医者から詳しく聞かされない医療情報:セカンドオピニオン

誤解と批判を恐れない斜め後ろから見た医療情報

サブグループ解析とNNT(その2)

2005年06月14日 | 本ブログの理解を深める基礎知識
Lancet. 2003;361:1149からの報告です。
(インパクトファクター★★★★☆、研究対象人数★★★★★)

サブグループ解析とNNTについてもう一つの例をあげたいと思います。ASCOT-LAAという研究では、40歳から79歳の高血圧の方で、糖尿病や喫煙などの動脈硬化の危険因子がすくなくとも他に3つ以上ある方を対象としています。リピトールと言うスタチンを1日10mg内服した(PROSPERという研究では40mgでしたので、この研究での使用量はその4分の1と経済的です)5,168人と内服していない5,137人を3.3年間比較しました。スタチンを内服しない群の心筋梗塞(軽症、重症、死亡の全てが含まれています)の発症率は3.0%だったのに対して内服していた群の発症率は1.9%で両群間に差があったという結果だったために、このスタチンを内服する事は心筋梗塞と脳梗塞の予防に有用だと結論づけられました。実数では1,000人中内服群が19人、非内服群が30人という事になります。内服群でも1,000人中970人の方が心筋梗塞になっていませんし、3.3年内服してもその差は1,000人中11人です。

それでは前述のNNT(Number Needed to Treat:患者さん1人がメリットを得るために、同様の患者さん何人に治療を行わなくてはならないのかを示す指数)という観点で考えてみましょう。2005年の時点でこのスタチンの値段は10mgで約163円です。1日10mgという事は、1日163円、1年365日で59,400円、3.3年間で約19万6千円です。これを1,000人に投与すれば1億9,600万円の薬代が製薬会社に支払われる事になります。そしてそのスタチンの投与で1,000中11人が心筋梗塞を免れるわけですから、心筋梗塞の発症を1人予防するために1,780万円が必要です。

前述のサブグループ解析という点では、この結果では全ての原因による死亡率、心臓の血管を原因とする死亡率、心不全、狭心症、不整脈、心臓の血管以外の動脈硬化(主に手足の血管の動脈硬化)、糖尿病の進行、腎臓の機能障害の進行に投与群と非投与群で差が認められていません。理由はわかりませんが女性に対しては心筋梗塞の発症に有効性が認められませんでした。そしてPROSPERという研究と同様に糖尿病の方にも効果が認められませんでした。

有効であった点は論文を読んでいない者にでも伝えられますが、有効でなかった点は論文を読んだ者にしか伝わらないものです。
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サブグループ解析

2005年06月09日 | 本ブログの理解を深める基礎知識
PROSPERという研究の中には興味深い結果が示されています。

サブグループ解析といって全体をさらにいくつかの群に分けて解析したものですが、喫煙していない群では心筋梗塞や脳梗塞の発症率はスタチン内服群で13.7%、非内服群で16.5%と有意に内服群の発症率が低いのに対して(ただし2.8%だけ違うだけです。内服群にも13.7%の発症があり、非内服群でも83.5%の方は発症していないのは以前お話しした通りです)喫煙しているグループでは発症率はスタチン内服群で15.5%、非内服群で15.3%と差がありません。

同様に、非糖尿病群では心筋梗塞や脳梗塞の発症率はスタチン内服群で13.1%、非内服群で16.0%と有意に内服群の発症率が低いのに対して、糖尿病群では発症率はスタチン内服群で23.1%、非内服群で18.4%と逆にスタチン内服群の方が発症率は高くなっています。

この結果から言えるのは、喫煙している人や糖尿病の人はスタチンを内服するよりは糖尿病の治療や禁煙を優先させる方が重要だという事ではないでしょうか。

しかし、スタチンを売る製薬会社はこういう事は伝えませんねぇ。
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科学的根拠とは・・(基本的用語その2)

