東京オリンピックは連日いろんなドラマがあって、カバーしきれないのですが、香港と台湾に関して書いてみたいと思います。
7月26日、フェンシング男子フルーレ個人で金メダルを獲得したのは、香港のエドガー・チュン選手(Edgar Cheung, 張家朗, Cheung Ka Kong)でした。香港としてオリンピックで金メダルを獲得したのは25年ぶりで、1997年の香港の中国返還以降では初めてのことでした。
2019年から激しさを増していた香港の民主化運動に対して、中国政府の圧力が強まり、2020年7月に香港国家安全維持法が施行、8月には民主活動家の周庭(アグネス・チョウ)さんなどが逮捕されるという事態に。2021年になって、民主派は選挙から実質的に排除されることとなり、2021年6月24日、反中国的な姿勢を取り続けたアップルデイリー(りんご日報)が廃刊となっていました。
私は香港に2007年から2011年まで住んでいたので、香港の自由が徐々に失われていくのを目撃してきたのですが、今回のオリンピックでの香港選手の活躍は、そんな重苦しい空気を吹き払うものでした。しかしながら、同時に、通貨やパスポートなどは中国本土とは別でありながら、香港はあくまでも中華人民共和国の一地域にしかすぎないという事実が、複雑な状況をもたらしました。
東京オリンピックは、「168の国と地域」が参加していると言われています。地域とは、香港や、台湾、マカオ、パレスチナなどです。北朝鮮はコロナを理由に東京オリンピック参加を辞退していますが、この国も「地域」に該当します。日本は北朝鮮を国家として認めていないからです。
香港のフェンシング男子フルーレ個人でのエドガー・チュン選手の勝利で、香港各地のパブリックビューイング会場は歓喜の渦に包まれました。
しかし、表彰式で流れたのは中華人民共和国の国歌。その国歌を打ち消すために、人々は“We Are Hong Kong!”と声を合わせて叫んだのです。香港には、2020年6月に「香港国歌条例」というものができていました。国歌を侮辱してはならないという法律です。そのため、7月30日には、この条例に抵触したとして、40才の男性が逮捕されたとのことでした。
今年の香港は、競泳でも活躍しました。7月28日、「リトルマーメイド」と呼ばれる、女子200m自由形の何詩蓓選手(Siobhan Haughey、23才)がトップとはわずか0.42秒差で銀メダル。また7月30日の100m自由形でもトップとは僅差で銀メダルを獲得しました。アイルランド人の父親と香港人の母親の間に生まれた何詩蓓選手ですが、競泳でのメダルも香港初ですし、一つのオリンピックで二つのメダルを獲ったのも香港初でした。
この何詩蓓選手の時は銀メダルだったので、国歌はなかったのですが、今後、香港選手が金メダルを獲得した時は、いろいろ心配になります。香港選手が獲得したメダルが、中国として集計されたりすると、香港の人々は悲しい気持ちになるのでしょうが、今のところはそういうことはなさそうです。
台湾も同じく、「地域」参加として複雑な状況にあります。日本は、中国を国家として認めているので、台湾を中国の一部とする中国を尊重して、台湾には「地域」という格付けしか与えていません。中国から見たら、台湾は、別の国ではなく、中国の省の一つなのです。
東京オリンピック開会式の中継で、アメリカのNBCテレビが台湾を含まない中国の地図を画面上に映したとして、中国政府は同局に抗議したというニュースがありました。「不完全な地図」により「中国人民の尊厳と感情を傷つけた」と中国は主張していたそうです。
オリンピックの開会式では台湾という名前は使わず、“Chinese Taipei”という名前を使うことになっています。台北は都市の名前だし、変な名称なのですが、オリンピックに出る場合はこの名前になっています。
今回の東京オリンピック開会式の選手入場は、アルファベット順ではなく、日本語にした場合のアイウエオ順だったのですが、「チャイニーズ・タイペイ」は、「チ」ではなく、「タ」の順番だったそうです。中華人民共和国と近すぎないようにとの配慮だったのかもしれません。
入場の際の会場アナウンスでは、英語でも日本語でも「チャイニーズ・タイペイ」が使われましたが、NHKのアナウンサーが「台湾です!」と言った時には、台湾人からは拍手喝采だったそうです。
台湾のアスリートも活躍が続いています。8月4日時点で、台湾のメダル数は11個。過去最多です。ウェイトリフティングとバドミントンで金メダルを獲得しています。
7月27日、59キロ級で郭婞淳選手(27)が金メダル。「挙量女神」(重量挙げの女神)と呼ばれる27才の郭選手は、2012年のロンドンでデビュー、2016年のリオで銅を獲っています。今回の記録は、スナッチ、ジャーク、トータルのいずれも五輪記録だったそうです。
7月31日、バドミントン男子ダブルスでも李洋、王斉麟組が宿敵の中国ペアを下して金メダルを獲得。
しかし、国旗掲揚の際は、台湾の旗「青天白日満地紅旗」ではなく、台湾五輪委員会の旗でした。また、演奏されたのも一般の台湾人がなじめない「国旗歌」という曲でした。
こちらがその曲です。
中国が台湾に負けたというのは中国にとっては屈辱的なニュースだったようですが、表彰式のシーンは中国のCCTVでは放送されなかったそうです。
オリンピックは政治とは関係ないとはいうものの、香港や台湾など「地域」の活躍を見ていると、複雑な気持ちにならざるをえません。こういう問題は、なくなることはないでしょうが、みんなが選手たちの活躍を素直に喜べるようになりたいものです。
