医者から詳しく聞かされない医療情報:セカンドオピニオン

誤解と批判を恐れない斜め後ろから見た医療情報

急性心筋梗塞でつまったままの血管に後から風船療法をしても内服治療と効果は同じ

2006年11月26日 | 循環器
以前、「以前につまった心臓の血管を流れるようにするとどれだけ恩恵があるか」で、「狭窄や閉塞がない場合」と「狭窄や閉塞がある場合」の生存率の差はたった2.7%で、狭窄や閉塞をなくす治療を施しても、その恩恵を得ることができるのは37人に1人」であることをお伝えしました。


今回の米国心臓病学会で、東京日和@元勤務医さまがご指摘のように、「心筋梗塞後につまったままの血管に風船療法をしても内服治療と効果は同じ」という大規模臨床試験の結果が発表され、同日の医学雑誌に掲載されましたので、ご紹介いたします。

Coronary intervention for persistent occlusion after myocardial infarction.
N Engl J Med. 2006;355.
(インパクトファクター★★★★★、研究対象人数★★★★★)

あとで急性心筋梗塞と判明したという理由などで、緊急に風船治療やステント治療が行われておらず、急性心筋梗塞を起こした血管が詰まったままで、心臓の働きが正常の6分の5以下の患者さんが、入院後3日~28日の間に風船治療やステント治療をうける1,082人と、風船治療やステント治療を行わずにそのまま内服治療する1,084人に無作為に割り付けられ、4年間比較調査されました。

調査項目は、全ての原因の死亡、致死的・非致死的の心筋梗塞の再発、心不全、心臓病による死亡、脳梗塞です。

両群の内服薬の状況では、動脈硬化性心臓病の予後を改善するといわれている抗血小板薬、アスピリンはむしろ風船療法群に多く使われており、その他カルシウム拮抗剤、βブロッカー、アンギオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害剤)、アンギオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)の処方は両群で同じ割合でした。

結果は、全ての原因の死亡、致死的・非致死的の心筋梗塞の再発、心不全、心臓病による死亡、脳梗塞の全てで両群の発症率が同じでした。つまり、緊急で風船治療やステント治療が行われておらず、急性心筋梗塞を起こした血管が詰まったままでも内服治療していれば、風船治療やステント治療した場合と効果は同じということです。

言い換えれば、緊急で風船治療やステント治療がされておらずその血管が詰まったままで、その血管に風船治療やステント治療をしても、飲み薬だけで様子をみている場合以上の成果があげられないということです。

これだけこういう結果が出ると、細いところがあれば何でも広げるという循環器医は認識を変える必要があるのではないかと思います。

以前お伝えした論文も並べてみました↓。



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以前につまった心臓の血管を流れるようにするとどれだけ恩恵があるか

2006年11月25日 | 循環器
以前、糖尿病の人では以前につまった心臓の血管を流れるようにしても生命予後は改善されないことをお伝えしました。それでは糖尿病の人に限らないとどうなのか。最近、そんな問いに対する結論が初めて大規模試験で示されました。

Impact of completeness of percutaneous coronary intervention revascularization on long-term outcomes in the stent era.
Circulation. 2006;113:2406.
(インパクトファクター★★★★☆、研究対象人数★★★★★)

対象はニューヨーク州の心臓カテーテル治療のデータベースから調べられた、ステントを使って心臓の血管のカテーテル治療を初めて受けた21,945人です。治療後の状態を各群に分類して3年間の生存率を調査しました。

全体の68.9%に少なくとも1カ所以上の狭窄あるいは閉塞がありました。

上の図の折れ線は、上から「狭窄や閉塞が一カ所もない場合」、「2本に狭窄があるが閉塞がない場合」、「少なくとも1本に狭窄があり、他の1本が閉塞している場合」です。3年後の生存率はそれぞれ91.4%、89.5%、88.7%でした。

この論文の結論は、各群の生存率には統計学的に差があり、ステントを入れて治療しても他の箇所に狭窄があると生存率を悪くするので、手術などを考慮して3本ともに狭窄や閉塞をなくす努力が必要だということですが、私はこのデータを別の視点で解釈するべきだと思っています。

それは、これら3群の生存率の絶対値にほとんど差が無いことです。つまり「狭窄や閉塞がない場合」と「狭窄や閉塞がある場合」の生存率の差はたった2.7%で、狭窄や閉塞をなくす治療を施しても、その恩恵を得ることができるのは37人に1人です(Nunber Needed to Treat=37)。