2005年05月28日 | 本ブログの理解を深める基礎知識
それでは、科学的根拠とはどのように生まれどのように伝えられるのでしょうか。
世界(特にアメリカやヨーロッパ)には多くの(数えた事はありませんが五千種類以上です)医学専門誌があり、小児科やアレルギーや麻酔などというように細分化され、毎月1回、2週間に1回という間隔で発行されています。各医学専門誌はそれぞれの編集部を持ち独立して存在しています。実際に患者さんに接している医師も研究室で実験をしている医師も、研究から得られたデータをこれらの雑誌に投稿します。そして編集部からあらかじめ選任された審査員がその原稿を批判的に吟味し、その専門誌に載せる価値があるかどうかを決定するのです。晴れて掲載された論文はインターネットや実際の購入を通して世界中の誰もが読むことができるようになります。これらは医師でなくても定期購読することができますが、英語で書かれておりほとんどが専門用語なので医師でない人が買っても利用価値はあまりないかもしれません。内科だけでも100種類以上、神経科(精神科ではありません)では200種類以上の専門誌があります。例えとして、喘息やアレルギー性鼻炎といったアレルギー関係の専門誌の名前をあげておきます。ここにあるインパクト・ファクターについては次回にお話しします。

専門誌名 :インパクト・ファクター
ALLERGOLOGIE :0.3
ALLERGY :0.5
ALLERGY AND ASTHMA PROCEEDINGS :1.2
ANNALS OF ALLERGY ASTHMA AND IMMUNOLOGY :2.1
CLINICAL AND EXPERIMENTAL ALLERGY :3.8
CLINICAL REVIEW IN ALLERGY & IMMUNOLOGY :3.5
CONTACT DERMATITIS :1.0
INTERNATIONAL ARCHIVES ALLERGY AND IMMUNOLOGY :2.2
JOURNAL OF ALLERGY AND CLINICAL IMMUNOLOGY :5.5
JOUENAL OF ASTHMA :1.0
PREDIATRIC ALLERGY AND IMMUNOLOGY :1.8
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有意差の魔術

2005年05月21日 | 本ブログの理解を深める基礎知識
以前、二つの群の差が同じだとすると比較対象とする人数は多い方が統計学的な有意差が出やすい事をお話しました。これは逆に言えば、差が少ない場合でも比較対象とする人数を多くすれば有意差が出てしまう事でもあります。その例をお話したいと思います。

心筋梗塞や脳梗塞は血中のコレステロールが高いとなりやすい事はよく知られています。そこでコレステロールを下げる薬が開発された訳ですが、この薬は何種類もあり「・・・スタチン」と物質名の最後にスタチンという名前が付く事から、それらを総合してスタチンと呼ばれています。スタチンがいかに有効であるかを調べた報告はたくさんあります。その中の1つをご紹介したいと思います。
2002年にPROSPERという研究の結果が発表されました。その研究では、70歳から82歳の方で、メバロチンと言うスタチンを1日40mg内服した2,891人と内服していない2,913人を3年間比較して、スタチンを内服しない群の心筋梗塞と脳梗塞(軽症、重症、死亡の全てが含まれています)の発症率は16.2%だったのに対して内服していた群の発症率は14.1%で統計学的に両群間に差があったという結果だったために、スタチンを内服する事は心筋梗塞と脳梗塞の予防に有用だと結論づけられました。(Lancet. 2002;360:1623、これはランセットという専門誌の2002年360巻1623ページから掲載されているという意味です)インパクトファクター★★★★☆、研究対象人数★★★★★。
この研究は対象人数も多く、著名な専門誌に発表された有名な研究ですが、よく考えてみるとスタチンを内服していても心筋梗塞や脳梗塞を発症した人が85.9%も存在しますし、逆にスタチンを内服していなくても心筋梗塞や脳梗塞を発症しなかった人が83.8%も存在します。このように考えると、この研究だけに限ってみると、それほど有用な気がしないのは私だけでしょうか。

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インパクト・ファクターについて(基本的用語その3)

2005年05月20日 | 本ブログの理解を深める基礎知識
今回は少し聞き慣れない言葉「インパクト・ファクター」についてです。

その前に医学はどのように発展していくのかを考えてみたいと思います。

まずは、例えばどうしたらおいしいお好み焼きができるかを考えてみて下さい。

私たちはおいしいお好み焼きを作るために自分でキャベツと生地の比を変えてみるなど試行錯誤をしますが、お隣の奥さんがだしの濃さを変えてみたところとてもおいしくなったとしますと、その意見を取り入れてさらに自分なりの改良を試みようとします。この「お隣の奥さんの意見を取り入れる」という行為が科学論文では「引用」という事に相当します。

