少辛が去って、白浅は夜華親子について庭の入口まで行く。
この時には、夜華は白浅が方向を失っていたと確信している
と思われます。
今でも 方向音痴なのだと思うと 可愛くて仕方がない夜華。
まだ 素素が全く記憶を失っているとは思っていません。
でも 目を取った自分をきっと許していないかも、
と 恐れもあります。
夜華は頭の中で 忙しく白浅の心をあれこれ推し測っている
何と言っても、夜華は頭が良い切れ者なのですから。
白浅は庭の入口に着くと 親子に別れを告げる。
団子にぐずられて、明日にはきっと合流するから
と言い訳をした。
夜華は横で笑った。「もしや 浅浅は私たち親子と祝宴に
出ることで、何か言われるのを気にしているのでは」
(浅浅呼ばわりに 歯が浮く白浅)
ほほほと笑って言う「夜華君の考え過ぎですよ」
・・・彼の笑みは ますます深くなり、
この時の風貌は往年の墨淵の姿に何割か似ていた・・・
・・・私はその笑顔にしばらく気を取られていた。
気がついた時には 彼が私の手を引いて言った。
「浅浅も知っていたのですね、私たちはとっくに婚約
しているのですから 確かに何も気兼ねする必要は
ないですね。」
彼の両手は長く 美しい。何気なく私の左手を取り
悠然とした表情で 自然な動きであった。
この時の動作 表情は 先ほど私の包帯を取った冷淡な
人と まるで 別人のようだ。・・・
白浅は考える。普通の婚約者どうしなら自然な流れだろう
でも、自分が九万年生きてきた頃に
ようやく生まれた彼の事を考えると
そうそう婚約者としてそのように振る舞えるほど厚顔ではない。
白浅は いきなり手を引っ込めても 年甲斐もないと考えた。
再三考えて・・・・
・・・私は右手を上げて彼の髪に触れ、意味深長に感歎して言う
「思えば 私と貴方の叔父が婚約した時、
貴方はまだこの世に生まれていなかった。あっという間に
こんなにも大きくなって、本当に年月の過ぎるのは
あまりにも早い。光陰矢の如し、時というものは
誠に悲しいものだ。」
彼は少し戸惑っていた。私はその流れで両手を取り返した。
もう一度彼に頷いてから、その場から立去ろうとした。
・・・ここで 東海水君が怒り心頭で登場する・・・
白浅は十里桃林の名を出して 白浅の名を隠し、
自分は桃林に長らく住む者で、折顔の仙使と偽る。
このセリフを聞いた夜華の顔・・・
・・・夜華は軽く私を一瞥した。その両目は
きらめき 明るかった・・・
夕べ 桃林で 自分に術をかけて誘惑した仙女は
やはり・・・白浅に間違いない。
もしや 素素としての記憶があるから
あのような行動に出たのではないか ・・・と
夜華 期待してしまったのでは?
白浅が上手に自分をはぐらかしていると思った夜華。
今だって 水君に大嘘をついている。
自分も負けじと 夜華流の心理戦に突入します。
水君に 宴参加を辞する白浅に夜華は言う。
(しっかり白浅の手を握って)
「たかがお酒じゃないか。仙使は他人行儀過ぎますね」
しっかり握った右手を指して、水君に釈明する。
「本当は小仙は女装している男です。」
白浅は大汗をかき
東海水君は口をあんぐりとあけて二人を見た・・・