山あいの公民館に今年も何組かの家族連れが集まった。ほうき星や新星の探索家として知られる本田実さんが晩年観測所を置いたこの場所で天文教室を始めたのは1997年のことだ。初めは夜の観望会だけだったが、天気が悪いと空振りに終わってしまう。そこでいつの頃からか、昼間に天文工作をして夜晴れたら観望会をする事になった。工作もミニ望遠鏡から始まって今では惑星儀が定番になっている。
発泡スチロールの球に、合成ゴム系のシートに印刷した惑星表面の画像を貼り付けていく。この画像はNASAの画像を元に、僕が家のパソコンで作ったものだ。天文教育が目的で、かつ利益を求めない。その上で元画像の出典元を明記する。そうすればNASAの画像が使えるという話を聞いた事でこの作業が実現した。
工作には子供だけでなく、かなりご高齢の方も参加して下さる。今までに火星、地球、月、土星の4種類を作ってきた。今年は木星だ。NASAから探査機の撮影画像として発表される写真はみんな鮮やかで赤みが強い。しかし地上から望遠鏡で見た木星はもっと穏やかで地味なものだ。見た目の通り。このコンセプトに従って、僕が笹の葉と呼んでいる惑星画像は比較的おとなしいものになった。
いつものことだが、女の子たちはきちんと丁寧に作っていく。男の子は途中で飽きて作成途中の惑星儀でボール遊びを始める。笹の葉の切り方も貼り方もいい加減だ。それでも1時間半もすれば出来の良し悪しは別として全員がソフトボールより少し大きい惑星を手にする事が出来る。その嬉しそうな顔を見ると、忙しい中で画像処理をした大変さを今年も忘れることが出来た。ただ気になるのは、毎年少しずつ子供の数が減ってゆく。ここで星を教えた子供たちも、進学期を迎えると地区から出て行ってしまった。
日が暮れると公民館前に並べた観測器具で観望会が始まった。いつもなら星仲間が望遠鏡を持ち寄るのだが、今年は日程が合わなくて僕一人だ。28センチシュミットカセグレンと10センチの双眼鏡が出番を迎える。観望の対象は月齢9辺りの月と、輪がいっぱいに開いた土星。工作教室には姿を見せなかった地区の人たちも現れて、楽しんでくれた。
二つの機器に星を導入しながら解説をしてゆく。記録としてこの一枚を手持ちで撮影するのがやっとだった。特に今年は、28センチの望遠鏡に携帯やスマホを近づけての月面撮影が人気。みんなには喜んでもらったものの、僕自身が一枚も撮っていなかった事に気付いたのは、午後9時半を回って帰路に就いた車の中だった。