研究者は以前発表された論文の結果に同意したり反対したりしながら自らの論文を組み立てます。そして新しい情報を公開していくわけです。

つまり、多く引用される論文はそれだけ情報としての意義と価値が高いとも考えられ、それを客観的に評価するために引用の頻度を数字で表したものがインパクト・ファクターです。インパクト・ファクターは次の式で毎年計算されます。

2005年のインパクト・ファクター=2003年と2004年にある専門誌が掲載した論文が2003年中に引用された回数÷2003年と2004年にある専門誌が掲載した論文数

このように計算することで専門誌ごとに異なる出版部数、発行頻度、発行年数の違いによる偏りを除いて比較することができます。

五千種類以上ある専門誌の半数以上はインパクト・ファクターが2以下です。ちなみに科学専門誌の最高峰の1つである「ネイチャー」の2003年のインパクト・ファクターは30.97です。この雑誌は医学に限らず科学全般の事を扱っていますので、医学にかぎればNEW ENGLAND JOURNAL OF MEDICINEが最高峰で、そのインパクト・ファクターは34.83です。

インパクト・ファクターが高い専門誌のデータは妥協を許さない方法と多くのデータに裏付けされており、信頼性がきわめて高いと考えられています。

本ブログでは、私の独断と偏見により、各論文をインパクト・ファクターが0~2を星1つ★☆☆☆☆、2~5を星2つ★★☆☆☆、5~10を星3つ★★★☆☆、10~20を星4つ★★★★☆、20以上を星5つ★★★★★と分類しました。
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比較する人数の問題

2005年05月18日 | 本ブログの理解を深める基礎知識
現実にはありえない話ですが、ともに人口が40万人のA市とB市があったとします。「A市の住民の平均身長は165cmで、B市の住民の平均身長は168cmでした。」これを聞いた皆さんはB市には身長を高くする特別な原因があるのではないかと感じませんか。同じ日本人なのに何十万人という単位で平均身長が異なるとすれば、その結果を受け入れその原因を探すのではないでしょうか。それでは次に、ともに人数が40人のA組とB組があったとします。A組の平均身長は165cm、B組の平均身長は168cmだったとするとどうでしょうか。B組の生徒の身長が高いのは何かの原因ではなく、偶然背が高い生徒がB組に集まったと考えるのではないでしょうか。

このように対象とする人数は各群を較べる際の重要な因子になります。当然、その数が多い方が、統計学的に確かな差(有意差)が出る可能性が高いと言えます。また逆に、比較する対象数が少ないのに統計学的に意味を持つ差が出るのは、その差が大きいか特別な理由があるからだと考えられます。
本ブログでは、私の独断と偏見により、比較した人数を50人以下は星1つ★、51~100を星2つ★★、101~500を星3つ★★★、501~1000を星4つ★★★★、1001以上を星5つ★★★★★と分類しました。
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NNTについて

2005年05月18日 | 本ブログの理解を深める基礎知識
NNT(Number Needed to Treat)とは、患者さん1人がメリットを得るために、同様の患者さん何人に治療を行わなくてはならないのかを示す指数です。前回お話ししたPROSPERという研究で考えてみたいと思います。この研究では、スタチンを内服していた人の心筋梗塞と脳梗塞の発症率は14.1%で、内服していなかった人の発症率は16.2%ですから、1,000人中の発症率は内服群で141人、内服していなかった群で162人という事になります。

その差は21人で、この差を得るために1,000人の方にスタチンの投与という治療を施したのですから、NNTは1,000÷21≒50人と計算できます。つまり1人の心筋梗塞や脳梗塞の発症を予防するために、49人分の内服が必要になるのです。しかもその49人はスタチンを内服しても利益を得ていないわけです。将来誰が心筋梗塞や脳梗塞を発症するかは予測できないわけですから、全く無駄であるとは言えないのですが、薬代を支払うという行為で50分の1の確率の保険に参加する事と同じであるわけです。

では、その薬代(保険料)はいくらなのでしょうか。2005年の時点でこのスタチンの値段は10mgで約163円です。1日40mgという事は、1日652円、1年365日で23万7千円、3年間で71万3千円です。これを1,000人に投与するのですから7億1,400万円の薬代が製薬会社に支払われる事になります。そしてそのスタチンの投与で1,000中21人が心筋梗塞や脳梗塞を免れるわけですから、70歳から82歳の方の心筋梗塞や脳梗塞の発症を1人予防するために3,399万円(7億1,400万円÷21)が必要です。

