ジュリスト No.1126
山本敬三著(京都大学教授) 『基本法としての民法』
要約
基本法としての民法
人間の権利を、人間相互の関係、言い換えれば社会においてどのように保護し、その限界をどう画するかを定めた基本法が民法である。その意味で、憲法が国家の基本法だとすれば、民法は社会の基本法と見ることができる。
憲法システムにおける民法の役割として少なくとも3つの任務をあげることができる。
①憲法によって保障された基本権の内容を具体化すること。国家の介入が禁止されていても、何が基本権として保障されるかが特定される必要がある。市民相互間で問題となる状況に即して具体化し、その内容を特定することである。
②基本権を他人による不法行為の侵害から保護するための制度を用意すること。物権的請求権を認めるというのもこの意味で理解することができる。
③国家による自由をよりよく実現できるよう、支援するための制度である。契約制度自体が、この意味での基本権支援制度として位置付けられる。たとえば、自分の生活空間を自分で自由に形成するために、他人の同意を得ることによって可能にすることが契約制度に他ならない。
民法の独自性
個々の概念を構成していくためには、その前提として全体の枠組みを構成する必要がある。特に、私法において、基本的な概念枠組みを構成する役割を担っているが民法である。民法総則は、民法のその他の部分他、広く法一般について権利を語るための基本構成を提供しているといえる。そのほか、物権や債権については、権利の発生・変更・消滅が規定され、さらに物権については、その内容に即して所有権・用益物権・担保物権などの下位類型が、債権については、その発生原因に即して契約・事務管理・不当利得・不法行為といった下位類型が形成されている。契約については、まず成立・効力・解消という三段階に分けて問題が構成され、さらにその内容に即して下位類型、典型契約類型が形成されている。契約における経済取引の仕組みは、「物、金銭、労働という価値の交換または移転」として捉えられる。
さらに基本権の保障体制をどのような原理にもとづいて形成するかということに関しては権利能力平等の原則、所有権絶対の原則、私的自治の原則があげられる。