思惟石

懈怠石のパスワード忘れたので改めて開設しました。

『図像観光: 近代西洋版画を読む』 86年初版なのに図録がキレイだ

2024-10-16 13:54:59 | 日記
『図像観光: 近代西洋版画を読む』
荒俣宏

旅行先の富山駅構内で古本市が開かれていて
「駅ナカで?」と思いつつ寄ってみたら
色々と良い本があって、買ってしまった。
旅先なのに…。

その一冊。
初版が1986年、だいぶ前の本ですね。

近代西洋版画を学ぶというよりは、
荒俣先生のバベル並みな蔵書の中から
おもしろい図録をお裾分けしていただくって感じの
一冊ですかね。

解説も自由に書かれているので、
寓意画から博物画から解剖細密画から建築がからもう
あっちこっちと幅広い。
ちょ、待てよ!ってなるわ。

収録している図録はどれもオリジナルを見たいと思っても
なかなか入手できないんじゃないかな。
お得な一冊です。
(印刷もキレイ)

学術書ではないので、
寓意画の解説が食い足りなかったりはしますが
(先生!そこ、もうちょっと詳しく書いて!的な笑)
自分で勉強するしかない。しゃーない。
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『イラク水滸伝』 実録!誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをし…

2024-10-11 14:48:34 | 日記
『イラク水滸伝』
高野秀行

おなじみ辺境ライターの高野さんの、
イラクドキュメンタリー本。

分厚いね…。
(480ページ)

しましまあ、読了するとわかる。
削るところないわ。

通勤読書は諦めて自宅でゆっくり読みました。
が、おもしろくて数日で読み切ってしまったので
筋トレにも肩こりにもなりませんでした。瞬殺!

今作のメイン舞台はイラク南部。
ユーフラテス川とティグリス川の合流地点から広がる
巨大デルタ(と言うには広すぎる)、
「アフワール」と呼ばれる湿地帯。

ちなみにメソポタミア文明の遺跡群とともに
世界遺産に登録されているらしい。

その割に、実態が知られていないという、
高野さん案件ど真ん中な不思議辺境地帯。

イラクといえばイスラム教で、
シーア派とスンニ派が対立しているイメージですが、
湿地帯には「マンダ教」というマイナー宗教の
信徒が一定数いるそうです。

という未知を「知る」→「学ぶ」→「体験する」(すぐ仲良くなる!!)
フローが早い!!!
鮮やか!!!

毎度、読んでいて惚れ惚れします。

探検ルポだけでなく、
湿地帯の歴史もしっかり調べて
わかりやすく書いてくれているのがまたありがたい。

アフワール(湿地帯)が広がるのは、
古代メソポタミア文明が栄えたエリア。
シュメール初期王朝、アッカド王朝、ウル第三王朝、
古代アッシリア・古代バビロニアという流れ。
(小林登志子先生の『古代メソポタミア全史』も引かれていた。
 高野さんと同じ本を読んでる!というファン心理)

で、
3世紀、ササン朝ペルシア。農業が栄えた豊かな時代。
迫害されたマンダ教徒も流入。
(キリスト教異端のネストリウス派が集って
 栄えた学術都市ジュンディーシャープール
 ササン朝ペルシアの都市。湿地帯の東隣にある)
7世紀、イスラム教徒の支配期。
ウマイヤ朝からシーア派アッバース朝へ。
16世紀、オスマン帝国とサファヴィー朝の国境付近になる。
「辺境」よばわりされる。
20世紀、なぜか共産党が流行る(思想的には共産主義とずれている)。

乱暴に要約しすぎた気がするので
ちゃんと『イラク水滸伝』を読んでほしいんですが、
湿地民の「統一より分散、秩序を壊す方向に傾こうとする」傾向
なんとなくわかる。

あと、湿地体験の途中で古代メソポタミア遺跡の
ウルとウルクに行っていたの、羨ましい!
外国人が観光ツアーとかで行ける場所ではないってことが
よく分かりました…。
でもいつか行ってみたいな。
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『誰が音楽をタダにした?』 mp3の功罪

2024-10-09 11:16:33 | 日記
『誰が音楽をタダにした?──巨大産業をぶっ潰した男たち』
スティーヴン・ウィット
関美和:訳

これ、だいぶ前に『ゆる言語学ラジオ』で聞いて
読もうと思っていた本でした。

CDの全盛期から、
mp3の開発・拡散によって
音楽ストリーミング時代になる
怒涛の数年間(10年にも満たないんじゃないか?)。

めちゃくちゃおもしろかった!!
もうちょっと話題になっても良くない?

