住みこみ*著書:『住みこみ』(2007年/ラトルズ刊) 戸田家の一年を写真とエッセイで綴った本のタイトルです。

人の暮らしは時間と共に変化します。それを調整しつつ自在に手を入れられる、ゆるやかな設計を心がけています。

庭と借景

2009-05-29 21:02:21 | 
(築山の中に苑路を創る)

本日雨の中、現在進行中の住宅の竣工に向けての造園作業に立ち会った。本来であれば竣工後、住み手と植木屋さんでお話の上、庭を造るというのが一般的だと思うのだけれど、私の場合はその庭好きであるのが功を奏しているのか、はたまたその逆なのか・・・戸建て住宅設計の場合、ほとんどといっていいほど計画の段階で、その図面の中に植栽の絵が現れてきてしまうのであるからこのような羽目?になるのである。。。

雨の中傘もささず、ゴアテックスの山用の合羽に例のフィールドラバーブーツという出で立ちで腕組みをしながら、「もうちょい左」「気持ち回転」「顔をこっちに向けて」って指示をしている私は誰っ?そもそも何屋さんだ?

写真は作庭中の庭。白い線は草木用石灰で苑路の線を書いては眺め、歩いてはまた書いた線の跡。ちょうどデッサンで線を探している感覚。
画面上部遊歩道の緑が、庭の築山(※)の上にシンボルツリーの青肌を植える事によって、敷地内に取り込まれた事がお分かりだろうか?

人が距離を認識する要因のひとつに、地表面の情報があるが、それを意図的にぼかす・曖昧にする事、つまり視点と視対象との間の地表面を意図的に隠すことによって遠近感を喪失させ,近景の中に幻想的な中景もしくは遠景を取り込む事が出来る。庭の世界で「借景」(しゃっけい)とよんでいるのがそれにあたる。。。って本当にあんた誰?

※築山:日本庭園に築かれる人工の山。平安時代にもみられるが,枯山水,回遊式庭園の出現とともに発達し,庭園に立体的な美しさを加えるようになった。名山になぞらえたものや,四周の眺望を得るためのものもある。

話は飛ぶが、住宅を設計していていつも思うのは、みんなどうして敷地にめいっぱいに建てようとするんだろうかということ。もちろん限られた敷地の中で、より大きく建てたい気持ちは十分理解できる。しかし、そこでグッと我慢をして、例え半畳分でもいいから床を土に換え天井を空に換え、木を一本植えそして借景しあう事によって、きっと半畳以上の効果があるはずだ。。。ってこれは本当。

ここの敷地のように目の前が遊歩道という環境はめったにないにしても、規模の大小に関わらず、敷地と町並みで借景しあえたら、そこに住んでる人も、そこを通る人にも、日々の生活がどんなに豊かになるんだろうと思えてならない。
明日5月31日(土)のオープンハウスはそんなプロジェクトの一環です。

ところでもうひとつお知らせがあります。HPでもご案内しておりますが、6月7日(日)この写真のお宅のオープンハウスを開催します。ただし10名限定です。また今回は私と面識がある方や具体的に住宅建設をお考えの方に限らせていただきます。個人住宅ということで、ご理解の程よろしくお願がいします。


=戸田晃建築設計事務所=


皐月と父の枝っぷり

2009-05-25 11:04:37 | 
(一本の木でも交配の加減で色の出方が変わる皐月/露地エリア)

飲みっぷり、食いっぷり、男っぷり、担ぎっぷり・・・ 潔い様、堂々としたたたずまいを表す言葉として広く使われる言葉であると思うが、木々にもその枝のあり様を表す言葉として「枝っぷり」がある。

自然の木々であれば、南面北面か、傾斜地か平坦か、乾燥地か湿地か、日照条件などその土地自体の環境、周辺環境によって、その枝の伸びる方向、伸びる速度、枝の出る位置・・・がそれぞれ違い、それによって枝っぷりがおのずと変わる。庭木や盆栽であればその手を入れた人の好みや見立て方、センスで変わるものだ。

