研究を計画する際には、その研究内容に倫理的に問題がないかを検討する倫理委員会の承認を得なければならない。そうでなければ、「子どもに1日1回の食事を与えた場合と、1日3回の食事を与えた場合を比較してどちらが健康に育つか」などという倫理的に誤った研究が始まりかねない。
倫理委員会は大学や病院など各機関が開催するが、当然のことながら医者のみで判断していては研究内容に倫理的な偏りが生じる可能性もあり、外部の知識人、市民もメンバーに加えないといけないことになっている。大学の場合も特に厳密に行われており、例えばそれぞれ専門が異なる教授3名、外部知識人4名、市民4名に対して、あらかじめ研究内容、患者への説明書、承諾書の内容を文書で報告し、倫理委員会では内容を発表後、質問を受けることになる。
中には「プライバシー」という表現はあいまいだから、「患者情報」とした方がいいといった意見が一般市民の方から寄せられたり、薬剤投与の妥当性まで、様々なことが検討される。研究を計画する者にとっては基本中の基本、常識中の常識と言っても過言ではない。米国では以前からかなり厳密であったが、日本で厳密に行われるようになったのは10年ほど前からで、以前は患者が知らされないうちに血液検査のデータが研究に使われていたというニュースも時々耳にしたと思う。研究論文には「その研究内容が研究が行われた施設の倫理委員会で承認を受けた」ことを記載するのが常識である。
さて、私は月に二編ぐらいの頻度で、米国を中心としたさまざまな医学雑誌から研究論文の審査を依頼される。その中で、特に気になるのは論文内に倫理委員会の承諾やインフォームドコンセントを得たことが記載されていない論文があることである。
上述したように、倫理委員会の記載はどの医学雑誌も投稿規定に掲げていて、研究者にとって「基本中の基本、常識中の常識」であるから、論文を1度でも掲載させたことのある者は「方法」の中に必ず記載して、決して忘れることなどない。従って、倫理委員会の記載がない論文を見ると、著者は初めて研究論文なるものを書いていて、その共同著者である上司も論文を実際にチェックしていないことが一目でわかる。
提出された論文は共同著者全員が読んでいることが規則となっているから、二重のルール違反ということになるか、著者全員が初心者であるかのどちらかである。
私が審査のコメントに倫理委員会のことが記載されていないと書くと、予想に違わずかならず「忘れていた」という返事が届く。
私はここでハッとする事がある。本当に倫理委員会の記載を忘れただけなのだろうか。もともとそんな承認を得ていないのではないだろうか。本当にちゃんとした倫理委員会を開いているのだろうか。
研究者にとって「基本中の基本、常識中の常識」であって忘れることがない記載を忘れることなど、クツを履くのを忘れて出勤し、電車の中で気がつくのと同じくらい起こり得ないことである。クツを履くのを忘れれば、玄関を出た瞬間に気がつくはずである。
だとすれば、「忘れていた」という返事を書いてくる研究者はかなり悪質である。そういう論文の内容は、研究者の判断でどうにでも解釈できる指標を使っていたりして程度が低いことが多いし、嘘を嘘で塗り固めている論文には怒りさえ感じることがある。しかもそれがインパクトファクターが10ぐらいの雑誌に投稿されていたりするのであるから驚いてしまう。
いろいろと問題があり私が落とした論文も、医学雑誌のグレードを落として再投稿されるが、その医学雑誌でも私が審査員ということがあり、それを知らない著者は以前指摘された問題点を直すこともなく再投稿している悪質な場合もある。そういう場合は当然また落ちることになる。
先日、韓国から投稿された論文を審査していたら、どこかで読んだような文章がずらりと並んでいた。よく考えるとそれらは自分が以前に書いた論文の文章そのままだった。通常、一般的な事実を文章にしようとすれば、自然と文章は似てしまいそれはそれで仕方がないことであるが、単語を一部換えただけで一段落ごと全て同じ文章だと、盗作以外の何ものでもない。韓国人の著者は、盗作した段落を書いた相手が論文を審査しているなどとは夢にも思わなかったのだろう。当然そういう論文は落ちることになる。
今日も韓国の論文を審査していて、5平方ミリメートルの正方形の範囲を分析したと書いてあったが、5平方ミリメートルにするためには一辺はルート5(2.2360679...)でなければいけない。どうやって正確にルート5の一辺の長さを描くことができるのだろうか。本当にちゃんと解析していれば4平方ミリメートルとか9平方ミリメートルというように2の二乗とか3の二乗にならないだろうか。読者や審査員には分からないからと、5平方ミリメートルと後から適当に数字をねつ造したとしか思えないのである。
論文というものは過去に永久に残り続ける。私がそういう論文に出会った時には、著者らが5年後に恥をかかないよう審査するようにしている。
