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逆張りの広告ビジネス

2020-11-13 10:40:01 | 広告

シンガポールにある某日本企業の依頼で、アジアの広告メディアの状況を調査し、国別のレポートを作成しています。シンガポールのレポートは完成し、クライアントへの報告はすでに終了。様々なデータや調査資料を組み合わせて、まとめていたら、シンガポールだけでパワーポイントで130ページ以上になりました。

広告ビジネスの傾向から、新聞、雑誌、テレビ、ラジオ、屋外広告、デジタルまで全体を網羅してある資料は類をみない、とクライアントに評価されました。かつて繋がりのあったネットワークをフル活用し、様々な情報ソースをあたって情報を集めた結果です。

20年くらい前にインドの広告事情を日本語でまとめたことがあったので、その時の経験が役にたちました。シンガポールで、例えばストレーツ・タイムズという新聞にフルページ・フルカラーで広告を一回出したらいくらくらいになるのか、Channel NewsAsiaというチャンネルで30秒スポットを入れたらいくらくらいになるのか、バス広告はいくらくらいでできるのか、タクシーはどうかなど、最新の具体的な金額まで調べたので、貴重な資料になったと思います。

この資料を作成している中で、一つの新たな発見がありました。このブログでは、そのことについて書いてみたいと思います。それは、デジタル広告の広告費が年々増えているのですが、だからと言って、デジタル広告を万能と思うのは違うんじゃないかということです。新聞、雑誌、テレビなど、従来の広告媒体には、デジタルでは敵わない価値があるのではないかということ。従って、従来の媒体を簡単に切り捨ててはいけないということでした。

私は、広告業界で数十年仕事をしてきました。年々、デジタル広告が増えていくに従って、従来の広告は、古く、時代遅れだという風潮が強くなっていきました。急成長してきた広告代理店は、どこもデジタル広告を主力として、デジタルに精通した人間ばかりが、肩で風を切って歩くようになり、従来広告に携わっていた人間は時代に淘汰されていくような寂しさを感じていました。

デジタル広告は、ターゲットを明確に特定でき、結果が把握しやすいので、広告効果をきちんと検証できる。予算投下の無駄が少なく、予算を効率的に使用できる。費用対効果が非常によい。メリットをあげていけばキリがありません。だから、クライアントも、広告代理店もデジタル広告に魅力を感じるのです。

電通イージスグループの2019年の調査資料で、全広告費に対するデジタル広告の比率を国別に計算してあるデータがあります。アジアパシフィックの2018年度の平均は45.9%。アジアパシフィックの中で一番デジタル広告比率が高いのは中国で、59.8%。オーストラリアが50.5%、ニュージーランドが45.4%、香港が41.2%、台湾が39.8%、韓国が39.3%、日本が34.9%です。シンガポールは28.4%ですが、他のアジア諸国はまだ従来メディアの比率が高くなっています。ちなみにアメリカ合衆国は34%、英国は61.3%です。

新聞や雑誌の印刷媒体は部数を減らし、雑誌などは廃刊したりするところも多く、テレビは視聴者のテレビ離れが進行しています。統計を見ていると、従来メディアは滅びるだけのように見えてしまいます。

しかし、そんな中で、私はずっと違和感を感じていました。負け惜しみなのかもしれないとも思ったのですが、デジタル広告の仕事もやりながら、何か気持ちの整理ができないでいました。同時に、デジタルしかわからない人間に広告ビジネスの本質が理解できるのだろうかという疑念もありました。私は、もともとはクリエイティブ出身で、媒体の専門ではなかったのですが、小さな会社だったので、何でもやらなければならなかったのです。そんな境遇のおかげで、広告ビジネスを俯瞰的な視点で眺められるようになりました。

今回、このレポートを作成するにあたって、ひょっとして、デジタル広告に対しての疑念を示している資料もあるのではないかと思い、ネットを探し回ってみました。そうしたら、そういうデータが出てきたのです。

2015年のニールセンの調査データが見つかりました。”Global Trust in Advertising 2015”という調査です。どの広告媒体の広告を信頼するかという世界数カ国での調査ですが、これによると、従来メディアに掲載された広告の信頼度が、デジタル広告のそれを凌いでいるという結果が出ています。アジアではさらにその数値が高く、年齢別に見ても、ほぼ全年齢層で同じような傾向が出ています。意外なことに、ミレニアル世代が他の世代よりも広告に対しての信頼が高いということも出ていました。

さらに、2017年にMarketingSherpaという団体が北米で行なった調査資料も出てきました。それによるとプリント広告の信頼度が最も高く、テレビ、ラジオ、屋外広告と続き、デジタル広告は下位になっていました。

広告する商品のジャンルにもよるでしょうが、従来タイプの広告媒体を使った広告のほうが、デジタル広告よりも信頼性という意味では評価が高いというのがわかります。この調査自体に対する評価はわかりませんが、複数の調査が同じような傾向を示しているので、無視するわけにはいかないのではないかと思います。

私は今、シンガポールを拠点に、アジア各国を対象にした広告代理店をしています。デジタル全盛の世の中で、新聞や雑誌、テレビなど従来型の広告のノウハウを持った人材は、ほとんどいなくなってしまいました。新聞やテレビなどは、それなりの知識と経験を必要とします。若手広告マンが、あえてそのような旧媒体を志向することもないので、今後は業界のノウハウとしてフェイドアウトしていくことでしょう。

そうすると、もし広告の信頼性に関する調査の正しさが立証され、従来型の広告の復権があるのだとしたら、私のような存在は希少価値となる可能性があります。一見時代遅れの分野が、ある日、気がついたらブルーオーシャンになっているかもしれない。そんなことをレポートを準備する中で感じたのでした。

この記事の中でご紹介した調査データ等、興味のある方は、以下のウェブサイトにある連絡先にメールください。
www.wings2fly.co

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