私自身、庭いじりをはじめて、早い段階でひとつの難問?につき当たったのがこの「枝っぷり」に関係する剪定(せんてい)作業だった。自分は庭いじりは本職ではないし、それまで剪定バサミなんてまともに持った事さえがなかった。本来であれば、植木屋さんに全てお任せすればよい事であるが、我家のように建物が5つの庭によって成り立っている家では、庭はこの家のデザインの一部、と言うよりはこの家のあり様に深く関係し、とても人任せに出来ないと感じているからだ。

最初の頃は、剪定はただ枝を切ってしまえば良いと思っていたが、最近は 枝を整理する、枝を探す、5年後の姿を思い浮かべながら、残すもの切るものを決める事なんじゃあないかと。もっとも思ったように枝が出てくれなかったり伸びてくれなかったりする事しばし。生き物相手なので仕方ありませんが・・・

父は生前、盆栽を趣味のひとつとしていた。その鉢の数100を超えた。今ではほとんど愛好家に引き取ってもらったりしたが、5.6鉢私が引き取って地植えした。もっと多くの鉢を自分の庭に持ち帰り植えてみようかと思ったが、どうもしっくりこない。盆栽を眺めながら「どうしてこの角度?」「この枝はいらないでしょう?」など゛気になる事の方が先行して徐々にストレスになってくる。父が好きとか嫌いとかの話じゃああませんのでお間違いなく。。
盆栽は枝や幹を銅線で矯正するなど手を入れる事が容易な分、その人の手をかけた痕跡や、リズム感が出やすいものだと思う。
だからこそ、センスや好みの違いがはっきり出るものだと思う。
そこには紛れもなく、思いのつまった、”父の枝っぷり”があった。

皐月(サツキ):ツツジ科の植物で、山奥の岩肌などに自生する。盆栽などで親しまれている。サツキツツジ(皐月躑躅)などとも呼ばれており、他のツツジに比べ一ヶ月程度遅い、旧暦の五月(皐月)の頃に一斉に咲き揃うところからその名が付いたと言われる。

(沼エリア)


バルタン星人

2009-04-26 11:58:46 | 
(沼エリアにて)
沼エリアにある山モミジの、この春一回目の剪定をした。といっても高さが5mにも達しているこの木は剪定バサミでパチパチとはいかない。本当は、「トショウ」と呼ばれる丸太や竹で作った、三角形のハシゴに足が一本付け足されたような、3本足の足場をくいくいって登り、片足をその足場に引っ掛けて「ちょっくら右」とか言いながら「粋」に剪定したいものであるが、家にある4点支持のいわゆる「脚立」では狭い庭ではどうにも不安定で怖い。そこでとても重宝するのがこの「高枝切りバサミ」です。そうあのテレビの通販番組とかで紹介してるモノである。
台風一過のような青空の下、下から高い場所の枝を見上げて、青空をバックに枝を切るのはなんだかすがすがしい。でも長時間作業を続けているとくらくら立ちくらみがして来る。日頃下を向いて仕事をしている事が多いので無理もないと思っているのですがさて。

新緑の中で高枝切りバサミのヘッドが何とも鮮やかだった。

混んでた枝を漉いてあげたら、途端に4月の風を孕み、何とも気持ちよさそうにひらひらしていた。(私がじゃあないですよ・・・)

(高枝切りバサミ)

山紅葉(ヤマモミジ):カエデ科カエデ属 日本原産の落葉高木。高さ5~10mになる。葉は7~9裂して、枝は対生で細かくよく分岐します。樹齢が高くなると灰白を帯びた幹肌に縦じまが入ります。春の芽だし、夏の緑葉、秋の紅葉と1年中楽しめます。


オオモミジ・ヤマモミジ・イロハモミジの区分けは難しいみたいですが、ヤマモミジらしいという事でまあ良しとしましょう。
ちなみにカエデは葉の形が「蛙の手」に似ているからその名前が付けられたらしい。う~んわかり易いが確かに。

猩猩紅葉

2009-04-23 09:10:51 | 
(09/4/23 小川エリア)
秋の紅葉ではありません。正真正銘4月です。我家の春はこの猩猩紅葉(ショウジョウモミジ)のちょっと紫がかった紅色で始まります。

