腹の立つ気持ちを抑えながら地元の市民病院を訪ねる。あらかじめ電話でお願いをしていたためか治療はスムーズだった。刺された所がさほど腫れていないことに多少驚きながらもお医者さんはリドカインで局部麻酔した後リンデロンというお定まりの抗炎症と抗菌の塗り薬を塗ってくれた。あとは同じような作用の飲み薬を3日分くれただけ。そして、最後に「今年はスズメバチに刺された患者さんが6人も来た。うち3人はアナフィラキシーショックを起こしていたよ。」と話してくれた。
この荒くれどもにはやはり退去願わなくては。ということでそれから2日後の休日、以前観測デッキ内のスズメバチを退治してくれた会社に電話をした。すると担当の男性が、今日はそちらの方面に出掛ける用事が有るので午後には行けると言う。この会社は実はスズメバチ駆除の専門会社ではない。殺虫剤の卸会社だ。男性はこの会社の経理担当。ただシーズンには頼まれて、会社の薬剤を持って駆除に回っているという。
午後2時過ぎには丘に上がってくれて作業が始まった。
巣の直径はおよそ25センチ。バスケットボールほどもある。あまりにきれいな形なので、壊さずにそっと取り外すという言う。防護服の男性はまず巣の周辺に殺虫剤を噴霧した後、粘着板を使って周囲を飛ぶ蜂をくっつけていった。この粘着板には誘引剤も含まれているそうだ。板に貼り付いた蜂を見せてもらうと、巣の持ち主のヒメスズメバチのほかに体長4センチを超えるオオスズメバチも混じっていた。ヒメスズメバチの巣をオオスズメバチが乗っ取ろうとやって来たのかも知れないと男性は話す。恐ろしい奴ら。
何を言うか。乗っ取られたのはこちらの方だ。全員退去。巣の方は戦利品として頂戴する事にした。
巣がここまで大きくなるためには何か月も掛かるそうだ。長い間来られなかったのですか、と聞かれる。確かに観測デッキを開いたのは久しぶりだが、1階の増築部分には時折工事に来ていた。全く気付いていない。「これからは来られた時に、まず建物の周囲を注意深く観察してから中に入ってください。」と言い残して男性は帰って行った。戦利品の巣は持ち帰って岡山の家の裏に袋に入れて吊るしてある。中のさなぎや幼虫に殺虫剤は効かないし、殺虫剤自体も3日ほどで効力が無くなるようになっている。だからこのまま袋に入れておけばそのうち飢え死にするという。一か月ほど経ったら袋から出して、展示でもしようか。いや、それよりも出来るだけ早く観測デッキを復活させて星を撮らなくては。