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川崎の森

2009-12-09 19:17:27 | 山の木の話(越後杉)


長岡市内の川崎小学校に「川崎の森」があります。
学校の敷地の中に森を作ることで、
地域と学校との壁を取り払い
教師と子供、地域の人たちが一体となって森を作ることで
学びの場、交流の場を共有しあうコミュニティーを形成する
「総合的な学習の時間」の先駆けとなった森です。


学校の風景を変える






 新潟県長岡市の住宅地に囲まれた小学校、長岡市立川崎小学校には、 川崎の森と名づけられた約600㎡の森がある。山之内さんが校長を勤めていた1988年に完成した「学校の森」第一号だ。子供達や教師、地域住民が一緒になって土をつくり苗木を植えたこの森は、15年経った今、地域の中で揺るぎない存在感を示している。
 「校舎と運動場と体育館があって、というのが一般的な学校のイメージですが、そこに森が入ると学校の風景が変わるんです。子供にとって学校が単に(情報を)伝達される場ではなく、自己発見の場になるんですね。もちろん先生にとっても、親や地域住民にとっても同じです。つまり学校に森があることによって、子供たちは自然とのつながりを深め、それを活かすことができ、学校が生き生きするようになるんです」と山之内さんは言う。

  
自然こそが教育の原点






 山之内さんは1974年、山古志村の虫亀小学校に赴任した。「ただ教科書を教えるだけの教育でよいのか」というジレンマを常に持っていた山之内さんは、ある日峠道から村の棚田を見て、自然こそが教育の原点であることを悟ったという。
 「村の自然によって培われている産業や文化を活かして総合的な能力を発達させることが、村にとって不可欠なんです。学校はすべからくそういう教育を行うべきなのに、今は各教科ごとにバラバラのことをしているじゃないか、と。豊かな自然を持つ村の暮らしから離れて全国標準の教育を求めるあまり、かえって学ぶ意欲が損なわれ、心も村から離れてしまっていたのです」





 そこで山之内さんは、実験水田や地域の名産である錦鯉の飼育といった地域の「いのち」に結びついた活動を子供達が体験し、それを様々な教育に結び付けていく「総合学習」を1975年から始めた。2002年に設けられた「総合的な学習の時間」の考え方を約30年も先取りしていたことになる。この活動によって、子供達の学ぶ意欲は格段に向上したという。

 その後、2つの小学校で校長を務め、総合学習を実践した後に赴任したのが、市街地の中にある川崎小学校であった。


 「虫亀小学校では、総合活動によって学校の囲みが溶けて村中に広がりました。地域の自然が教室となり住民も積極的に教育参加してくれましたし、そのことで子供達も非常に生き生きとしたわけです。ところが川崎に赴任したときは強い閉鎖感を感じました。学校の中に子供が閉じ込められているんですね。地域とのつながりもありません。ちょうど校舎を改築している最中でしたので、更地を見ながら考えているときに、フッと、森をつくることをひらめいたんです」
 子供達と教師、地域の住民が一緒になってつくった「川崎の森」は、教科を超えた総合活動のカリキュラムの中核となっている。「学校の子供達と地域の自然、文化を、総合活動を媒介にしてつなげることで、子供や学校が生き生きする」という山之内さんの信念を都会の学校でも実現するための「学校の森」なのである。


学校の閉塞感を取り払う森


学校の中に自然を取り込むということならば、花壇や屋上緑化、畑作づくり、または近年盛んになってきている学校ビオトープづくりも、同じコンセプトで行われているものであろう。ではなぜ「森」である必要があったのだろうか。
 「土をつくって種をまいて育てて、という体験自体は素晴らしいことです。でも、花壇や畑は、そのほとんどが1年草でしょう。森は一度つくれば、ずっとそこにあるんです。毎日ふれあうことができますし、それを6年間継続することができますから、自然との「つながり感」はそれだけ強いものになります。それに、高度な精神的機能や多様な機能を持っている森は、それだけ教科に限定されない多面的、開放的な豊かな教材性を持っているということも大きいですね」






