医者から詳しく聞かされない医療情報:セカンドオピニオン

誤解と批判を恐れない斜め後ろから見た医療情報

意外に効いていなかったインフルエンザワクチン

2011年12月30日 | 感染症
そろそろインフルエンザの季節ですが、最近「日本臨床内科医会会誌」で、昨シーズンのインフルエンザワクチンの有効性が16道府県の調査をまとめ発表されました。

「日本臨床内科医会会誌の目的は、会員の日常診療に直接役に立つ情報を簡潔にわかりやすく伝えることにあります。」と書かれてありますので、その結果をご紹介したいと思います。

「インフルエンザの流行状況とワクチン、抗インフルエンザ薬の有効性について」
日本臨床内科医会会誌 2011;26:408.
(インパクトファクター☆☆☆☆☆、研究対象人数★★★★★)

この調査は前向き調査ですから信頼性は高いといえます。インフルエンザに罹患したかどうかは迅速試験でA型またはB型インフルエンザ陽性と判明した場合とされました。全部で1,194人の発症が調査されました。調査対象人数は書かれていませんが、1,194人が2.7%ということですから、総計約44,222人と計算されます。

上の図は年齢別のインフルエンザの発症率ですが、統計学的にワクチンが有効であったのは50~59歳でした。その他の年齢層ではワクチン接種群と非接種群で発症率に差は認められませんでした。20~29歳あたりではあと少しの差で有効と判断されたのでしょうが、そういうことを言い出すと、0~9歳はワクチンを接種した方が発症率は高くなってしまうと言わざるを得なくなるので、あくまでも統計学的にちゃんと差が出たところだけで結論するべきです。

ワクチンの有効性はH3N2やB型が多かった小児では認められず、H1N1主体の成人の一部では有効であったと考察されています。

このように、そのシーズンのワクチンの有効性は、どの型のウイルスを標的にしてワクチンを製造するかに左右されます。少なくとも昨シーズンはあまり効果がなかったと言わざるを得ません。しかし逆に、この結果により今後もワクチン接種には期待しない方がよいと言えるわけではありません。

接種群と非接種群で発症率にあまり差がなかった理由の1つとして、私が個人的に推測することは、これまで感染症によくかかった子ども(体が弱いなどと表現されたりもしています)が「体が丈夫な」子どもよりも多く予防接種を受けたのではないかというバイアス(偏り)です。なぜなら、インフルエンザの予防接種は国民全員が強制的にうけるワクチンではなく、任意で受けているワクチンだからです。

私の息子のように、知恵熱、はしかなど一通りの感染症にはかかりました(顕性化した)が、その後その他の感染症が一度も顕性化したことのない「体が丈夫な」子どもは、最初からインフルエンザワクチンを接種していないのではないかということです。現に私の息子は今シーズンもインフルエンザにはかからないだろうという推測のもとに、数千円のワクチン代がもったいないためインフルエンザワクチンを接種していません。

従って、実はワクチンは有効で、体の弱い子どもたちが率先して接種を受け、接種を受けていない「体が丈夫な」子どもたちと同じぐらいの発症率まで改善されたという可能性が否定できないわけです。

あと、ワクチンの接種によってインフルエンザの症状が接種しない場合よりも軽く済んだという「有効性」はあるかもしれません。

国民は代金を支払ってワクチン接種を受けているわけですから、こういうことはしっかりと国民(ワクチン購入者です)に伝えられるべきです。

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180 mg/dl未満で大丈夫な悪玉コレステロール

2011年12月27日 | 生活習慣病
2年前、学会発表を見て十数秒間表示されるスライドを急いでノートに書き写しご紹介した研究「悪玉コレステロール低下薬を内服していれば悪玉コレステロールは160mg/dlでも大丈夫」をお伝えしました。

今年、その研究が論文になって公表されましたので、ご紹介します。私が急いで写したグラフは論文で発表されたグラフと結構あっていました。そんなことはどうでもいいのですが・・

Long-term event monitoring study of fluvastatin in Japanese patients with hypercholesterolemia: Efficacy and incidence of cardiac and other events in elderly patients (≥65 years old)
J Cardiol 2011;57:77
(インパクトファクター★☆☆☆☆、研究対象人数★★★★★)

