まわる世界はボーダーレス

世界各地でのビジネス経験をベースに、グローバルな視点で世界を眺め、ビジネスからアートまで幅広い分野をカバー。

通りすがりの世界のアドマンたち(後編)

2020-06-09 16:48:00 | 広告

AdAsiaは2年に一度、アジアの都市で持ち回りで開催されていた広告業界のカンファレンスで、2003年にインドのジャイプールで開催されました。上の写真はその会場の様子です。

インドの映画俳優としては圧倒的な人気を誇るアミタブ・バチャンが広告に関するスピーチを行ったり、世界から錚々たるゲストが参加していました。

サンフランシスコのクリエイティブエージェンシーのGoodby Silverstein Partnersの創業者のジェフ・グッビー(Jeff Gooby)も来ていました。彼自身もクリエイターですが、”Got Milk?”のキャンペーンで有名でした。長く続いたキャンペーンですが、そのうちの一つがこちら。



たまたま手元の牛乳が空っぽになっていたために、千載一遇のチャンスを逃してしまうというコマーシャル。こんな感じで、牛乳の大切さをアピールした作品が次々と作られました。

で、それを作ったのがこちらのジェフ・グッビー。



彼の登壇予定は二日目くらいで、オープニングには出ていなかったので、遅れて会場に入ってきた彼に注目している人はほとんどいませんでした。休憩時間に、外の庭園でティータイムの休憩があったのですが、彼は一人でビールを飲んでいました。ノーマークです。私は思い切って、ビールを片手に彼に話しかけました。彼はとても気さくに対応してくれ、誰も割り込んでこないので、結構長いこと話をしました。

たまたま、彼の会社にいたジョン・スティールというプランナーが書いた「アカウント・プランニングが広告を変える」という本(原題:”Truth, Lies and Advertising: the Art of Account Planning”)を私は読んでおりました。地理を専攻していて、イギリス人だったジョン・スティールが、アカウント・プランナーとして、ジェフ・グッビーと一緒に働くことになるのですが、これがきっかけで、それまで「営業」と呼ばれていた広告業界の人間たちが「アカウント・プランナー」を名乗ることになるのです。

こちらがその本。



まず、私はジョン・スティールのこの本を読んだということをジェフ・グッビーに話しました。私も地理が好きだったし、大学の時の専攻は英文学だったので、ジョン・スティールという人物に対して、共感するものがありました。この数年後に、ジョン・スティールが書いた"Perfect Pitch"という本を、K&Lの社長だった喜多造鷹(きたすみたか)氏から「面白いから読んどいたら」ともらい受けることになります。その本は、1997年に、アップルコンピューターのスティーブ・ジョブズに呼ばれて、アップルの立て直しの広告キャンペーンのオリエンテーションに、ジェフ・グッビーと出かけるところから始まります。競合相手は、「1986」で一世を風靡したシャイアット・デイ(Chiat/Day)。スティーブ・ジョブズは、オリエンの席で、いきなりまだ開発途上のG4とiMacの構想を語り、アップルがどうしたいかを情熱的に数分で語るのですが、パワーポイントとか一切使わずに、ボードとマーカーだけで語ったのが、最高のプレゼンテーションだったと言うことを語っています。その後アップルのスローガンとなる"Think Different"のヒントがここにあったのだそうです。結果はシャイアット・デイに負けてしまいますが、日本でも放映されたそのコマーシャルがこちらです。



ナレーションは何とスティーブ・ジョブズ本人です。

さて、話は、ジェフ・グッビーに戻りますが、私は、たまたまその頃、手塚治虫の「ブッダ」の漫画を読んでいました。ブッダの物語を漫画というフォームで伝えることなどを語ったのですが、非常に興味を持っていました。さらに彼のサンフランシスコにあるエージェンシーでは毎年同窓会のようなものを会社近くの道路を貸し切ってやっていて、会社を辞めていった人間が大勢集まってきてそれは楽しいというような話とかをしました。ゆったりした時間でした。やがて、当時のインドの広告業協会の会長がやってきて、「お二人は知り合いだったの?」と語りかけてきました。「いや今初めて会って話をしていた」と私は答え、後は彼らに話を譲ったのでした。

AdAsiaといえば、2001年の台北での会議に、St. Lukeというエージェンシーをロンドンで立ち上げていたアンディ・ロー(Andy Law) が来ていました。彼は”Creative Company”という本も書いていますが、当時、在籍していたシャイアット・デイがオムニコムに買収されるあたりから話が始まります。日本では「全員参加型のオーナーシップ経営」というタイトルになってしまったので、広告代理店の話とは認識されませんでした。私もこの本を持っていたのですが、K&Lの喜多造鷹(きたすみたか)さんに、懐かしい名前が色々出てくるのでということで、差し上げてしまったので、手元にはありません。



こちらがアンディ・ロー。台湾のステージで話た彼は、何か神がかっていました。後光が差して見えたというか、言葉の一つ一つがしみてきました。こちらが彼が書いた本。



某カメラメーカーの仕事で、私はニューヨークに出張に行くことも何度かありました。その中で、そのメーカーがアメリカの販売部門のセールスマンを集めて、ロングアイランドの郊外のホテルでワークショップを行うことになりました。たまたま私も勉強のため参加させてもらえることになりました。50人くらいが参加していたのですが、その中に何と、アメリカ向けの競合コンペでそのブランドの扱いを獲得したばかりのエージェンシーのファロン・マケリゴット社の創業者社長のパット・ファロン氏自らが参加しているのでびっくりしました。同じ机で、生徒となって勉強をするその姿に感銘を受けました。その後、ファロン・ワールドワイドは世界中に拠点を広げ、2005年にピュブリシスグループに入っています。

こちらがパット・ファロン。



随分昔のことですが、「広告に恋した男」という本を読んだことがあります。



ジャック・セゲラというフランス人が書いた本です。フランスで奇想天外なクリエイティブで有名になった彼ですが、彼の名前はEuro RSCGというエージェンシーグループの名前に残っています。RSCGの中のSがセゲラのSです。K&Lの当時社長だった喜多造鷹氏が、いつだったか、「ジャック・セゲラだったらこの間、会いにきたよ」とおっしゃっていました。合弁しようと考えていたらしいのですが、利害が一致せず、話は流れたようでしたが。こちらがジャック・セゲラ。



2005年にシンガポールでAdAsiaが開催されましたが、そこで講演に来ていたデビッド・ドローガのことも忘れてはいけませんが、彼のことは、以前の私のブログで触れましたので、そちらを参考にしてください。

フェイスブックの “I love people’s faces”の広告が繋ぐ世界 (続・世界は素晴らしい広告で溢れている、の補足)

広告業界に40年近くいる間に、いろんな人たちに会う機会がありました。実際に会った人も、間接的に会った人もいますが、それぞれにたくさんのことを教わった気がします。
教わったことが、なかなか還元できずにいて申し訳ないですが、この記事を通してでもその片鱗を感じていただければ幸いです。
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