と思ったけど、この本って年代によって
ブッ刺さり具合が違うのかな?

作者は79年生まれの
「音楽って無料でDLするものでしょ」世代の
ど真ん中。

私も同年代。
まだCDにコピーガードなんかなかったので
学生時代、TSUTAYAで当日レンタル(最安)して
近所のカフェで楽曲コピーして返却していました。

そういえば大学の研修室のPCから自前PCに
フォトショップもイラストレーターも
「アプリそのもの」がコピーできた時代だよなあ。
そもそもアプリってコピーできるものだと思っていた。
(ダメです)

でも一方で、CDが登場したことも覚えているんだよ。
初めて買ったシングルCDのことはちゃんと覚えている。
でもCDを買わなくなった時の記憶はない。
気づいたら音楽はmp3になってipodに入っていたんだわ…。
怖っ。

という我々世代には思い当たる節しかない一冊ではあるけれど、
大丈夫、誰が読んでも楽しい。絶対。

mp3開発チームの「ビジネス下手っぷり」や
アメリカ音楽業界の裏番みたいな大物プロデューサー、
金にならない海賊版の音源リーク合戦をしている若者たち。
アメリカ映画かな?というくらい引きの強い登場人物てんこ盛りである。

私はmp3開発チームの
「mp3再生アプリつくったよ。めっちゃダサいけど」
→UI改善しただけのナップスターに巨万の富を得られちゃう
「mp3プレーヤーつくったよ。特許はとるのメンドいな」
→ああああああああipod!!!!
な感じが歯痒くてゴロゴロ転がりながらも
ちくしょう幸せになれ!!!と情緒不安定になりました。

あとハリポタ怖い笑

いやもう、ほんと面白いエンタメドキュメンタリー。
取材力も凄いなあと思う。
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『遊牧騎馬民族国家』 モンゴル始祖伝説だけでこんなに話が広がるんか

2024-10-08 11:22:25 | 日記
『遊牧騎馬民族国家』
護雅夫

シルクロードと唐帝国』のなかで
森安先生が参考にと紹介していたので、
読んでみました。
文句ばっか言ってたくせに、素直に感化されております。

この本、前書きでご本人も書かれていますが、
遊牧民族の歴史とか概要ではなく、
ある遊牧民族の始祖伝説と祭儀にまつわる
調査と推論をまとめた一冊なんですね。

と言ってもわかりにくいと思いますが。

チンギス・カン(この本だとジンギス=カン)の
始祖伝説は「蒼き狼」ってのがあるじゃないですか。
(井上靖が同タイトルで小説を書いている)
主に、その伝説の類型、モチーフ、祭儀の分析で、一冊です。

…そんなに書くことあるかな?

チンギス・カンの始祖伝説は『元朝秘史』に収録。
上天から命をうけて生まれた
蒼き狼(ブルテ・チノ、ただしくは「まだらの狼」らしい)と
その妻である美しい鹿(ゴア・マラル)があった。

から始まる逸話です。

これ、元朝ですから、
「モンゴル人」のルーツということです。
が、トルコ系の突厥・阿史那氏族にも「狼が始祖」伝説がある。
(牝狼と人間の子が始祖、柔然の鍛治師になる)
トルコ系の高車(こうしゃ)にも「狼が始祖」伝説がある。
(美しい娘と老狼の子が始祖)

さらにペルシア・イルカン帝国の歴史書『集史』では
モンゴル人の祖先は鍛治をしていたという
『元朝秘史』にないエピソードが加わっている。
(これ、突厥・阿史那氏のエピソードじゃないか?)

