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「最悪」だけど未来に希望も『最悪』by奥田英朗

2020年04月27日 | 小説レビュー

『最悪』by奥田英朗

~不況にあえぐ鉄工所社長の川谷は、近隣との軋轢や、取引先の無理な頼みに頭を抱えていた。銀行員のみどりは、家庭の問題やセクハラに悩んでいた。和也は、トルエンを巡ってヤクザに弱みを握られた。

無縁だった三人の人生が交差した時、運命は加速度をつけて転がり始める。比類なき犯罪小説、待望の文庫化。「BOOK」データベースより

 

とても前評判が高い小説で、ドラマ化もされたようです。三人の主人公たちが、それぞれに「最悪」の人生を転がり落ちていく様が、とても悲惨で読んでいて苦しくなります。

特に鉄工所の川谷さんのストーリーは、とてもリアルな描写で、手に取るような実感がありました。

小さな工場地帯の周辺で、それぞれの最悪な人生を過ごしていた三人の物語が、ある時に沸点を迎え、一気に収束していきます。

そこからは、まるでジェットコースターのように急加速・急降下を繰り返し、一気にクライマックスに持っていく様は圧巻です。

エンディングは、それまでの最悪から少しだけマシになった三人が、それぞれの人生を歩み始めるという、少しだけ爽やかな終わり方をしてくれているので、読後感は最悪ではありません。

巻末の解説にも書いてあるのですが、これだけの伏線を見事に回収していくプロットの組み立て方について、奥田英朗氏は「ストーリーを考えてからキャラクターを作るのではなく、キャラクターを作っていくと自然にストーリーになっていく」ということらしいです。

確かに、大どんでん返しを狙って作っていくという感じではなく、キャラクターを思う存分動き回らせて、その結末が見事に収斂していくという、ある意味「成り行きまかせ」の作風なのかも知れませんね。

それにしても『徹夜本』と言われるだけあって、中盤からは一気に読み切ってしまいました。

★★★☆3.5です。