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相変わらず上手い!『盤上の向日葵』by柚月裕子

2019年09月06日 | 小説レビュー
『盤上の向日葵』by柚月裕子

~実業界の寵児で天才棋士。本当にお前が殺人犯なのか!?
埼玉県天木山山中で発見された白骨死体。遺留品である初代菊水月作の名駒を頼りに、叩き上げの刑事・石破と、かつてプロ棋士を志していた新米刑事・佐野のコンビが調査を開始した。
それから四ヶ月、二人は厳冬の山形県天童市に降り立つ。向かう先は、将棋界のみならず、日本中から注目を浴びる竜昇戦会場だ。世紀の対局の先に待っていた、壮絶な結末とは――!?
日本推理作家協会賞作家が描く、渾身の将棋ミステリー!(内容紹介より)


小説って本当に難しいですねぇ~(^_^;) 『蜜蜂と遠雷 by恩田陸』でも書きましたが、同じように2/3あたりまでは、とても素晴らしいです。「これはイッたかも!?」と、またもや期待しながら読み続けました。

僕が、★★★★★5つを付ける小説というのは、「序盤から一気に物語に引っ張り込まれ、心のザワつきを抑えつつも、グイグイと引き込まれ・・・、様々な伏線を張り巡らし、時系列を組み替えたり、叙述トリックを仕掛けたり・・・、キャラクターを存分に暴れ回らせて、クライマックスまで盛り上げて、一気に昇華!または大どんでん返し!があって、伏線もしっかりと回収されて、静かに、そして晴れやかにエンディングを迎える。」という感じです。

柚月裕子さんの作品は『孤狼の血』に続く2作目ですが、相変わらず「やさぐれた中年男」を描くのが上手ですし、登場人物のキャラクターの立て方が抜群です。
タイトルのとおり、将棋を題材に使っているのですが、将棋がわからない人でも大丈夫だと思いますよ。

対局の場面が「△8五飛」、「▲5六歩」というように先手と後手が白黒の駒で表され、マス目の場所は数字(横目盛)と漢数字(縦目盛)の交差点で示されています。
余程、将棋に慣れている方でないと、この表示だけで盤面の戦いを頭に浮かべる事は難しいと思いますが、こういう駒の動きはサラッと読み飛ばしても、その後に描かれている表情や姿勢などで優劣や緊迫感は充分に伝わるので大丈夫です。

ミステリーという点から見ると、若干の物足りなさを感じますが、天才棋士・上条桂介の生い立ちと、事件を追う二人の刑事の捜査状況とが交互に出てきて、点と点であったものが線となり、面を構成していく様は見事です。

全てのキャラクターの作り込み方、表現や描写も良いです。しかしながら、クライマックスに至るまで綺麗な上昇カーブを描いていた感情の盛り上がりが、少しずつなだらかになり、最後は「フッ」と糸が切れたような幕引きでした。

中盤までの期待が大きかっただけに、「もう少し何とかならんかったんかなぁ?」という残念な気持ちと、「まぁ、こんな締め方しかないかもね(-_-;)」という諦念もあります。

序盤から色々と伏線が張ってあって、それを中盤から終盤にかけて忠実に丁寧に回収していき、小さなどんでん返しや驚きの場面も出てくるんですが、最終的に『ここ』に落とすための伏線でしかない、結果ありきの展開に収めてしまったのかも知れません。

柚月さん自身がインタビューで、「棋士・村山聖九段の生涯を描いた『聖の青春』と賭け将棋の世界を描いた『真剣師 小池重明』を読んだのがきっかけです。それまでは、将棋の面白さがさっぱりわからなかったのですが、将棋のために命を削る棋士の壮絶な生き方に圧倒されました。」
また、「私の中にあったテーマは「将棋界を舞台にした『砂の器』」なんです。松本清張先生には及びもつかないですが、親子の葛藤と人間の業を描いた『砂の器』の世界観を投影したかったんです。」
と語っておられます。

早速、『砂の器 上・下 by松本清張』、『真剣師 小池重明の光と影 by団鬼六』を予約リストに入れましたよ。

「あまり将棋のことは詳しくない」という中で、よく調べ、それを見事に文章に仕上げて世に出してくれたことは賞賛に値すると思います。素晴らしい作家さんだと思います。

★★★3.5です。