医者から詳しく聞かされない医療情報:セカンドオピニオン

誤解と批判を恐れない斜め後ろから見た医療情報

新型インフルエンザ、診断確定前でも治療薬、厚労省通知

2009年09月21日 | インフルエンザ
新型インフルエンザに感染して死亡した横浜市の小学6年の男子児童(12)がタミフルなどの治療薬を投与されていなかったことを受け、厚生労働省は9月18日、感染の疑いがある患者については、感染が確定していなくても医師の判断でタミフル等の治療薬を投与できることを改めて周知する通知を都道府県などに出した。横浜市などによると、男児は2日午前、高熱を出して医療機関を受診、簡易検査を受けたが陰性だった。この医療機関ではタミフルなどの投与を受けず、翌日に容体が悪化して入院した。
(読売新聞より引用)

10代の患者がベランダなどから飛び降り転落死する事故が相次いだため、07年3月、厚労省は10代へのタミフルの処方を原則中止する通知を出していました。
以前の記事でも書きましたが、その後厚労省は10代へのタミフルの処方を解禁しました。

そして予想どおり、今回は実質的には「10代の患者に対する積極的使用の推奨」です。

確かに、新型インフルエンザで重症化する小児はいますが、そのことをもって全ての患者を対象に診断確定前でもタミフルを使用することを推奨するのはどうかと思います。

「抵抗力」とか「免疫力」を数値化するのは不可能ですが、同じ10歳でもそれまでのカルテが2ページの子供もいるし、何度も発熱などで受診するなど20ページ以上に及ぶ子供もいます。ほとんど医者にかかったことがない子供もいますし、気管支喘息やネフローゼ症候群などで何年も通院を余儀なくされている子供もいます。

私個人の意見としては、何度も病院を受診したりする子供は、なんらかの原因(生まれつきかもしれない)で、数値化できない部分でいうところの「抵抗力」の低さがあるのだと思います。同じインフルエンザに罹患しても脳炎になる子供とそうでない子供の差は、この生まれつきともいえる「抵抗力」の差だと思うのです。

厚労省は、そういう「抵抗力」の低い(何度も受診を繰り返している)子供を選んで、タミフルを処方するような通達を、工夫して出すべきだと思います。プロなんですから。

なに、プロじゃない、失礼しました。

厚労省と現場の認識の乖離は、太平洋戦争時代、前線の状態を全く把握していなかった大本営の再来を思わせます。


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悪玉コレステロール低下剤、ゼチーアの効果について

2009年09月10日 | 生活習慣病
ゼチーアが追加投与された群では、悪玉コレステロールはさらに20%下がったのですが(左図)、頸部の動脈の厚みは両群で2年間変化がありませんでした(右図)


悪玉コレステロールを低下させる薬剤には、悪玉コレステロールの合成を阻害するメバロチン、リポバス、リピトール、ローコール、クレストール、リバロなどのスタチンと呼ばれる薬剤と、悪玉コレステロールの吸収を阻害するゼチーアがあります。

ゼチーアに関しては以下のような有名な研究結果が、インパクトファクター50もある超優秀な医学雑誌で報告されています。

Simvastatin with or without Ezetimibe in Familial Hypercholesterolemia

N Engl J Med 2008;358:1431
(インパクトファクター★★★★★、研究対象人数★★★★☆)

この研究では、家族性高コレステロール血症という遺伝的に悪玉コレステロールが高い患者720人が対象とされました。家族性高コレステロール血症の患者を選んだのは、薬の効果が出やすいため薬の違いによる効果の差を明らかにしやすいからです。

720人はリポバスというスタチンを80mg内服する群と、リポバス80mgとゼチーア10mgの両方を内服する群に、無作為に割り付けられ、頸部の動脈の厚みに関して、超音波検査で2年間調査されました。

頸部の動脈の厚みが調べられたのは、これまでの多くの研究で、頸部の動脈の厚みが厚いほど、心筋梗塞の発症やそれによる死亡、脳梗塞の発症やそれによる死亡が多くなり、動脈硬化の程度の判定にとても有用だということが分かっているからです。

この研究は、ゼチーアを販売する「米国メルク社とシェリング・プラウ社がスポンサーになっている」と研究施行前に明らかにしている点でも、画期的だとして注目されました。米国メルク社とシェリング・プラウ社は、よほど研究結果に自信があったのでしょう。

しかし、結果はその予想に反して、頸部の動脈の厚みは2年間で両群に差が認められませんでした。つまり、ゼチーアをスタチンに追加投与しても、効果は追加しない場合と同じことが明らかになったのです。

この結果は間接的に、心筋梗塞の発症やそれによる死亡、脳梗塞の発症やそれによる死亡のリスクを軽減しないということを意味しています。

さらに衝撃的だったのは、薬の差が出やすい家族性高コレステロール血症の患者で差がなかったということは、通常の高コレステロール血症の患者ではさらに効果が出にくいということを意味したことです。

「米国メルク社とシェーリング社はこの結果を公表することを意図的に遅らせた」という疑惑まで浮上しました。

この結果からは、スタチンをすでに内服している患者は、ゼチーアを追加して内服しても恩恵は得られないといえます。

ここで1つの疑問が生まれます。それでは、何も内服していない高コレステロール血症患者と、ゼチーアだけを内服する患者を比べたら、ゼチーアを内服する意義を証明できるのではないか?

