宇宙(そら)に続く丘

プレリュード小学校1年C組のしりとりちーが案内する宇宙への道
みかんの丘は不思議へ通じるワームホール

招かれざる客

2008年11月29日 05時22分17秒 | Weblog
みかんの丘にまた香りの季節がやって来た。竹取庵の周りが甘酸っぱさで満たされる。
おじさんとおばさんのみかん畑は、あまり農薬を使わない。だから時々嬉しくない生き物が現れる。コガネムシの仲間、ハナムグリもその一人。せっかく咲いたみかんの花の中にもぐりこんで花粉を食べる。花粉だけならいいが、白くて美しい花びらまで食べ散らかす。後には汚く散った花びらの残骸と黒い食害の跡が残る。全く招かれざる晩餐客だ。

うまいのだろうか。白くて厚みのある花びらを一枚もらってかじってみた。少し苦くて甘くてみかんの香りがした。
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無窮の針

2008年11月27日 00時32分18秒 | Weblog
地平に沈むことなく北を指し続ける星「北極星」
この星は人類の歴史が始まって以来、海で陸で多くの旅人を導き、ある時は死地からの生還をも助けてきた。星座は北極星を軸として、地上の時計とは反対の左回りに回る時計。その長針は「おおぐま」、短針は「こぐま」。休むことなく永遠に回り続けるこの二つの星座に、人は「無窮の針」の名を与えた。

竹取庵のペディスタルから見た無窮の針は、その台形の上底の遥か彼方にあった。
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複雑な形

2008年11月25日 00時06分58秒 | Weblog
竹取庵はもちろん普通の建物ではない。一番大切なものは地面から伸びている2本のペディスタル、望遠鏡の土台だ。建物の全ての構造は、この土台を護り、その上に載る望遠鏡を雨風から遠ざけるために作られる。

と書けば格好はいいが、これほど複雑になるとは作り始めたときには思いも付かなかった。最初の設計ではもっと簡単だったのだが、観測フロアであれもしようこれもしようと思い描くたびに桁は頑丈になって行った。
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月夜の丘の竹取庵

2008年11月20日 23時28分55秒 | Weblog
二階観測フロアの桁がかなり組めた頃の事だ。その日の工事を終わって外に出ると、月が煌々と辺りを照らしていた。青い月夜と言うが、月の光が青いと思ったことは一度も無い。昔は青かったのかもしれないが、空気が汚れてしまった今では、月は中天でも黄色く輝く。その明かりが、さっき組んだばかりの桁や丘の木々を照らしていた。
見上げてみるとなぜか、月は丸い紙を貼り付けたように平面に見えた。かぐや姫の故郷がそこにある。

僕はその時、手塩にかけてくみ上げた望遠鏡「かぐや姫」のお城を「竹取庵」と名づける事に決めた。翁(おきな)はおじさん、媼(おうな)はおばさん。
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観測フロアの桁

2008年11月18日 10時41分35秒 | Weblog
台風の混乱から2週間、倒れた杉の木の始末や痛んだ箇所の修理をようやく終わり、天文台の建設工事を再開した。壁を先に作れば風をはらんでしまう。そこで先に二階観測フロアの桁を組んで強度を上げることにした。北から見るとわずかだがデッキの位置がわかる。あそこで星を見るのかと思うと夢が膨らむ。
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風の通り道

2008年11月16日 22時31分44秒 | Weblog
次の週末、倒れた杉の木を片付けに行った。その時みかんの丘の周辺を見て回って驚いた。海側から丘のてっぺんに向けてたくさんの木立が倒れている。それも幅3メートルの帯状にだ。突風がどこをどう通って行ったのか、一目瞭然だった。
自然の力は恐ろしい。何十年も根付いていた樹木を難なく根こぞぎ倒していく。この力を見せ付けられ、天文台の屋根の設計変更を余儀なくされた。

ところで、天文台に倒れ掛かった杉の木をやんわりと受け止め、被害を防いでくれたのは1本のみかんの木だった。そのために折れてしまった枝を手当てして、わずかだが肥やしをやっておいた。感謝感謝!
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信じられない光景

2008年11月14日 13時59分34秒 | Weblog
次の日、仕事の合間を見てみかんの丘に上がった。そこで目に入ったものは、俄かには信じられない光景だった。天文台のすぐ東にある杉の木が根こそぎ倒れている。それがばっさりと天文台を覆っているではないか。昨日の夜見たものはその杉の茂みだった。
あわててあちこち調べてみたが、不思議なことに天文台の構造そのものには何の被害も無かった。一面に張り出していた枝がクッションになって、やんわりと倒れ掛かったようだ。おじさんは片付けにしばらく掛かると言っていたが、次の週末ですっかり片が付いた。
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真夜中の電話