この研究はレムスタディーといって、研究開始前4週間は悪玉コレステロール低下薬を内服していない脂質異常症の患者18,084人(平均の悪玉コレステロール値は173 mg/dl)を対象にして、ローコールという悪玉コレステロール低下薬を投与して、これまでに動脈硬化性心臓病にかかっていない患者(一次予防)は5年間、かかったことのある患者は3年間観察したものです。

致死性心筋梗塞、非致死性心筋梗塞、心臓突然死、画像で診断された狭心症、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血、一過性脳虚血発作の合計が調査されました。期間中368人がこれらの疾患を発症しました。

結果は、上の左図にあるように、これまで動脈硬化疾患を発症したことのない人が最初の動脈硬化疾患を予防するとき(これを一次予防といいます)、「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2007年版」で推奨されている悪玉コレステロール140mg/dl以下になった人に比較して180mg/dl未満までは動脈硬化疾患のリスクは増えませんでした。

同様に、上の右図にあるように、これまで動脈硬化疾患を発症したことがある患者が次の動脈硬化疾患を予防するとき(これを二次予防といいます)、「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2007年版」で推奨されている悪玉コレステロール100mg/dl以下になった人と比較して180mg/dl未満までは動脈硬化疾患のリスクは増えませんでした。

ただし、重要な前提は、ローコールという悪玉コレステロール低下薬を内服している場合の結果であるということです。内服していない場合の180mg/dl未満は今回は調査されていません。逆に、特に一次予防の人に顕著に表れているのですが、ローコールという悪玉コレステロール低下薬を内服してさえいれば、その後の悪玉コレステロール値が180mg/dl以上でなければどんな値であろうと、動脈硬化疾患のリスクは増えていないということです。これは悪玉コレステロール低下薬が、悪玉コレステロールを低下させる作用だけでなく、炎症を抑えたり血液の固まりやすさを緩和させたりする作用(多面的作用と呼ばれています)があるからと考えられます。

これらの結果は、悪玉コレステロールは特に二次予防では強力なスタチンを使ってなるべく下げた方がよいと主張している一部の製薬会社と、その宣伝塔となっている医者たちにとって大変不都合なデータであり、医者自らが医学雑誌で探さなければ、ほとんど表に出でこないデータです。

そのためなのか、2万人近くを3~5年調査した(研究対象人数★★★★★)大変貴重で素晴らしい研究なのに、インパクトファクターが低い(1.175)医学雑誌にしか掲載されませんでした。これは邪推ですが、もっとインパクトファクターが高い医学雑誌の審査員の中に、宣伝塔となっている医者たちがいたのかもしれません。


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パキシルの陰に「うつ病患者百万人」、販売高の後に患者数増加

2011年12月16日 | 総合
前回、それは病気だ!と煽って異常だと思わせる人を増やせば、それだけ薬の処方が増えて製薬会社が儲かるということをお伝えしました。
今回は、その典型的な例をもう一つご紹介したいと思います。以前、以下のような新聞記事がありました。

(これより読売新聞より引用、一部省略)
うつ病患者が100万人を超え、この10年間で2.4倍に急増している。不況などの影響はもちろんだが、新規抗うつ薬の登場との関係を指摘する声も強い。安易な診断や処方を見直す動きも出つつある。

国の調査では、うつ病など気分障害の患者は、2000年代に入り急激に増えており、一概に不況だけの影響とは言えそうにない。患者急増との関係が指摘されているのが、新規抗うつ薬「SSRI」だ。年間販売高が170億円台だった抗うつ薬市場は、1999年にSSRIが登場してから急伸。2007年には900億円を超えた。

パナソニック健康保険組合予防医療部の冨高辰一郎部長(精神科医)によると、欧米でも、この薬が発売された80年代後半から90年代初めにかけ、患者の増加がみられた。冨高部長は「SSRIが発売されたのに伴い、製薬企業による医師向けの講演会やインターネット、テレビCMなどのうつ病啓発キャンペーンが盛んになった。