以前につまっている場所を流れるようにするには入院費を含めて200万円以上の費用と、最低でも2時間、時間がかかると5時間にも及ぶ治療が必要になります。それだけ努力しても、その恩恵を得ることができるのは37人に1人ということなのです。

再びFIREBIRDさんのブログ風です。

K部長は5時間かけてようやく終わった心臓カテーテル治療室で患者さんに呼びかけるのだった。

K部長「Aさん、このモニターを見て下さい。おーい、前のやつ出して!(放射線技師に治療前の画像をモニターに映し出させる)」「ここが完全に詰まっていたのが、ほら今は流れていますよ。これでもう大丈夫!」

患者A「先生ありがとうございました。先生は命の恩人です」

F医員「さすがK部長ですね」(命の恩人っていっても、流れるようにして恩恵が得られるのは37人に1人だけって、この前論文に書いてあったけど・・・)と思いつつ、こう言うしかない自分をふがいなく思うのだった。


ところで、高血圧、糖尿病、喫煙の有無や、コレステロールのレベルで今後6年間の心筋梗塞の発症危険率を推測できるJ-LITチャートというのがあります。これを使って患者さんに説明をしていると「今のままでは今後6年間に3.5%の確率で心筋梗塞が起きるけれど、禁煙をすればそれが3.1%に下がりますよ」と、あまり危険率が下がらない事に、説明する私も拍子抜けしてしまう事がありますが、この研究の結果でも同様の事が言えるのではないかと思います。

やはり患者さんへの説明で「つまったままでは今後3年間の生存率は88.7%だけど、流れるようにしたので91.4%になった」と説明するべきです。そして、「命の恩人」といえるほどの効果がないことを知っていただく必要があると思うのです。


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糖尿病では以前につまった心臓の血管を流れるようにしても生命予後は改善されない

2006年11月21日 | 循環器
心筋梗塞をおこすと胸が苦しくなったり胸痛が出現したりしますが、まれにその症状が弱く病院に行かないですんでしまったりする事があります。そういう場合はその後の心臓カテーテル検査で以前につまった部分が偶然発見される場合があります。心臓の筋肉(心筋)は約24時間血液の供給が途絶えると死んでしまいますから、以前につまった部分の心筋は既に死んでいることが多いのです。

この事から考えると、以前につまった心臓の血管を流れるようにしても死んだ心筋は蘇らずに、そういった治療の意義はないと考えられます。

しかし、心臓の血管は3本あり、心筋梗塞の時に1本がつまっても隣の血管から血液をもらい心筋の障害を最小限にとどめる作用があります。そうすると、以前につまった血管の場所の心筋が死んでいても、その後、その血管を流れるようにしておけば将来隣の血管がつまった場合に血液を供給する働きをして、患者さんの寿命が延びるのではないかという推測から「以前につまった心臓の血管を流れるようにする風船治療」がさかんに行われています。

この治療は細い針金を心臓の血管のつまった部分にもっていき、レントゲン透視を見ながらトンネルを掘るように慎重に道を作っていくというもので、職人技が要求されます。

本当にそのような「転ばぬ先のつえ」のような働きをして寿命を延ばすのかという証明はあまりありませんが、糖尿病の患者さんを対象とした研究の結果が最近発表されました。

Success rates of percutaneous coronary intervention of chronic total occlusions and long-term survival in patients with diabetes mellitus.
DiabeticVascular Disease Research. 2006;3:45.
(インパクトファクター:最近刊行されたばかりなのでまだない、研究対象人数★★★★☆)

対象は「以前につまった心臓の血管を流れるようにする風船治療」を受けた、心臓の血管が最低1本は完全につまっていた506人の糖尿病患者さんです。

「以前につまった心臓の血管を流れるようにする風船治療」が成功して流れるようになった群と、失敗して流れるようにはならなかった群を比較すると、1年後の死亡率は前者で22.2%、後者で26.8%と統計学的に差がありませんでした(p=0.30)。

つまり、糖尿病の患者さんでは、糖尿病であることによる悪影響の因子が、心臓の血管がつまったままかそうでないかという因子より影響が強く、1年後の死亡率は「以前につまった心臓の血管を流れるようにする風船治療」で流れるようにしても改善されないということです。

しかし現実は、糖尿病の患者さんに対しても「以前につまった心臓の血管を流れるようにする風船治療」がさかんに行われています。

FIREBIRDさんのブログ風ですとこんなぐあいです。

K部長「今日はここの完全閉塞を通す」

D医員「で・でも、血液を供給している範囲はごく限られていますよ。それにこの方、糖尿病だし・・・・」

K部長「そんなことはどうでもいい!ワシの職人技を見るがよい。それにそうした方が病院が儲かるし、症例の数も増え他の病院に自慢できるのだ!さらにあの会社のワイヤーを宣伝してやれば、今度の学会の時にきっといいことがある!」