この数字を高いと考えるか安いと考えるかは意見が分かれるところだと思います。意見が分かれる原因にこの研究の問題点があります。その問題点とは、心筋梗塞や脳梗塞の発症を軽症から死亡まで同様な概念でまとめてしまった事です。心筋梗塞や脳梗塞で死亡してしまう事が1人当たり3,399万円で予防できれば、その金額は安いと考える事ができますが、その反面、医療技術の進歩で軽症の心筋梗塞はカテーテル治療により200万円以内で治すことができ、入院に伴う経済的・社会的な損失を考慮しても3,399万円にはならないからです。

心筋梗塞や脳梗塞で死亡する事だけを比較しなかった理由は、死亡だけでは有意差がでないからです。さらに言えば、有意差がでないと考えられる研究は、その薬を売る製薬会社には何の利益もないからなのです。有意差が出た研究は発表し、有意差がでなかった研究が人為的に発表されないという事を防ぐために、最近、アメリカの学会はあらかじめ研究のデザインを登録しなければ、たとえ有意差が出た研究でも専門誌に掲載しないというルール作りを進めています。

さて、そんなあなたはその薬を内服しますかという問題です。

自分に利益がある可能性が50分の1であっても、自分は軽微であっても心筋梗塞には絶対なりたくないので自己負担3割を支払い、50分の1の利益の可能性を選択し内服するという意見もある反面、それではいかにも医療費の無駄遣いだという意見の方もあると思います。これまでスタチンの研究の例をお示ししましたが、動脈硬化の程度や心筋梗塞や脳梗塞の発症危険度は個人により千差万別です。一度ご自分の動脈硬化の程度や発症危険度を担当の医師に尋ねてみるのも重要なことです。

日本の医療を問いなおす―医師からの提言
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統計について(基本的用語その4)

2005年05月15日 | 本ブログの理解を深める基礎知識
一般的な自然科学であれば、ある実験に基づいて知り得た事は、同じ状況を用意さえすれば同様に再現する事ができます。たとえば、ある一定のカーブで設計された羽根で飛行機が飛んだ場合、そのカーブで羽根を作るかぎりその飛行機は飛んでくれます(もちろん飛行機の重量など他の条件も同じと仮定します)。ところが医学では、ある人にあてはまった事が必ずしも別の人にあてはまるとはかぎりません。ここに医療の難しさがあります。

このような不確定性を科学的に克服しようとするのが統計という考え方です。ここに2つのサイコロがあったとします。サイコロA、サイコロBのそれぞれを60回ふってみて、Aでは「1」の目が9回、Bでは「1」の目が10回出たとします。この事実だけからBの方が「1」の目が出やすいと言えるでしょうか。普通の感覚ならば「そんな事は偶然かもしれないから、1回の比較ではなんとも言えないのではないか」と思われるでしょう。その感覚は正しいのです。世の中には1回の比較だけで結果を言い切っている例が沢山存在しますが、それは正しい判断とは言えません。「J社の売り上げは前年度が100億円だったのに、今年度は95億円になったので、この会社の将来性に陰りが見えてきた」などという場合もそうです。

それではどうすれば正しく比較できるのか。そのためには何度も試してみることです。つまりサイコロを60回ふるという比較を何度も行うのです。統計学では少なくとも20回が要求されます。そして20回比較して19回サイコロBで「1」の目が出る回数が多かった場合に「サイコロBは1が出やすい」と言えます。逆に言えば、20回のうち1回、サイコロAの方が「1」の目が多く出ても、それは偶然とみなす事ができるのです。結論と反対の事が起きるのが20回のうち1回(確率は0.05)の場合の事を、統計学ではP<0.05と表現し、その結論が統計学的にそう(真理であるかどうかは別問題ですが)であると認められた事を表します。 20回のうち19回なんて、よほどサイコロAとサイコロBの形が違わないとそんな差はでないと思われたのではないでしょうか。科学の世界ではそれぐらい厳しく違いを定義しているのです。P<0.01という場合は100回のうち99回という事で、もっと明らかな差であるといえます。P<0.05とかP<0.01という表現は今度も使用しますので、このように差があるといえる事を「有意差」と呼ぶ事と同時に覚えておくと便利です。
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2005年05月07日 | 本ブログの理解を深める基礎知識
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