ある会社の社長が好きだということを知りました。
三谷宏治著『戦略読書』でも取り上げられていました。
読み進めていくと、脳内で、漫画家の井上雄彦氏著『バカボンド 36』(原作は吉川英治氏『宮本武蔵』)
にも繋がっていきます。
土と種籾(たねもみ)です。武蔵が武力で人を動かすことからさらなる高みへと
抜け出し、村人たちを救うために、特にある子供との出会いがあり、飢餓から救うためにと
コメを作ろうと、土の耕(たがやし)からはじめる。
武蔵は、お爺さんに種籾を分けてくれと頼む、
しかしお爺さんは「耳を澄ませて聞いてみぃ」
「種籾がいきたくないといっているよ、おめえさんのところには」
といいます。また土の声をきけと、武蔵にお爺さんは、言う。
この時の頑固おじいさんは、この本の西岡常一の祖父常吉の教えとそっくりです。
宮大工の祖父西岡常吉に育てられた。父も宮大工だったそうですが、父は養子で、
祖父から父も大工のことを教わってはいたが、既にそれを始める時点で、ほかの弟子たち
と10年ほどの差があったそうだから、その差は容易には埋められず苦労したという記述があります。
で、祖父常吉は孫に常一と名付けた。
そして4歳の時から仕込まれていたようです。最初はただ、仕事場に連れていかれ、見てなさい、と。
この頃は祖父は常一に対して、優しかったといいます。
小学校に入ると、夏休みには必ず仕事場に連れられたそう。
小学校卒業間近に、夜、父と祖父の口喧嘩が、聞こえてきたそうです。
婿養子で25歳で農家からきてくそうしたこともあってか、父と祖父
父:「これからの大工は工業学校へ行って、図面を書く勉強をしといたほうがええ」
祖父:「人間も木も草も、みんな土から育つんや。宮大工はまずは土のことを学んで、土をよく知らんといかん。土を知ってはじめて、そこから育った木のことがわかるのや」。
で、常一は農学校へ行く。
農学校の校長は上武豊太郎といったそうですが
「君たちは、農業経済学というものを習うてるやろ。そこには『最少の労力をもって、最大の結果を得る』それが原則や、とかいている。しかし・・・・。」といい、
「我々、日本の”農人”はそうであってはならない。自分の一人の働きで、何人の人を養えるか。これが根本や」
農の基本は金もうけや効率ではないという。さらに「しかし、試験のときは、こういうことを書くな。零点になるから」
常一は、農人はそうあるべきだと、感じ入ったといいます。東京帝大を出ていたそうですが、そんなことをいうひとだから役所勤めはだめ、田舎へ放り出されてこの学校へ来たという。
堂々とした先生で、【背骨を入れられた】と著者は表現しています。
農学校では肥料や量は、書かれたものをもらえたが、実習ではタイミングなどは任せられ、出来具合で評価されたそう。
【教育】
卒業してもまずは、一年期間限定で農業をやれと祖父はいう。貸していた土地一反半を当たえられて三石収穫。
学校で学んだことと本を見ながら育てていったという。
結果、一反で三石五斗取れるといわれ、一反半なら四石五斗取れないとおかしい。
どう思う?と厳しい突っ込み。
「おまえは稲を作るのに稲と話さずに本と話し合いをしていた。稲と話ができるものは窒素・リン酸は知らなくても水をほしがっている、今こういう肥料をほしがっているとわかるという」
祖父は、大工の教えからはじめるのではなく、土から学べといい、次に木と話せという。木と話し合いができなんだら、本当の大工にはなれんぞと農業大学に行かせて、実地で農業させた後にこの話。土台に数年かけて本人に意味を気づかせた。まさにすげ~の一言である。大工→木→土、そのために農。
良い建物をつくるには、木を知れ、木と話すには、土を知れ、そういうことだ。これを聞いて、常一氏も、「農業とはえらいもんや」と実感したそうです。
なんと遠回りかと思う反面、物事の通りに沿って考えるとこれ以上なく、正しいと思います。それから、行儀作法は最初にみっちり教えられたそうです。法隆寺には、偉い人も含めていろいろな各地から見に来るから。
これは自分が以前、営業の話し方の研修の際「言葉の前に心あり、 言葉の後に行動あり」と先生から言われた、この名言が思い出されます。この礼儀作法とは、心構えのことでしょう。
この本、面白いです。私も【背骨を入れられました】。。。
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著者名:西岡常一
書名:宮大工棟梁・西岡常一「口伝」の重み
出版年:2008年9月第一冊 (単行本2005年4月日本経済新聞社刊)
出版社:日経ビジネス人文庫(日本経済新聞出版社)
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著者名:井上雄彦
書名:バカボンド36(原作:吉川英治『宮本武蔵』)
出版年:2013年10月 第一冊
出版社:モーニング 講談社
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