雲は東から西に流れていた。時計の針も11時近くを指している。帰らなければ。でも、観測デッキは月明りで足元がはっきり見えるほど明るい。もう少し居たら。月の神がそうささやいているようだ。
観測デッキ。竹取庵の屋根が出来たときここをそう名付けた。それから3年。ここは僕にとって特別な場所ではなく、居て当たり前のスペースになるはずだった。なのに、今年に入って特に、忙しくてなかなか来ることが出来ない。そう。「ここに来る」と言っている間は、竹取庵はまだ身近とは言えないのかも知れない。「丘に帰る。」「デッキに戻る」そう言って良い日はいつになるのだろうか。そんなことをぼんやりと考えながらこの光景に見とれていた。