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倫理委員会は大学や病院など各機関が開催するが、当然のことながら医者のみで判断していては研究内容に倫理的な偏りが生じる可能性もあり、外部の知識人、市民もメンバーに加えないといけないことになっている。大学の場合も特に厳密に行われており、例えばそれぞれ専門が異なる教授3名、外部知識人4名、市民4名に対して、あらかじめ研究内容、患者への説明書、承諾書の内容を文書で報告し、倫理委員会では内容を発表後、質問を受けることになる。
中には「プライバシー」という表現はあいまいだから、「患者情報」とした方がいいといった意見が一般市民の方から寄せられたり、薬剤投与の妥当性まで、様々なことが検討される。研究を計画する者にとっては基本中の基本、常識中の常識と言っても過言ではない。米国では以前からかなり厳密であったが、日本で厳密に行われるようになったのは10年ほど前からで、以前は患者が知らされないうちに血液検査のデータが研究に使われていたというニュースも時々耳にしたと思う。研究論文には「その研究内容が研究が行われた施設の倫理委員会で承認を受けた」ことを記載するのが常識である。
さて、私は月に二編ぐらいの頻度で、米国を中心としたさまざまな医学雑誌から研究論文の審査を依頼される。その中で、特に気になるのは論文内に倫理委員会の承諾やインフォームドコンセントを得たことが記載されていない論文があることである。
上述したように、倫理委員会の記載はどの医学雑誌も投稿規定に掲げていて、研究者にとって「基本中の基本、常識中の常識」であるから、論文を1度でも掲載させたことのある者は「方法」の中に必ず記載して、決して忘れることなどない。従って、倫理委員会の記載がない論文を見ると、著者は初めて研究論文なるものを書いていて、その共同著者である上司も論文を実際にチェックしていないことが一目でわかる。
提出された論文は共同著者全員が読んでいることが規則となっているから、二重のルール違反ということになるか、著者全員が初心者であるかのどちらかである。
私が審査のコメントに倫理委員会のことが記載されていないと書くと、予想に違わずかならず「忘れていた」という返事が届く。
私はここでハッとする事がある。本当に倫理委員会の記載を忘れただけなのだろうか。もともとそんな承認を得ていないのではないだろうか。本当にちゃんとした倫理委員会を開いているのだろうか。
研究者にとって「基本中の基本、常識中の常識」であって忘れることがない記載を忘れることなど、クツを履くのを忘れて出勤し、電車の中で気がつくのと同じくらい起こり得ないことである。クツを履くのを忘れれば、玄関を出た瞬間に気がつくはずである。
だとすれば、「忘れていた」という返事を書いてくる研究者はかなり悪質である。そういう論文の内容は、研究者の判断でどうにでも解釈できる指標を使っていたりして程度が低いことが多いし、嘘を嘘で塗り固めている論文には怒りさえ感じることがある。しかもそれがインパクトファクターが10ぐらいの雑誌に投稿されていたりするのであるから驚いてしまう。
いろいろと問題があり私が落とした論文も、医学雑誌のグレードを落として再投稿されるが、その医学雑誌でも私が審査員ということがあり、それを知らない著者は以前指摘された問題点を直すこともなく再投稿している悪質な場合もある。そういう場合は当然また落ちることになる。
先日、韓国から投稿された論文を審査していたら、どこかで読んだような文章がずらりと並んでいた。よく考えるとそれらは自分が以前に書いた論文の文章そのままだった。通常、一般的な事実を文章にしようとすれば、自然と文章は似てしまいそれはそれで仕方がないことであるが、単語を一部換えただけで一段落ごと全て同じ文章だと、盗作以外の何ものでもない。韓国人の著者は、盗作した段落を書いた相手が論文を審査しているなどとは夢にも思わなかったのだろう。当然そういう論文は落ちることになる。
今日も韓国の論文を審査していて、5平方ミリメートルの正方形の範囲を分析したと書いてあったが、5平方ミリメートルにするためには一辺はルート5(2.2360679...)でなければいけない。どうやって正確にルート5の一辺の長さを描くことができるのだろうか。本当にちゃんと解析していれば4平方ミリメートルとか9平方ミリメートルというように2の二乗とか3の二乗にならないだろうか。読者や審査員には分からないからと、5平方ミリメートルと後から適当に数字をねつ造したとしか思えないのである。
論文というものは過去に永久に残り続ける。私がそういう論文に出会った時には、著者らが5年後に恥をかかないよう審査するようにしている。
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