2008年11月13日 10時36分37秒 | Weblog
その日は夕方から強い風が吹いていた。大型台風が二つも同時に接近している。職場の窓を時折激しい突風がたたいていた。みかんの丘は風が強い。大丈夫だろうかと思いながら家に帰った。空は大荒れに荒れていた。
その夜中、10時を回った頃だろうか。おじさんから電話が掛かってきた。みかんの丘の様子がおかしい。見に行きたいが危険で行けないと言う。どうかそのままでと電話を切ったものの気になる。作業着に着替えて片道1時間近い嵐の道を車で飛ばした。
現場について驚いた。大きな杉の枝が天文台を覆っている。何がなんだか分からない。その頃には風も大方やんでいたので次の日の昼間に改めて来る事に。
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晴れた日

2008年11月11日 17時22分37秒 | Weblog
仕事が忙しくてなかなか作業が進まないうちに半年が過ぎていた。
この間、それでもかぐや姫のぺディスタルが頂上まで築き上がり、一階の仮の床も少し張れた。早くから組み上げていた場所は雨風で汚れてはいたが、元々雨ざらしを想定していたため防腐処置をしておりそれほどの痛みはない。
天気のいい日に眺めると、天文台というよりは中世の砦のようだ。

この数日後、中央のひときわ高い杉の木に災難が降りかかるとは、この時もちろん予想もしていなかった。
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初めての望遠鏡

2008年11月09日 10時32分07秒 | Weblog
テラスの真ん中の鉄骨にコンクリートを詰めた。鉄パイプだけでは小刻みな振動が止まらないからだ。その上に塩ビパイプを加工した架台を取り付ける。そこに口径6センチのアクロマート屈折を載せた。
野ざらし覚悟のため安物ではあるが、天文台初めての望遠鏡だ。接眼部には45度の正立プリズムに加えて25ミリのケルナーを奢った。安物とは言え対物レンズも国産の、そこそこ精度の良い物だ。夕方、西の空の金星と頭の上の木星を見た。満足。
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テラスを作る

2008年11月08日 11時07分32秒 | Weblog
ある日おじさんが小型の運搬車を押してやって来た。荷台に大きなソファーが載っている。どうしたのかと尋ねたら、ここに休憩場所を作ろうと言う。休憩なら天文台ですればいいと言うと、農作業の途中の休憩だから中に入ると汚れる、外がいい。電柱もまだ残りがあるからと笑顔だ。
時間も予算も限られた中での天文台建設だったが、ここはおじさんの夢の場所でもある。分かりましたと答えて半年後、ようやくテラスの形が出来た。その間ソファーは野ざらしで置かれていたが、僕が作業している脇でおじさんはよくそこに座り、世間話をしながらタバコを吸っていた。

テラスの真ん中には会社の人からもらった鉄骨が立ててある。その上に小さな望遠鏡を常設し、おじさんやおばさんに景色を見てもらうためだ。
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床を作る

2008年11月06日 10時27分25秒 | Weblog
かぐや姫のぺディスタルの外側にはコンクリートで張り出し部分が作ってある。そこに桁をかけて床を支えることになる。かなりの急傾斜になっているこの場所で周囲の柱にあまり負担を掛けないでおこうという構造。
柱にほぞ穴を開け、桁を差し込んでいく。桁が出来れば体が地面から離れる。少しえらくなったような気がした。
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僕らを生み出した星達

2008年11月01日 01時16分15秒 | Weblog
宇宙が生まれてしばらく経ってようやくもやが晴れた時、そこにはまだ水素とわずかばかりのヘリウムしかなかったという。地球や土星のようなバラエティーに富んだ惑星が生まれるまでには、恒星の誕生と死が何度も何度も繰り返されなければならなかった。
そうして、空間に散らばった星の亡骸とも言うべき重い元素が、何かの弾みで集まり渦巻いて惑星系が出来上がる。オリオン大星雲の名で知られるM42は、今まさにそうした惑星系が出来ようとしている場面かも知れない。

道を歩いてふと思う。踏みしめている足元も、自分自身も、みんな星の生と死の産物。僕らを生み出すために、宇宙は150億年もの年月をかけ、数え切れないくらいの星を犠牲にしてきたのか。
もしそうならその期待には応えられない。僕らはまだあまりにも未熟だ。
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