内藤湖南先生(声が良いらしい)によると
モンゴル民族とトルコ民族の接触による
始祖伝説のエピソード追加(もしくは交雑?)らしい。

すごいな。
推理小説みたい。

他にも、突厥での可汗(カガン、君主のこと)即位儀礼を
例にあげて、
シャーマニズム(トランス状態からの予言)の類似譚や、
氈(けむしろ・フェルト)というアイテムの重要性(!)を
あっちこっちの伝承やら事例やら引っ張ってきて分析します。

いやいや、
「王(カガン)ののった氈をかつぎまわる」
の一文から「推理のヒントは氈だぜ!」とは思わないですよ。
護先生、御手洗潔かよ(直感ですぐ推理しちゃう派)。

ちなみに即位儀式で氈(フェルト)に王様のせる系は
契丹(モンゴル系)にも鮮卑・拓跋(トルコ系)にもあるそうです。
どうやって調べるんだ。

他にも鍛治師および鉄の霊力
(日本の河童も中国の鮫竜も、鉄を嫌うんだって。先生、物知り!!)
未亡人の受胎(天降った光で懐胎するモチーフ)などなど。
こんなにいろんな角度から分析って広がるんだあ…と
びっくりします。

200ページも書くことある?と思ったけど、あったよ…。
読み応えがすごかった…。

ちなみに昭和42年初版、定価420円。
それもびっくりだぜ。
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『百万都市 江戸の生活』 江戸って地続きにある

2024-10-07 11:14:18 | 日記
『百万都市 江戸の生活』
北原進

ブクログ2.9でアマゾン4.1。
なんでこんなに評価が割れてるんだろ?

著者は近世民衆史が専門の大学教授。
いろんなところで書き散らした
江戸文化の小文を集めた一冊らしいけれど、
江戸っ子の銭湯、下水事情、生活、貨幣、料理
武家の財政、刃傷沙汰、等々…。
テーマごとに集めて構成もきれいにまとまっているので
あり物を再編した雑多感はあまりないかな。
最初から最後まで通しで、楽しく読みました。

ところで私は「甲乙丙丁」のこと、よくわかってなくて。
裁判とか契約書で「俺とお前」が「甲と乙」なんだな、くらい。
あと『鬼滅の刃』の隊員のランクかな?くらい。

なので、
「木火土金水」(五行)×「エト(兄=エ・弟=ト)」
で構成されているという説明に
心の「へえ」ボタン100連打でした。
へええええええええ!

何言ってんだって感じだと思いますが。

甲=木の兄(きのえ)、乙=木の弟(きのと)
丙=火の兄(ひのえ)、丁=火の弟(ひのと)
戊=土の兄(つちのえ)、己=土の弟(つちのと)
庚=金の兄(かのえ)、辛=金の弟(かのと)
壬=水の兄(みずのえ)、癸=水の弟(みずのと)

ということだ。
覚えやすい!
干支(十二支)と甲乙丙丁×兄弟(10)の掛け合わせで
60年一周期ができる。
明治元年は「戊」×「辰」=「つちのえたつ」だから
戊辰(ぼしん)戦争と言うんだな!
へえええええ!!!
(と良い歳して驚いているのは恥ずかしいことなのだろうか)
(今後は知っていたふりをして生きていこう)

あとは九六銭(くろくせん)の考え方もおもしろかった。
「96文をもって百文と勘定する」
何言ってるか分からないと思いますが、ありのままの話しだぜ。
96文=百文なんです。
穴あき銭に紐を通してまとめた緡銭(さしぜに)も、
96枚で百文として流通していたそうです。
わかったようなわからないような気もするが、
消費税で10%も持っていかれている現代の方が
腑に落ちない気もしてきたな。

紀尾井町は
御三家の紀伊家(紀)、尾張家(尾)、譜代の井伊家(井)の屋敷が
あった坂が「紀尾井坂」だったから。
三文字略語(TLA:three-letter abbreviation)じゃん。

江戸時代は上方からの「下り物(くだりもの)」が高級品。
下り酒とか、下り油とか。
対して、江戸近辺の安物を「下らない(くだらない)」物と呼ぶ。
え?そういうことだったの?

とかとか。
江戸時代の生活や文化風習もおもしろいし、
意外と現代まで続いているあれこれのルーツが学べたりして
お得。

神田上水を開いた大久保主水は、水が濁らないように
主水(もんど)と書いて「もんと」と読むように
家康に命じられたのとか、めちゃおもしろ。
いまだに橋の銘は「永代橋」=「えいたいはし」、
「日本橋」=「にほんはし」ですしね。
(これも水が濁らないための験担ぎ)。
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