7月26日、フェンシング男子フルーレ個人で金メダルを獲得したのは、香港のエドガー・チュン選手(Edgar Cheung, 張家朗, Cheung Ka Kong)でした。香港としてオリンピックで金メダルを獲得したのは25年ぶりで、1997年の香港の中国返還以降では初めてのことでした。
2019年から激しさを増していた香港の民主化運動に対して、中国政府の圧力が強まり、2020年7月に香港国家安全維持法が施行、8月には民主活動家の周庭(アグネス・チョウ)さんなどが逮捕されるという事態に。2021年になって、民主派は選挙から実質的に排除されることとなり、2021年6月24日、反中国的な姿勢を取り続けたアップルデイリー(りんご日報)が廃刊となっていました。
私は香港に2007年から2011年まで住んでいたので、香港の自由が徐々に失われていくのを目撃してきたのですが、今回のオリンピックでの香港選手の活躍は、そんな重苦しい空気を吹き払うものでした。しかしながら、同時に、通貨やパスポートなどは中国本土とは別でありながら、香港はあくまでも中華人民共和国の一地域にしかすぎないという事実が、複雑な状況をもたらしました。
東京オリンピックは、「168の国と地域」が参加していると言われています。地域とは、香港や、台湾、マカオ、パレスチナなどです。北朝鮮はコロナを理由に東京オリンピック参加を辞退していますが、この国も「地域」に該当します。日本は北朝鮮を国家として認めていないからです。
香港のフェンシング男子フルーレ個人でのエドガー・チュン選手の勝利で、香港各地のパブリックビューイング会場は歓喜の渦に包まれました。
しかし、表彰式で流れたのは中華人民共和国の国歌。その国歌を打ち消すために、人々は“We Are Hong Kong!”と声を合わせて叫んだのです。香港には、2020年6月に「香港国歌条例」というものができていました。国歌を侮辱してはならないという法律です。そのため、7月30日には、この条例に抵触したとして、40才の男性が逮捕されたとのことでした。
今年の香港は、競泳でも活躍しました。7月28日、「リトルマーメイド」と呼ばれる、女子200m自由形の何詩蓓選手(Siobhan Haughey、23才)がトップとはわずか0.42秒差で銀メダル。また7月30日の100m自由形でもトップとは僅差で銀メダルを獲得しました。アイルランド人の父親と香港人の母親の間に生まれた何詩蓓選手ですが、競泳でのメダルも香港初ですし、一つのオリンピックで二つのメダルを獲ったのも香港初でした。
この何詩蓓選手の時は銀メダルだったので、国歌はなかったのですが、今後、香港選手が金メダルを獲得した時は、いろいろ心配になります。香港選手が獲得したメダルが、中国として集計されたりすると、香港の人々は悲しい気持ちになるのでしょうが、今のところはそういうことはなさそうです。
台湾も同じく、「地域」参加として複雑な状況にあります。日本は、中国を国家として認めているので、台湾を中国の一部とする中国を尊重して、台湾には「地域」という格付けしか与えていません。中国から見たら、台湾は、別の国ではなく、中国の省の一つなのです。
東京オリンピック開会式の中継で、アメリカのNBCテレビが台湾を含まない中国の地図を画面上に映したとして、中国政府は同局に抗議したというニュースがありました。「不完全な地図」により「中国人民の尊厳と感情を傷つけた」と中国は主張していたそうです。
オリンピックの開会式では台湾という名前は使わず、“Chinese Taipei”という名前を使うことになっています。台北は都市の名前だし、変な名称なのですが、オリンピックに出る場合はこの名前になっています。
今回の東京オリンピック開会式の選手入場は、アルファベット順ではなく、日本語にした場合のアイウエオ順だったのですが、「チャイニーズ・タイペイ」は、「チ」ではなく、「タ」の順番だったそうです。中華人民共和国と近すぎないようにとの配慮だったのかもしれません。
入場の際の会場アナウンスでは、英語でも日本語でも「チャイニーズ・タイペイ」が使われましたが、NHKのアナウンサーが「台湾です!」と言った時には、台湾人からは拍手喝采だったそうです。
台湾のアスリートも活躍が続いています。8月4日時点で、台湾のメダル数は11個。過去最多です。ウェイトリフティングとバドミントンで金メダルを獲得しています。
7月27日、59キロ級で郭婞淳選手(27)が金メダル。「挙量女神」(重量挙げの女神)と呼ばれる27才の郭選手は、2012年のロンドンでデビュー、2016年のリオで銅を獲っています。今回の記録は、スナッチ、ジャーク、トータルのいずれも五輪記録だったそうです。
7月31日、バドミントン男子ダブルスでも李洋、王斉麟組が宿敵の中国ペアを下して金メダルを獲得。
しかし、国旗掲揚の際は、台湾の旗「青天白日満地紅旗」ではなく、台湾五輪委員会の旗でした。また、演奏されたのも一般の台湾人がなじめない「国旗歌」という曲でした。
こちらがその曲です。
中国が台湾に負けたというのは中国にとっては屈辱的なニュースだったようですが、表彰式のシーンは中国のCCTVでは放送されなかったそうです。
オリンピックは政治とは関係ないとはいうものの、香港や台湾など「地域」の活躍を見ていると、複雑な気持ちにならざるをえません。こういう問題は、なくなることはないでしょうが、みんなが選手たちの活躍を素直に喜べるようになりたいものです。