専攻はなんだ、俺は多摩美で油絵を書いている。」
「おれは、彫刻だ」
「まてまて、こいつは俺と同じ仕事場の友人だ。
今夜は二人で語りあう予定だから、そのあたりの話は明日にしてくれ。
とりあえず、今日は2階のゴッホのところにでも集まってくれ。
ハイハイ、みなさん本日のところは、こんなところでは解散、解散。」
茨城くんは熱狂的な手塚治のファンです。
壁に書いた自作の鉄腕アトムは、大きなこぶしをまっすぐに突き出して
いまにも大空へ飛び出しそうな勢いがあります。
「俺は断然、手塚だな。
第一、画の勢いが違うもの、
これからの時代は、冒険活劇かSFものだと思うけど、
群馬のすきな漫画家は誰だ。」
「永島慎二で、『フーテン』と『漫画家残酷物語』。
あと、面白いと思うのは、つげ義春の『ねじ式』かな
怪奇物が得意な水木しげるというのもいるが、話は面白いが、
画自体が個性的すぎて、好きになれない。」
「なんだよ・・・・全部、月刊ガロの作家だな。
まぁ、それでも群馬の片田舎に住んでいる割には、いい感度をしているほうだ。
つげ義春に関しては、俺も面白いと思っている。
しかし、やっこさんは筆が遅すぎて、まったく新作を出さないからなあ~
俺はやっぱりなんといっても手塚治だ。
雑誌といえば、月刊COMが命だな。」
「うん、手塚プロ(正式には虫プロ)はすごいね。
今度、アトムが映画にもなるそうだね。」
「数ある手塚作品のなかでも、アトムだけは駄目だ。
所詮は、小学生か、そのへんのガキ向けの科学漫画にすぎん。
俺のいち押しは、火の鳥シリーズだな。
第一、スケールそのものが違う、こいつは超大作だ。
神代の時代から、近未来までの
不死鳥をテーマ―にしてるんだから、こいつは奥が深くて、すこぶる凄い。」
やはり茨城くんはどこまでいっても徹底した、熱狂的な手塚ファンの一人です。
この後も次から次へと手塚治の作品の話が、延々と留まることなく続きました。
やがて、突然何かを思いついた茨城くんが、
「そうだ、待ってろ群馬。一人いいやつがいる。」とひょいと部屋を
飛び出していってしまいます。
※「ガロ」は、青林堂出版の月間マンガ雑誌として1964年に創刊され、
白戸三平の「カムイ伝」などで脚光をあび、
多くの新人作家たちを輩出してきた新進の漫画雑誌です。
編集者側からの介入がすくなく、多くの作家が意欲作や野心的作品をたくさん書き、
それらを取り上げてきたことで、革新的な漫画雑誌としてたかく評価されました。
「COM」は、これに対抗して虫プロが1967年に創刊された月刊誌です。
ともに、全共闘時代の学生たちに大きな支持を得た漫画雑誌です。
なお、水木しげるがこの時代に、ゲゲゲの鬼太郎の前身にあたる、
「鬼太郎夜話」をガロで連載していました。
「待たせたな。おい、入れよ。」
やっと戻ってきた茨城くんが、後ろを振り返り手招きをしています。
ドアのところには、長髪の女の子がどうしたものかと、たじろいでいるのが見えます。
「大丈夫だって。
こいつは、ここの怪奇館の住人じゃないぜ。
つい最近、群馬からはるばると上京してきたばかりの田舎者だ。
ついでだから、東京の暮らし方ってやつを、この田舎者にも教えてやってくれ。
こいつも、桐生とかいっていたから、さっちゃんとは同郷だろう?」
「え、桐生からですか!
