夕方一度晴れの区域が広がった後は、まるで渚に波が打ち寄せるように縦じまの雲が次々に丘の上を通過していった。本来なら星の撮れる空じゃない。それでも久々の観測デッキの居心地は悪くなかった。思わぬ寒さに毛糸のジャケットを羽織ると、季節が中秋から晩秋に移っていくのが肌で判る。時とともに丘の周辺でオス鹿のメスを呼ぶ声がし始めた。
今日用意してきたのは上の写真を写したCANONのコンデジG7Xだけではない。赤外線改造したEOSkiss X6i の実力も試したかった。このカメラは半月ほど前に手に入れたのだが、なかなか星空で試す機会が無かったのだ。それだけに初めは星雲を撮ろうと思ったのだが、狙っている最中に雲が現れてピントを合わす事がままならず断念。望遠鏡での直焦点撮影を諦めて、白鳥座のデネブ付近を望遠レンズで狙う事にした。それでも3分足らずの露出の間に雲が押し寄せる。なんとか写せたのが下の写真だ。これでも画面右側に雲が迫っている。
デネブの辺りを狙ったのには訳が有る。ちょうど2年前、小さいほうのカメラEOSkiss X4でこの辺りを撮っていた。それが下の写真だ。
この時は空に恵まれてシャッターも8分近く開くことが出来た。それに比べると今夜の空は透明度が悪い。雲に阻まれるだけでなく、3分も露出すると画面が白くなってしまう。ただそうした悪条件の中で赤外線新改造と呼ばれるX6i-IRはかなり頑張ってくれた。
これなら透明度の良い冬の空で懸案だった天体を色々撮る事が出来そうだ。
それにしても今夜はっきりしたのは、長い間機材を放置していた為にあちこちが傷んでいたこと。そして何よりも僕自身が体で憶えていたはずの撮影手順をすっかり忘れていた事だ。これではあまりにも悲しい。観測デッキの掃除に加えて、僕自身も含めたメンテナンスが必要だ。