医者から詳しく聞かされない医療情報:セカンドオピニオン

誤解と批判を恐れない斜め後ろから見た医療情報

医療従事者のネクタイについて

2009年03月29日 | 総合
昨日は医師国家試験の合格発表でした。受験生の皆さん、試験勉強お疲れ様でした。

4月1日より新しい研修医が研修を始めます。

さて、今から20年ほど前、私が研修医の時の病棟医長は男性の医者に全員ネクタイを着用するように命じていました。理由は「ネクタイ着用はキチンとした服装だから。患者の前ではキチンとした服装をしなければならないから」だそうです。しかし、三段論法で考えますと、この2つの前提から「患者の前ではネクタイを着用しなければならない」という結論が必ずしも導き出されるとは限りません。

この論法は少し考えると間違っている事がわかります。それは、ネクタイ着用だけがキチンとした服装ではないからです。それに当時の私には、「はたして患者は医者がネクタイをする事を本当に望んでいるのだろうか」という疑問がありました。


さて、前置きはこれぐらいにして、2007年に英国保険省から根拠に基づいた医療従事者の望ましい服装が発表されています。

それによりますと、ネクタイは毎日着用されるにもかかわらず洗濯される頻度が少なく、患者の診察に際し何の利益もないだけでなく、細菌の温床になるため、着用すべきではないと書かれています。

20年前の病棟医長の感覚や感情に基づいた判断がいかに危ういか、不安定かを表した典型的な例だと思います。皆さんの中でネクタイを1ヶ月に1度以上洗濯する人がどれくらいいるでしょう。診察中に咳をした患者の飛沫をもろに受けたネクタイが1ヶ月以上洗濯されずに使用され続けるのです。


その他、ユニークな項目としては、

「患者のケアの際は半袖の衣服を着用し、長袖の白衣を避ける」
袖口は患者と接する可能性が高く、細菌の温床になりやすいからだそうです。なるほどごもっともです。でもアメリカの病院のように、冬場でも汗がでるほどガンガン暖房をしている所では可能でしょうが、日本の病院では冬場は少し辛いものがあります。

「固底の靴、つま先が開いた靴は避ける」
つま先が開いた靴は(血液が付着するなど)医者の安全が確保できないため、底が固い靴は患者からすれば「うるさい」からだそうです。

「病院外を移動する際はユニフォームが見えないように覆う」
ユニフォームで外出したからといって感染の危険が高まる根拠はないが、患者の信頼感に影響を与える根拠があるそうです。すこし意味不明なところがありますが、白衣のまま病院の隣のコンビニで自分の主治医が「週間アサヒ芸能」の「原紗央莉無上SEX/激撮出水麻衣魅惑のパンチラ」という記事などを読んでいるのを患者が目撃すると(すみません、週間アサヒ芸能を特別視しているわけではありません)、ちょっと信頼感が薄れるということなのでしょう。

しかしアメリカでは、特にパラメディカルの人は術着のまま出勤したり、近くのベーグル屋で朝食を摂っていたりするのを良くみかけます。

原文はこちらをご覧下さい。


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心臓病の治療薬の一部のジェネリック薬品には先発品と同等の臨床的効果あり

2009年03月24日 | 薬・総合
新薬の研究開発には莫大な費用がかかり、晴れて商品として市場に出回る時に研究開発費も考慮して薬価が設定されます。そういった先発品も発売から10年たつと特許が切れて、他社が生産できるようになります。その薬剤の薬価は、開発費がかかっていないぶん新薬よりも安くなります。これが後発品(ジェネリック薬品)です。

医者や患者のなかには後発品(ジェネリック薬)が先発品(ブランド薬)に劣ると考えている向きもありますが、先日、日本経済新聞で以下のような記事を読み、私も同感でしたので調べてみました。

「医療関係者の間に後発品に対する不安があるわけですから、その不安を打ち消すだけの十分な根拠に基づいた様々な情報提供が必要です。メーカーだけではなく、旗を振る政府にも責任があります。患者からすれば、安くていいものがあれば、それに越したことはないのですが、通常はそれを選ぶ専門知識がありません。医師や薬剤師が専門家として役割を果たすことも求められます。」

調べてみると、昨年発表された「心血管疾患の治療に関する複数の研究を調べた結果、後発品(ジェネリック薬)が先発品(ブランド薬)に劣っているという証拠はない」という以下の研究論文が信頼できる医学雑誌に載っていました。


Clinical equivalence of generic and brand-name drugs used in cardiovascular disease: a systematic review and meta-analysis.
JAMA 2008;300:2514.
(インパクトファクター★★★★☆、研究対象人数★★★★★)

この研究では1984年~2008年8月に発表された47件(そのうち38件がランダム化試験)の研究のメタアナリシスと、同時期に発表された論評の内容が検討されました。