私も桐生です。どのあたりですか。!」
同郷と聞いて警戒を緩めた女の子が、一歩二歩と部屋の中に入ってきました。
良く見ると色白で、まつ毛の長い、いやみをもたない細面の美形です 。
「本町1丁目です、家は下町のほうで天満宮の近所にあります。」
「うわ~懐かしい!・・・私の家も近所です。」
「あなたも、天満宮の近所ですか。」
「わたしは2丁目です。
山の手通りのすぐ下ですが。
天満宮の境内では、毎日遊んでいました!わああ、同郷なんて懐かしい!!。」
がぜん盛り上がりそうな展開になってきました。
この突然現れた女の子は、隣のアパートに住んでいる美術大学の学生です。
「怪奇館」と呼ばれているこちらのアパートにも、同じ大学へ通う2人の女学生が居るそうで、
どうやらそちらの2人と深い親交があるようです。
気配から察すると、茨城くんが恋慕しているように見えましたが、
観察をするにつけ、この二人の間にはどうやらまだまだ微妙な距離がありそな気配がしています。
すぐ隣のアパートに住むとはいえ、このさっちゃんも、
茨城くんにいくら呼ばれても一人で乗り込むには、相当な勇気がいるようです。
そんな微妙な空気に気がついたのか、茨城くんが下手な弁解を始めました。
「我が館にも、女人は3人ほどいます。
そのうちの2人が、ここにいるさっちゃんと同じ美大の女学生です。
しかしまぁ、私がこう言ってしまっては、あまりにも失礼なお話ですが、
さっちゃん以外の女性は、女としての存在価値は、まったくもっての問題外で、
二束三文といえる代物です。
女人として見ることさえも、実ははばかられる次第です。
まぁ、、これ以上、私の口からは仔細を申しあげるわけにはいきませんが。
言うと後に、いろいろと差しさわりなども出てきますので・・・・」
その時です。
どやどやと足音が響いてきて、あっというまに女性の一団が茨城君の部屋に現れました。
先頭の一人が腕組をしたまま、強い目線で茨城君を睨みつけています。
「あんたねぇ、
仔細を言うとどこにどんなふうに支障が出来るわけ?
どうせ褒めてくれないことは解っているけれど、
さっちゃん以外は女じゃないなんて、ずいぶんと言ってくれるわね。
また言葉巧みにさっちゃんを部屋へ引きずり込んだというから、
こうして、『女ではない』3人で、救出に来たんだけど、なんか様子が変だわね・・
第一、さっちゃんが、安心したような顔で座っているし、
見かけないのも一名いるし・・・今日は一体どうなってんのさ、茨城君。」
「あら、ほんとうだ・・・見かけない顔だわねぇ、あんた」
「あらまぁ、邪魔者がいたんじゃぁ、
さすがの茨城も、さっちゃんには手をだせないか。
でもほんとに見かけない顔だねぇ・・あんた、どこから来た何者さ?」
入口に突っ立ったままで、3人で好き勝手な会話をはじめています。
すでに気遅れをしたのか、今までの勢いはどこへやら、茨城君はすでに
部屋の一番奥の壁に避難をしてしまいました。
どうやら、先頭で腕組をしているスレンダーなこの女の子が苦手なように見えます。
見た感じでは、この女の子が全体のリーダー格のような雰囲気を持っていました。
茨城君がすっかりとおじけずいているために、
仕方が無いので、自ら自己紹介をして名乗り出ることにしました。
「他人の部屋で、上がってくださいというのも変ですが、
よかったら一緒に話をしませんか。
私は、たった今ここで行き会ったばかりのさっちゃんと、同じ桐生市の出身です。
懐かしいだろうからということで、茨城くんがわざわざ彼女を誘って
連れて来てくれたというのが、どうやらこの場の顛末のすべてのようです。
せっかくだから、みんなで仲良くやりましょう。
さあ、あがって、あがって。」
「へぇ、そういうことだったんだ・・・
あんたも面白い事を言う児だわねぇ、気にいっちゃった!。
じゃあ今夜は予定を変えて、ここで一杯やろうか。
ねぇ、みんな。」
リーダー格と思われる女の子がそう言うと、
背後に顔をそろえた二人が、『嘘でしょう!』とばかりに同時に拒絶の声を出しました。
茨城君はリーダー格の女ばかりか、どうやら背後の二人からも嫌われているようです。
渋い反応ぶりの二人に向かって、
「ねぇ。私も久し振りに桐生の話が聞きたいし」と、さっちゃんが口をきき、
リーダー格も、『まぁまぁ、みんなもそう言わずに』と、強い態度と
鋭い視線で振り返りっています。
「せっかくのお客が来ているのだから、たまには、
もてない茨城の顔もたててやろう」と言う最後のひと押しが功を奏して、
二人も、ようやく飽きらめ顔で、同意をしました。
(へぇこの子、意外なほどの統率力も持ってんだ・・・俗に言う姐肌ってやつだな。)
などと思う暇もなく、あっというまに予定外の宴会の準備がはじまってしまいました。
女が4人も飛び入りで参加をして、4畳半の茨城君の部屋では、
なんとも色っぽい最初の大宴会がはじまりました。
(資料映像・虫プロより。鉄腕アトム)
・本館の「新田さらだ館」は、こちらです http://saradakann.xsrv.jp/
『女ではない』三人組のリーダー格、好きだなあ。モデルはもちろん……?――笑