このところ職場でも良く聞かれる。「夜に良く見えるあの星は何ですか。」
この夏以降、日が暮れると最初に輝きだす星、木星。イタリアの天文学者ガリレオ・ガリレイが手製の望遠鏡をこの星に向け、その周囲にある4つの衛星を発見した話はあまりにも有名だ。彼は衛星が木星を回る様を観察して地動説を確信した。それを公けにしたために宗教裁判に掛けられる。「それでも地球は回っている。」とつぶやいた逸話はウソらしい。もし本当なら彼は生きてはいられなかっただろう。
その木星と4人の子供たちをこの丘で写したいという気持ちは7月頃からずっと持っていた。忙しくてなかなか丘に上がれなかったけれども、シルバーウィークに至ってようやくそれが実現した。
撮影機材はガイド鏡として赤道儀に取り付けた口径8センチの屈折望遠鏡。それに5ミリのアイピースを取り付けて、カメラの前で拡大する撮り方を選んだ。もちろん、明るさの違う木星本体と衛星は別に撮って後から精密合成する。
出来上がった写真。多分、望遠鏡でのぞいた時そのままの光景だ。
今年のシルバーウィークは長い。土曜日を入れると5連休にもなる。その中日とも言える21日月曜日、午後も随分回ってからみかんの丘に上がった。
しばらくおばさんと話をした後竹取庵の屋根を開ける。今夜の目的は、撮影用に買った機材のチェックだ。モーターのうるさい音とともに次第に広がっていく秋の空。夕焼けが終わろうとしていた。ふと見ると山の端に細い月が掛かっている。月齢2.6。この値は正午のものだから、今の月齢は2.9となる。三日月だ。
そう言えば「三日月眉」と言う言葉がある。もちろんこんな形の眉は実際には無い。ただ、三日月の均整の取れた形を眺めていると、この言葉が実際の眉の形そのものを表わしているのではなく、細くて美しい眉の象徴として使われているのだと思えてくる。
それにしても夕日に映えて金色に輝く三日月は殊の外美しい。今夜のテスト撮影がうまく行きそうな気がした。
北極星を示す星座として名高いカシオペアと、夏の流星群で知られる星座ペルセウスの間に、肉眼でもはっきりと見える星の固まりがある。ペルセウス座の二重星団。星仲間の間では「エイチ・カイ」とも呼ばれるが、僕はこの呼び方は好きじゃない。
美貌を吹聴したために神の怒りを買い、海岸の岩場に繋がれたアンドロメダ姫。このエチオピアの王女を救ったのがペルセウスだ。ペルセウスはその功でアンドロメダを妻に娶る。ギリシャ神話に記載は無いが、二重星団は二人の間に生まれた双子だと僕は思う。カシオペアはアンドロメダの母親だ。ペルセウスはきっと、生まれたばかりの双子をカシオペアに見せに行く途中なのだ。ペルセウスの後ろには妻アンドロメダが寄り添っている。
その証拠にこの二重星団を造る星達はみんな若い。青みを帯びた星の色が分かるだろうか。
写真は20センチニュートン反射、カメラ感度3200(キャノン5DmarkⅡ)、露出3分
それから田舎道を辿って50分。街ではチラホラとしか見えなかった星もここに来ると降るようだ。屋根を開けると目の前に木星が見える。今日はかぐや姫でこれを見よう。そして写真を撮ろう。そう思って筒を振り、カメラを取り付けた。しかし…
光軸がずれている。なぜずれたか分からないが、星の像がシャープでない。あきらめて隣の赤道儀に載っている20センチにカメラを付け替えた。この望遠鏡は視野が広い。その代わり惑星の撮影には不向きだ。では何にしよう。空を見回していると頭の上におぼろな光が見えた。M31、アンドロメダ星雲。
ありきたりかな、そう思いながらも筒を振り、モーターに灯を入れる。カメラ感度3200、露出5分。コンポジット無しで写したお隣の銀河。20センチならこれが僕の限界かな、そう思った。