ところが、こういった研究を行うのは難しいのです。なぜなら、これまでスタチンの効果が十分に確立されているので、悪玉コレステロールが例えば160mg/dl以上の患者に何も内服させないという群を研究で設定することが倫理的に難しいからです。


それに加えて、倫理的な条件を満たしていないと、以前お伝えしたように、優れた医学雑誌には受け入れてもらえないため、論文の著者たちが躊躇してしまうのです。でも、全く不可能というわけではありません。


しかし、最近、我が国において「ユートピア75」という研究がスタートしました。

↓研究の概略はこちらです。
「ユートピア75」

↓パワーポイントをお持ちの方はこちらがわかりやすいです
「ユートピア75」

これは、75歳以上で悪玉コレステロールが140mg/dl以上の患者を、食事指導だけでゼチーアを内服しない群と、ゼチーアを内服する群に分けて、心筋梗塞の発症やそれによる死亡、脳梗塞の発症やそれによる死亡を3年間観察し、両群の差を調べるものです。

75歳以上を研究対象としている理由は、高齢者の方が心筋梗塞や脳梗塞の発症は多く、効果の差が出やすいからです。

この研究の成果が明らかになるまでは、ゼチーアの効果は憶測以外の何ものでもないことになります。

しかし、(1)スタチンを使用しないため倫理的な問題のクリアーが困難でも、(2)研究成果を掲載する医学論文の知名度が低くても、ゼチーアの効果を証明したいという主催者たちの意気込みが感じられる研究だと思います。


ただし、少し懸念されるのは、この研究でゼチーアの効果が証明されても、それは75歳以上の方に限った効果であり、それ以下の年齢層の場合はどうなのかが証明できないことです。


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コレステロール低下剤を内服していれば悪玉コレステロールは160mg/dlでも大丈夫

2009年09月03日 | 循環器
             (発表を見て、私のメモをもとに私が作図しました)


以前悪玉コレステロールは140mg/dlでも大丈夫という情報をお伝えしました。


そのことに関連して、今年7月の動脈硬化学会で日本人における重要な研究結果が発表になっています。

レムスタディーといって、研究開始前4週間はコレステロール低下剤を内服していない脂質異常症の患者19,875人(平均の悪玉コレステロール値は171 mg/dl)を対象にして、ローコールというコレステロール低下剤を投与して、これまでに動脈硬化性心臓病にかかっていない患者(一次予防)は5年間、かかったことのある患者は3年間観察したものです。

この試験にはコレステロール低下剤を内服しない群は設けられていませんので、内服している状態と内服しない状態を比較した試験ではありません。

上の図は、試験終了時の悪玉コレステロール値と心筋梗塞、狭心症、心臓病による死亡の発症数の関係を私が作図したものです。まだ論文になっていないので、縦軸の値を示すのは遠慮させていただきますが、このことから悪玉コレステロールの値はローコールというコレステロール低下剤を内服している限り180mg/dl以下であれば、それらの発症数は増えていないことを示しています。

しかも、二次予防、すなわち既にそれらの疾患に罹患した患者での結果です。
90 mg/dl、80 mg/dlと下げる必要はありません。一次予防でも同様の結果でした。


↓詳細はここから、ただし、このサイトにはこの結果は掲載されていません。
LEM study
医療関係者でなくても見られます。「このホームページは医療関係者、医薬品情報を取り扱う方々にのみにご利用いただくためのページです」と書いてありますが、患者が見たら不都合なことでもあるのでしょうか。情報公開という流れに逆行している文言ですね。

コレステロール低下剤を強力に処方されている患者の皆さんは、こんど病院に行ったら「先日、レムスタディーで、ローコールを飲んでいたら悪玉コレステロールはそんなに下げなくても大丈夫というデータがでていましたけど、私、こんなに飲まないといけないですか?」と聞いてあげて下さいね。

それから医者の皆さんは、「そういえばこの前の動脈硬化学会で発表されたLEM studyでは、二次予防でも180 mg/dl以下で差がつかなかったんだって?」と製薬会社に聞いてあげてくださいね。

いんちき臭い人たちが言っていたこれまでの概念を根底からくつがえすデータです。私は、こういう状態こそが日本人の欧米人と異なる特性であると以前から確信していましたので、それを裏付ける結果が出たのではないかと思います。これからもこのような結果がたくさん出てくると思います。

こういう結果は、悪玉コレステロールを強力に低下させることを宣伝して薬を売る製薬会社には不利なデータですから、それらの会社によって隠蔽されないように監視することが重要です。たぶんこういう結果は、医者には知らせないようにされるからです。


注意:糖尿病と高血圧症は日本人でも心筋梗塞の重要なリスク因子です。


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