高任和夫著『起業前夜 上』『起業前夜 下』
講談社文庫
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バブル崩壊からグローバル化のなみ、そして金融ビックバン。
証券会社で働く主人公猪狩は、数十の企業を上場させた公開引受部のやり手の公開請負人。だが主幹事の座を得るために、上司の命令によって、思わぬ形で公開準備のために飲食店を経営する企業へ出向することになる。
時代に翻弄された(を翻弄した??)金融業界の中で正義を貫くことの難しさ。だが、貫くことによって得られる充実感。
思わぬ形の出向に最初は戸惑うも、通称黒豹と呼ばれる辣腕経営者と出会うことで、主人公の中で新たな価値観が醸成されていく。
一方で、金融全体を揺るがすことになる利益供与、業界全体に蔓延する飛ばし。隠れ債務の驚愕な金額が徐々に明らかになっても、何一つ手を打てない経営陣。主人公は、美人のキャリアウーマンと策定した会社再建計画をもって上司を飛び越え、会長に面と向かって直訴する・・・・。
猪狩軍団と業界からも恐れられた公開引受部の同士たちの魅力にもひきつけられる。
唯一、読後に寂しく感じられたのは主人公のプライベート、中でも特に冷たい家族。この家族像が現実として一般化可能だとしたら家族っていったいなんだろう。