結果は上の図(左寄りが先発品の方が有効、右寄りが後発品の方が有効です。全ての薬剤で中心の線にオーバーラップしていますので、片方が有効ということはありません)にあるように、βブロッカー、カルシウム拮抗剤、ACE阻害薬、αブロッカーといった高血圧治療薬、心不全や高血圧の治療に使われる利尿薬、血液をさらさらにする抗血小板薬やワーファリン、悪玉コレステロールを低下させる脂質異常症治療薬スタチン、クラスⅠ群抗不整脈薬のいずれも後発品(ジェネリック薬)の効果が先発品(ブランド薬)より劣っているということはありませんでした。

忍容性も同等でした。

また、それにもかかわらず、研究の論評では53%の医者が後発品(ジェネリック薬)に否定的な見解を示していました。

著者らは、研究の結果とその解釈が一致しない理由に「論評では医者の経験的感覚(要するに感情でしょう)の影響を受けている」点と、「論評委員と製薬会社との間の金銭的な関係が論評の結論に影響している可能性が否定できない」と述べています。

また、「後発品(ジェネリック薬)に対する事実無根の不信をこれ以上助長させないために、根拠にのみ基づいて吟味すべきである」と述べています。

私もその通りだと思います。

医者の皆さん、患者に以下の薬を処方するときに「後発品(ジェネリック薬)の効果は怪しいです」なんて言わないようにしましょう。

もう一度、先発品(ブランド薬)と後発品(ジェネリック薬)の効果と忍容性が同等の薬の名前を挙げておきます。

βブロッカー
カルシウム拮抗薬
ACE阻害薬
αブロッカー
利尿薬
抗血小板薬
ワーファリン
スタチン
クラスⅠ群抗不整脈薬


「感情」と「賄賂」で医療をしてはいけませんね←これは論文に紹介されたアメリカ人の医者のことです。


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生活習慣病とメタボ腹「関連強くない」…厚労省研究班

2009年03月12日 | 生活習慣病
以前、疾患の種類により死亡リスクと体重の関連が異なるという論文を紹介しました。それによるとちょっと太め(過体重)であることに不利益は認められませんでした。

日本でも先日、同様の結果が新聞で報道されました。

生活習慣病とメタボ腹「関連強くない」…厚労省研究班(読売新聞より引用)
メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の診断基準は、腹囲が男性85センチ以上、女性で95センチ以上あることを必須条件としているのに対し、単に腹囲が大きいだけでは生活習慣病の危険要因としては不十分という調査結果を、下方浩史・国立長寿医療センター(愛知県大府市)研究所部長を班長とする厚生労働省研究班がまとめた。メタボ基準を巡っては、男性の腹囲が女性より厳しいことなどについて異論が続出しており、今回の結果も見直し論議に一石を投じそうだ。

研究班では、無作為に選んだ愛知県内の40~82歳の男女3,253人について、内臓脂肪の断面積をコンピューター断層撮影法(CT)で計測。内臓脂肪面積が100平方センチ以上の肥満の人とそれ未満の人で、2000年から6年間、心臓病や脳卒中を引き起こす動脈硬化の具合を、心臓の冠動脈や脳血管の梗塞の有無など6項目で比較した。

肥満の人は、そうでない人に比べ、動脈硬化のある人の割合が、心臓の冠動脈は女性では約1.2倍だが男性では差がみられず、脳内の細い血管は男性は約1.2倍だったが女性では差はあまりなかった。

6項目すべてで差は1.5倍未満にとどまり、「全体として関連はそれほど強くない」(下方部長)と分析された。メタボの基準では内臓脂肪面積が100平方センチ以上の場合に危険が高まるとして、それに該当する腹囲(男性85センチ以上、女性90センチ以上)が定められた。

今年度始まった「特定健診」(メタボ健診)では、腹囲が基準を超えていなければ、血圧、血糖値、脂質のすべてに異常があっても、指導の対象にならない。


しかし、肝ガンについては結果が逆のようです。

(日本経済新聞より引用)
厚生労働省研究班(主任研究者=津金昌一郎・国立がんセンター予防研究部長)は3月10日、高血糖や肥満などを抱えている人について、肝臓がんにかかるリスクが2倍以上に高まるとの大規模疫学調査の結果を発表した。肝がんは大半が肝炎ウイルスに感染して発症するが、生活習慣に気をつければ発症を回避できる可能性があるという。

井上真奈美・国立がんセンター室長が、40~69歳の男女1万7590人を13年間追跡調査。期間中に102人が肝がんにかかった。調査開始時点の健診結果をもとに、血圧や血糖値、中性脂肪、体格指数(BMI)などのメタボリック関連要因が、肝がんリスクと関連するか調べた。

高血糖(1デシリットル当たり140ミリグラム以上、または空腹時で同100ミリグラム以上)のグループは、そうでないグループと比較し、肝がんになるリスクが1.75倍になった。また肥満度を示すBMIが25以上の人は、そうでない人と比べて肝がんリスクが2.22倍になった。


ただし、2008年9月に発表された厚生労働省の資料を調べてみると、おおざっぱな分類ではありますが、2007年の心疾患による死亡数は175,539人であるのに対して、肝疾患による死亡数は16,195人と、心疾患による死亡数は肝疾患による死亡数の10倍であり、心疾患での結果が死亡全体の結果を大きく左右することとなっているのだと思います。


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