という具合です。

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ビタミンB6,ビタミン12は動脈硬化性心臓病を減少させない

2006年11月14日 | 循環器
米国心臓病学会に参加しています。

昨年のLate Braking Newsに続いて、今年のLate Braking Newsの情報です。

最初に三段論法です。

1、ホモシスチンという物質が体内で増えると動脈硬化性心臓病が増える。
2、ビタミンB6,ビタミン12は体内のホモシスチンを低下させる。
3、ビタミンB6,ビタミン12は動脈硬化性心臓病を減少させる。

1と2は事実です。そこから3という結論が導き出せるかを調査したアメリカでの大規模臨床研究の結果が先ほど発表されました。まだ口頭での発表の段階ですから、詳しいことはわかりませんのでご了承下さい。

対象は動脈硬化性心臓病を発症したことがある、あるいはその危険因子である高血圧、糖尿病、高脂血症、喫煙のうち3つあてはまる女性です。

他のビタミン(例えばビタミンE、ビタミンC,ベータカロチン)を内服しているかどうかにかかわらず、ビタミンB6とビタミン12を内服する群と内服しない群にランダムに分けられ、約7年間調査されました。

結果は、ビタミンB6とビタミン12を内服しても、内服していない群と動脈硬化性心臓病や動脈硬化性心臓病による死亡の割合に差が認められませんでした。そしてこの結果は他のビタミンを内服しているかどうかにも関係がありませんでした。

ビタミンBも動脈硬化性心臓病には全く効果がなかったのです。

この結果を示すスライドが発表されるやいなや、会場内の1,000人以上の聴衆のうち100人以上が「やっぱりな~」とか「差がないとわかればこれ以上聞く必要もないよ」という感じで会場から出て行きました。

実は、会場からそそくさと出て行ったこれらの人たちはおそらく医者ではありません。ビタミンBが動脈硬化性心臓病に効果があるかないかの結果は、ビタミンB製剤を作っている会社にとって死活問題であり、その会社のstock holderが株を売りに出て行ったり、新聞記者が本社に連絡したりするために出て行ったのです。


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米国心臓病学会

2006年11月09日 | 雑感
米国心臓病学会が近づいてきました。今年はシカゴで開催されます。

米国心臓病学会には世界中から循環器分野の最先端の情報が集まります。毎年3万人が参加し、応募される演題1万題の中で採択される演題は3千題と狭き門となっています。英語の問題があるのでしょうか、日本からの演題の採択率は1割台です。

昨年は米国国内からの移動でしたから比較的楽でしたが、今年は日本から参加するので移動もしんどいです。

期間中、更新できるようでしたら新しい情報をお伝えしたいと思います。明日立ちます。JALの直行を選びました。アメリカの航空会社はテロが怖いです・・と言うより、乗客の荷物を投げ放題(スーツケースのどこかが壊れます)、荷物が到着しない(アメリカ国内で乗り換えると危険です)、時間通りに到着しないetc. あまり好きではないのです。その点、日本の航空会社はまだましです。

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臨床研究と利益相反

2006年11月06日 | 雑感
「臨床研究と利益相反」という講義を聴いてきました。

私のブログでは、主に臨床研究の結果をもとに治療の有効性をご紹介しています。治療の有効性は大規模臨床試験などから得られたエビデンスに基づくいわゆるEBMから示されていますが、大規模臨床試験で得られた有効性を現実の患者さんに適応する時には、一部の条件を仮定しなければなりません。

例えば、同じ薬の効果が人種や性別などによって異なる可能性があるために、アメリカで行われた大規模臨床試験の結果が、たとえ傾向は同じであっても、そのまま日本人に当てはまるとはかぎらず、「人種などが異なっても効果は同じである」という仮定のもとに、その結果を利用しているのです。

一方で、いったんエビデンスが確立されると、「人種などが異なっても効果は同じである」という仮定が一人歩きし、その薬のエビデンスを出した製薬会社の利益になっていきます。

最近、ファイザーというアメリカの製薬会社はコネチカット州にあるエール大学に資金を出して共同の研究所を設立しました。その研究所ではファイザーの薬の研究しか行われず、研究結果は商品として供給されるのです。

こういうことになると、企業の利益を生む研究だけが生き残り、企業に不利益な研究結果が公表されないという懸念がうまれてくるのです。これが「利益相反」と呼ばれるもので、医者、患者の双方の立場から、企業や研究者を監視することが重要になってきます。


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