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後半の疾走感はさすが!『疾走』by重松清

2019年04月16日 | 小説レビュー
『疾走』by重松清

~広大な干拓地と水平線が広がる町に暮す中学生のシュウジは、寡黙な父と気弱な母、地元有数の進学校に通う兄の四人家族だった。
教会に顔を出しながら陸上に励むシュウジ。
が、町に一大リゾートの開発計画が持ち上がり、優秀だったはずの兄が犯したある犯罪をきっかけに、シュウジ一家はたちまち苦難の道へと追い込まれる…。
十五歳の少年が背負った苛烈な運命を描いて、各紙誌で絶賛された、奇跡の衝撃作、堂々の文庫化。 「BOOK」データベースより


上下巻750頁超えの大作です。いろんな人のレビューを読んでいると、重松清氏渾身の作品であるようです。

物語を読んでいると、どうやら岡山県倉敷市が舞台となっているようです。倉敷といえば、『倉敷チボリ公園』というテーマパークもありましたね(-_-;) しかし、干拓地に出来たリゾート施設でもありませんし、ストーリーとの関連は全くありません。

また、主人公が『福原秀次』という少年なんですが、漢字で出てくるのは数えるほどで、作中では『シュウジ』、『シュウちゃん』というカタカナ表記で呼ばれており、とても不思議な気分で読み進めました(^_^;)。

さて、内容の方ですが、なんせ表紙が不気味で、『疾走』というより『叫び』の方が合ってるんちゃう?と思う表紙です。ストーリーの方は推して知るべしです(-_-;) 主人公のシュウジは、幼い頃はそれなりにほのぼのと過ごしていましたが、ある事件をきっかけに、「こんなに悪いことばかり次から次へと重なる?」というぐらい、とんでもない泥沼に沈み込んでいってしまいます。

※以降はネタバレです。

・兄:町一番の秀才→地元有数の進学校で落ちこぼれ→カンニング発覚→引きこもり→連続放火犯→逮捕→医療少年院
・父:放火魔の息子を出した為に地元で仕事が無くなる→遠いところで仕事→そのまま失踪
・母:旦那の借金と生活を支える為に化粧品販売→酒に溺れる→売掛金を回収できず→起死回生のギャンブルで大当たり→ギャンブル三昧→借金を重ねる→失踪

「『疾走』というタイトルには『失踪』の意味も含まれているのでは?」とも深読みしてしまうぐらい、家族を含めてシュウジの周りの色んな人が消えていきます。

壊れていく家族の姿と、同じように自分自身の心と身体も病んでいく・・・、地元の町も干拓から開発、夢のようなリゾートバブル、そして、おきまりのバブル崩壊・・・と、悲しい運命を辿ります。

そんなシュウジを常に見守ってくれている神父さんや、姉のように母のように、そして一人の女性として温かく包んでくれたアカネ、そして遠く東京の地で暮らしているエリが心の支えになり、何とか自らの人生を全うしようとします。

上巻の転落、沈滞、暗黒などの表現がピッタリなドロドロとしたストーリー展開から、下巻に入った途端、物語は一気に加速し、まさに「疾走」するが如く展開していきます。

地元を飛び出し、大阪、東京へと舞台が移っていきますが、アカネの旦那である暴力団幹部の新田が絡んできたあたりから、かなりエグイ展開になりますので、女性や子どもには薦められません(-_-;)

クライマックスはハラハラしますが、エンディングは輝かしい光に包まれ、わずかながらも救いが用意されています。

物語の要所要所に、旧約・新約聖書の引用が出てきますが、「へぇ~聖書ってこんな記述があるんやなぁ~」って考えさせられる記述もありました。

作中に、「『孤独』、『孤立』、『孤高』とは、同じように見えて全然違う」という語りが登場します。結局人間は、『個』であるのです。
「ひとり」と「ひとり」が、それぞれの人生を生きていて、その「ひとり」が別の「ひとり」と繋がって「ふたり」になり、そして社会がつくり上げられていっていることについて、当たり前のように思っていました。

しかし、心の繋がりという意味では、誰とも関わることも繋がることもなく、「ひとり」で生きている人っているかもしれんな・・・(-_-;)と、思うと、シュウジの心の闇を溶かして、繋がってくれたエリやアカネ、そして神父さんのような救いの存在があって欲しいと願います。

クライマックスで、シュウジは残念な最期を迎えてしまいますが、もし逮捕されて、裁判にかけられて、少年院に入ったとしても、罪は罪として償った後に、以前読んだ「『北斗 ~ある殺人者の回心』by石田衣良」のように、自分を支えてくれる人たちとともに、光のあたる温かい人生を歩めたかも知れません。

後半は一気読みでしたが、前半がややしんどかったので、

★★★3.5です。