この家が出来てから8年目。今まで住んでた築約60年の木造平屋建てを取り壊し建てたものですが、そこから唯一いっしょに引っ越して来たのがこの樹だったのです。新築当時、工事会社よりスケルトンに近い状態で引き渡してもらい、出来るところは自分達でやると決め、友人にも手伝ってもらいながら壁塗りに明け暮れる毎日でした。仕事の合間を縫って行う作業も早2ヶ月、多少飽きてしまってちょっと逃げ出したい気持ちと、がんばった自分達へのもご褒美を兼ねて2.3日旅行をした。8年前の春のちょうど今ごろでしたが、旅行から帰り家の中に入ると、壁塗り工事中の居間の、その養生テープ越しの中庭が真っ赤に染まっていて、一瞬燃えているかと思うほどで、きれいというよりかもむしろ「怖い」という感覚さえありました。
「猩々」を辞書などひいてみると、舟幽霊だったり、精霊だったりにたとえられてるとかいてある。あながち「怖い」という感覚は外れていないんだなと思った。ついお酒を飲みたくなる気持ちも・・・である。

それから8年間、我家の春を色で表現するとすればこの赤もそのひとつだと思う。

先日、ある方とお話していて、気が付いた事があった。それぞれの人・それぞれの家庭にそれぞれの「歳時記」があるんじゃないかという事だ。それが色だったり、香りだったり、音だったり・・・そんなものを身近に探してみたい。このブログを書いてみようと思うきっかけになった。

この樹の話に戻り、「猩猩」の語源は中国の伝説上の動物。またそれを題材にした各種の芸能における演目。さらにそこから転じて、大酒家や赤いものを指すこともある。「猩猩」は日本人の生活文化に深く根を降ろしている。その関連語彙は、同じく古くから親しまれた「河童」以上かも知れないといわれる。『広辞苑(岩波書店)』には、「人に似て体は狗の如く、声は小児の如く、毛長く、その毛色は朱紅色で、面貌は人に類し、よく人語を解し、酒を好む」とある

赤褐色は猩猩の血で染めた色と言われ、「猩々緋」と呼ばれた。赤褐色の葉や花を持つ「猩々木」「猩々草」、鮮血色の美しい「猩々蝦」などの派生語がある。更に、酒や甘味に群がる習性のある蝿は「猩々蝿」と名付けられ、酒豪の人を赤ら顔にたとえて「猩々」と呼ぶ風習もある。他にも赤みの強い色彩を持つ生物には、しばしばショウジョウ……の名が付されることがある。

『ウィキペディア(Wikipedia)』他

猩猩紅葉(ショウジョウモミジ)
カエデの園芸種オオモミジ系。成長が早く、繁殖も容易。


小川エリアの紹介と朱鷺草

2009-04-22 18:47:47 | 
(09/03/29 小川エリア)
リビングから見る小川です。いつもの視点よりかなり寄って撮影しました。画面中央よりちょっと左上に3本ちょこっと芽を出したのが「大輪朱鷺草(タイリントキソウ)」です。小川のほとりに生息しております。冬の間は露出した球根状態で、表面はしわしわ。本当に生きてるのかな~という心配をよそに毎年新芽が顔を出してくれます。今年で6年目になります。園芸書などには霜に弱いと書いてあったりしますが、我家の場合は特に冬の寒さ対策はしません。また本当は日本の在来品種が好きなのですが、園芸ショップではなかなか「朱鷺草」を見かけません。

(09/03/29上写真の拡大)


(09/04/10 今年も咲いてくれました。)

そしてなにより難しいと思っているのが手前の苔です。根付いてくれるまでなんと時間のかかることやら。苔についてはまた後日詳しく説明します。

大輪朱鷺草 別名:タイワントキソウ
        科名: ラン科  (多年草)
        原産地:中国、台湾

大輪トキ草の仲間は、中国を中心に台湾からネパールまでの湿度の高い山地の岩場などに自生。15種位の仲間がありますが日本には自生していません。
現在、日本で生産されているほとんどは台湾産の大輪トキ草、もしくはその改良品種ですが、性質が強健で日本の気候にも十分対応するものが出来ているそうです。