精神科受診の抵抗感が減った一方、一時的な気分の落ち込みまで、『病気ではないか』と思う人が増えた」と話す。田島治・杏林大教授が、学生にテレビCMを見せた研究では、見なかった学生の倍の6割が「気分の落ち込みが続いたら積極的な治療が必要」と答え、CMの影響をうかがわせた。

検査数値で測れる身体疾患と違い、うつ病の診断は難しい。このため、「抑うつ気分」などの症状が一定数以上あれば要件を満たす診断基準が普及した。田島教授が行った精神科診療所の医師に対する調査では、約8割の医師が、うつ病の診断が広がり過ぎていることに懸念を示した。

安易な投薬を懸念する声もある。抗うつ薬は、うつ病治療の柱とされているが、宮岡等・北里大教授は「薬なしでも自然に回復するうつ病も多い」と話す。

海外では、軽症には薬物療法ではなく、カウンセリングや運動などを最初に勧める治療指針も多い。渡辺衡一郎・慶応大専任講師は「日本でも、まず抗うつ薬ありきという認識を見直す時期に来た」と話す
(ここまで引用)

その製薬会社がやっている宣伝のサイト

http://utsu.jp/
あれ~、このサイトを監修している教授は、ゼチーアで同じ事をやっていた教授と同じ大学だぞ~

通常は、病気が増えてから薬の処方が増えますが、図をみると1999年、2000年とうつ病治療薬「パキシル」の処方が増えた後で、うつ病の数が増えています。それに本来なら、有効な薬の普及が進めばその病気は減少しないといけないのでは?

そういえば以前、この薬の説明会で製薬会社は「内科医でも処方しやすい薬です」と言っていて、はぁ~と思った覚えがあります。精神科医でも確定診断に難渋するというのに、内科医が診断していいの?と。

170億円台だった市場が今や900億円とは凄い。製薬会社の陰謀も、やり過ぎでシッポが出てしまったという感じです。

国民に不利益になる(効果のない薬を買わされる)コメントが間違って公言されることがあれば、それは大問題だと思いますし(公共性)(公益性)、その証拠はしっかりと残したいものです。

お勧め(Amazon)→なぜうつ病の人が増えたのか

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動脈硬化性疾患予防ガイドライン2007年版の問題点

2011年12月10日 | 生活習慣病
前回、「基準値」について正規分布の話を含めてお伝えしましたので、今回はそれをもとにして「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2007年版」の問題点をお伝えします。

あなたは総コレステロールが高いですと健康診断でひっかかってしまう「基準値」は220mg/dL以上です(悪玉コレステロールは140mg/dl以上)。これは「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2007年版」の中でも定められているのですが、その根拠も以下のように記載されています。

「米国で総コレステロール200mg/dL (LDL-C値120mg/dl)に比し相対リスクが2倍となる240mg/dL (LDL-C値160mg/dL)値を高コレステロール血症と診断する基準を設けたのを参考にして、本邦では総コレステロール160mg/dl未満に比し相対リスクが約1.6倍になる220mg/dL (LDL-C値140mg/dL)を高コレステロール血症の基準に定める。」

しかし、上の左の図を見て下さい。脳梗塞はアメリカ人に比較して日本人は3~4倍多いのですが、心筋梗塞はアメリカ人に比較して日本人は3分の1~4分の1少ないのです。アメリカでは200mg/dlという平均ぐらいの値を基準にして、リスクが2倍となる値を設定していますが、日本では160mg/dLとかなり低い人を基準にして、しかもリスクは1.6倍とアメリカより非常に厳しい設定のしかたをしています。

アメリカ人より3分の1~4分の1心筋梗塞のリスクが少ない日本人で、どうして心筋梗塞の発症を予防しようとしてアメリカより厳しく設定しなければならないのか全く理解できません。

しかも、上の図の右を見て下さい。この図はこの基準が設定された頃の日本人全体の総コレステロール値の分布です。平均は190~200あたりですが、正常値を設定している基準の160というのはかなりの優等生(低い方が優等生かという問題は別として)です。35%ぐらいが220以上ですから、これらの人々は検診を受けるたびに「脂質異常症」と診断されてしまうのです。その病気であると定める基準値を広くすれば、製薬会社がより儲けることができます。

この分布を正規分布に当てはめると、その下の図のように、ばらつきを表す標準偏差の1.5倍のあたりに基準値160があることがわかります。そして、異常だとされているのは標準偏差の0.3倍あたりです。

これでは、「偏差値65というかなりの優等生と比較して1.6倍不都合な事が多いから、ほとんど平均値に近い偏差値47以下の人間は全て異常だ」といわれているのも同然のことなのです。

こんなアホなことがありますか?