 森によってつながるのは、子供と自然だけではない。自然の少ない都会であればあるほど、「学校の森」づくりは子供にとっても親にとっても、もちろん先生にとっても新しい経験となる。そして、森の「いのち」とつながる感性は、幼い子供ほど豊かなのである。
そのことによって学校に、教えられるだけの関係ではない人間同士のつながりが生じる。子供達にとって学校が、より楽しい場所となったであろうことは想像に難しくない。これは、単なる自然教育、環境教育といったものを超えた効果である。それはまた、学校の中の「森」を越えて地域社会の緑化、国土緑化への関心や地球環境への関心を深めることも期待されよう。また「川崎の森」を末永く保全するための「川崎の森の会」が地域住民によって組織されているが、これも学校に森を作り出したことによる、地域との新しいつながりである。

 「最近では、都会の学校が山村に出向いて森林体験をするといった活動が盛んになっています。これはもちろん有意義なことですが、その活動をその場限りのものにしないためにも、子供達が常に接することができる森があることは、大きな意味があると思います」


「つながり感」を育む意識が大切






山之内さんは川崎小学校の次の赴任地である小千谷小学校でも30m×4mの小さな「学校の森」をつくり、それを核とした総合学習を進めており、その後各地に「学校の森」は広がっている。
また、小千谷小学校での活動を紹介した本「森と牧場のある学校(手塚郁恵・著 春秋社)」が英訳、ハングル訳されたことで、諸外国にも「学校の森」は広がっており、韓国では国民運動にまで発展しているという。

 1992年に退職した山之内さんは現在、日本ホリスティック教育協会相談役として「学校の森」の普及に努められており、ご自身の活動をまとめられた「森をつくった校長(春秋社)」を出版されている。近々「学校の森」を普及するためNPOも立ち上げる予定であるという。





「2002年に総合的な学習の時間が導入されましたが、ただコメづくりをやれば総合学習だ、といった感じに捉えられていて、教科横断的な学習にはなっていないのが事実です。
先生方が、地域の人とのつながり、教科どうしのつながりといった様々なつながりを育むことの大切さに気付いていないんです。逆に言えば、つながり感を育てるのは、学校の教育方針、つまりカリキュラム次第ということです。

ですから学校の森も、森の「いのち」とのつながりを生かした教育方針さえしっかりしていれば、たとえどんなに小さな森であっても、その役割を果たすことができるはずです」

もちろん、学校の中に森をつくるということは、どこでもできることではないだろう。また、ただ学校に森があればいいというものでもない。学校から少し離れた学校林でもいいのである。公園でもいいのである。

必要なのは「つながり感」を育もうする意識だ。そのことで子供達が、そして学校が変わるのである。そして子供の心に育まれた「つながり感」が、森とともに暮らす社会を構築していく原動力となるであろうことは言うまでもない。



川崎小学校



社団法人 国土緑化機構発行の「ぐりーん もあ」2003年23号に掲載された
「森が子供を変える」の記事を元にしています。



山の木の話へ・・



長岡ってこんな街

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2 コメント

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やまもとやすとさん、コメントありがとうございました! (管理人)
2023-05-18 23:05:26
多忙のため、チェックが遅くなりました。

学校の森は地域と学校との境界を取り払うためという目的がありました。
現在は学校教育の「総合的な学習の時間」という形で組み込まれています。
川崎の森を見て育った子供たちが、大人になって地域の人たちと共に作ったのだという想い出が、代々受け継がれていくと良いと思います。
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川崎の森 (やまもとやすと)
2022-11-03 15:15:08
数十年前にすぐ隣の一軒家に住んでいました。12月末に熊本から長岡に転勤しました。サイクルも変わりました。その当時は川崎の森があったか記憶が定かではありませんが、その森を見ると校舎見えるので、懐かしいです。今一度いきたいと思っています。
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