小惑星はおおぐま座の方向に向かいながら少しずつ光度を落としていった。僕は追尾を止めてデッキの星空を堪能することにした。これほど透明度の高い星空は久々だ。先週来た時は赤茶けた靄に覆われていたが、今は空気が透き通っていた。南の空にさそり座が昇っている。その上にはへびつかい座が、長い蛇を手に足を踏ん張っている。夏の天の川もそろそろ身を起こそうとしていた。午前5時半。こんな時刻にみかんの丘に居るのは本当に久しぶりだ。「夜通し起きていると1年の3分の2の星座を眺める事ができます。」そんな子供向けの解説書の一文を思い出した。目を天の川の上流にやると、そこには織り姫も彦星もいる。
穏やかに見えるこの星空に潜む脅威。直径50メートルの星屑など、太陽系には無数に有る。しかもその太陽系が天の川銀河を回っていれば、たくさんのはぐれた塵にも出会う。大きいものは近づいて来るのが見えるが、小さければ観測網にも掛からない。その一つが15日にロシアに落ちた隕石だった。
夜が白々と明けてくる。観測デッキのテーブルの上に置いたレンズキャップに霜が降りていた。寒いのかな。それなりに着込んでいるうえに風が無いのでそれ程にも思わなかったが、きっと冷えているのだろう。このまま日の出を迎えようとも思ったが、睡魔が隣りで笑っている。撮った写真の画像処理もしなくては。明るくなったデッキを片づけて竹取庵の屋根を閉めた。