中学校のクラスの中で、偏差値65の優等生と比較され、偏差値47以下という、クラスの35%ぐらいに相当する生徒はみな異常ですか?35%の生徒はダメですか?

動脈硬化性疾患予防ガイドライン2007年版の作成者たちは、バカなことを言ってはいけません。

以前お伝えした、ゼチーアの効果についてで的外れなことを言っていた医者もそのメンバーです。

なぜ「脂質異常症」の基準がこのように決められたのか、私は理由を知っています。

1つは、日頃から製薬会社は医者たちに近づき、自分たちの会社に都合の良いことを言ってくれる医者に1回に10~15万円のギャラを払って講演を依頼し、「先生」「先生」と褒めはやし、会社にとって有利になるように働きかけていること。(その際、医者が実際にそうしてくれるかは別問題)
2つめは、このような製薬会社に厚生労働省の官僚が天下りをしており、製薬会社に有利な基準を作る。
3つめは、そのようなギャラと名誉にあやかろうとする不埒な医者たちの存在です。

東京電力の構図と全く同じなのです。国民をバカにするのは、いいかげんにしろ!と言いたいです。

国民に不利益になる(効果のない薬を買わされる)コメントが間違って公言されることがあれば、それは大問題だと思いますし(公共性)(公益性)、その証拠はしっかりと残したいものです。

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「日本チェルノブイリ連帯基金」のコメントの誤り

2011年12月04日 | 
以前、「日本チェルノブイリ連帯基金」の鎌田実理事長(諏訪中央病院名誉院長)が報道陣に「色々意見はあるが、被ばくの可能性は捨てきれないと思う」などと発言し、マスゴミが「甲状腺機能に変化」などと見出しに付けて報じ、あたかも原発が原因で甲状腺に異常が生じたかのような不安が広がったことをお伝えしました。

誤っている「日本チェルノブイリ連帯基金」の見解

130人の子どもたちの血液検査でどんな結果が出たかというと、
(1)1人の甲状腺ホルモン(遊離サイロキシン)が基準値を下回った。
(2)7人の甲状腺刺激ホルモンが基準値を上回った。
(3)2人は、甲状腺ホルモンの合成に必要なタンパク質「サイログロブリン」が基準値を上回った。
ですが、

今回は、そもそも基準値はどのように定められているかということをお伝えしたいと思います。

十分多くの人々の身長や体重をヒストグラムで表すと、上の図のように正規分布になります。健康な人のほとんどの血液検査値も同様にこのような分布になります。

基準値は健康な人の検査値がこのように分布する時、平均値を挟んで95%の人が示す値の範囲と定められます。上の図で赤線で示した内側の部分です。横軸の数値は標準偏差と呼ばれるばらつきの程度を表すもので、95%が入る範囲は標準偏差の1.96倍の範囲になります。

このように血液検査の基準値は、健康な人の95%がその範囲に入る値ですから、健康な人でも2.5%の人は基準値を下回り、2.5%の人は基準値を上回ることになります。

この「基準値」は「正常値」などと呼ばれることが多いのですが、「正常値」と呼ぶのは、厳密には間違いであることがお分かりいただけたのではないかと思います。


さて、130人の2.5%は約3人です。
(1)1人の甲状腺ホルモン(遊離サイロキシン)が基準値を下回った。
(2)7人の甲状腺刺激ホルモンが基準値を上回った。
(3)2人は、甲状腺ホルモンの合成に必要なタンパク質「サイログロブリン」が基準値を上回った。

ということですが、(1)と(3)は当たり前のことと言えます。(2)は以前お伝えしたように、被ばくしていない子どもたちと比較する必要があります。

「チェルノブイリ連帯基金」のコメントでは、こういう重要な事が考慮されていませんでした。

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