蕃神義雄 部族民通信

レヴィストロース著作悲しき熱帯、神話学4部作を紹介している。

精神分析現象学ゲシュタルト 3

2022年05月20日 | 小説
(2022年5月20日)Merleau-Pontyの現象学を否定するラカン要点をまとめる;
1 現象学はゲシュタルト(形態は内蔵される物の集体。それ自体が主体であり、必ず「良い形」を表現する)の流れをくむ
2 形態(=自然)を知覚するperceptionなる機能は単なる思いこみ(saisie)であって、自然と人意識を結びつける能はそれには備わらない
3 人が世界を自身(精神)に再構築する作業は積み重ねであって、現象学が論ずるかの「瞬時の直感」ではない。
上の3点にまとまるかと思う。ラカン論難3点の根拠を探ろう。
それはまずはMerleau-Pontyの思考を浮き彫りにして後に上記の3点と対比させる。Merleau-Pontyがこの講演、おそらくCollège de France講堂で何を語ったかを見極めるところから出発する。何が語られたのか。
現象学とは;
Science d’apparaitre, déterminer la structure du phénomène:現れる様を解明する、現象の機構を特定する(Puf哲学辞典)。Merleau-Pontyが主唱するそれは知覚の現象学(Phénoménologie de perception)とされる。その思想は;
<Pour marquer à la fois l’intimité des objets et la pensée en eux de structures solides qui les distinguent des apparences, on les appellera des « phénomènes » et la philosophie devient phénoménologie, c’est-à-dire un inventaire de la conscience comme milieu de l’univers ( 著作Phénoménologie de perceptionから)思考とその対象の親密性とその構造の緻密さに着目し、外観の差異をもって対象を分別する。それが現象であり、その学を現象学という。目的は宇宙を場(milieu)として認識するのである。
かいつまんで;人は全宇宙を見渡せない、目の前の光景を場として、それを認識するに構成要素の外観を持ってする―と部族民は理解する。ちなみに現象学の濫觴はフッサールにあるとされる。フランスにおいてはMerleau-Ponty以外にサルトルなどが影響を受けたとされる。本セミナーに参加しているHyppoliteはヘーゲル現象学の権威でもある(と聞いた)。「外界と人の作用」解釈おいて多くがそれぞれ独自の仕組みを開陳している(らしい)。ちなみにフッサールは現象を「学」として大成させてはいない。故に現象学の全域を俯瞰する要は感じないから、本投稿ではMerleau-Pontyの説のみを紹介する。
眼の前の光景をMilieuとしたが別の著作ではEspace(空間)と規定している。更に別作ではChamp(フィールド)も用いるなど用語の入れ替わりはあるが概念は同一なので、場とする。場はモノ(chose)で構成される。
この概念を基本として講演内容を探る。
彼の死(1961年5月)の後60年を経過し著作権が消えた。出版社ガリマールはネットに彼の主要作品を公開した。「Causerie1948年」を見つけこれをネタ本として採り上げる。この小論文は映画学校École de cinémaで若き映画人Cinéastesを前にしての講演の活字起こしである。ラカンらが聴講した講演と6年の隔たりはあるが、内容に差は無いとする。冒頭、

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ガリマール(出版社)の粋な図らいで彼の著作はネットで閲覧、コピーダウンできる。Causerieもネットから借用した。



<Si après avoir examiné l’espace, nous considérons les choses mêmes qui le remplissent, et nous interrogeons là-dessus un manuel classique psychologie, il nous dire que la chose est un système de qualités offertes aux différents sens réunies par un acte de synthèse intellectuelle> (Causerie Chapitre III les choses sensiblesから)
訳:場 « espace »を探究するとそれはモノ « chose » で充満していると気づく。心理学の教科書にそってモノとはなにかを追求する。それは色々な方向性を持つ特質(qualités)の集成であり、それらは知性の持つ統合力によってまとまる。
ここでモノと思想、主体客体、現象論とゲシュタルトについて数行を費やしたい。
前引用のPhénoménologie de perception にでは « la pensée en eux de structures solides »「それら(モノ)に潜む構造の思想」とモノが主体であるかに記述している。Causerieではモノが発する方向性を纏めるのが知性であるとするが、この意味は知性が主体となる。このあたりには表現の錯綜が認められるが、部族民はこれを意味論(ソシュール)の手法と照らし合わせ解釈したい。
犬なる動物がいるから「イヌ」と指差す。犬は実体で主体を持ち、言葉の「イヌ」は客体である。言語学(実学)であるからこの相関は許される。レヴィストロースはこの相関を逆に考えた。犬なる動物は自然に存在しない、それは人の頭にある。人が「知性の統合力」を発揮し、ワン吠え尻尾付きの4足動物を「イヌ」とした。意味論の主(signifié)客(signifiant)を構造主義が反転させた 。レヴィストロース解釈では主はsignifiant、それは思想である。
ではモノ « la pensée en eux de structures solides »と思想« synthèse intellectuelle »の関連をMerleau-Pontyはどのように捉えたか。部族民(蕃神)はレヴィストロース構造主義流として考えていたはずと思うが、ラカンはla pensée en…の文脈通りに捉えた。するとこれはゲシュタルトの傾向です(ラカン論難の根拠です)。
Causerieに戻る。
モノの特質には方向性(sens)が備わる。方向性の意味合いが不明だが次の文章に、
<Le citron est cette forme ovale…>レモンを引き合いに出し、それは両端に突起を持つ楕円錐の形状、黄色、手触りなどの特質を列挙する。
となると特質qualitéは色、形などの性状、付随するsensはそれらが外界に表出する刺激、見てくれと言える。現象学science d’apparaitreとは現れの科学とされる所以がここにある。レモンが外観として表出している各要素(形、色、手触り)などはそれ自体に伝えかけ(=affection)が備わり、人は黄色を見てレモンと気づくのだが、特質を個々に分離してそれらの伝えかけに反応するわけではない。
<Cette analyse nous laisse insatisfaits parce que nous ne voyons pas ce qui unit chacune de ces qualités ou propriétés aux autres et qu’il nous sembles cependant que le citron possède l’unité d’un être dont toutes les qualités ne sont que différentes manifestations>
訳:こうした分析(個別分離)には不満が残る。なぜならこれら特質ないし属性を集体するものが見えてこないからだ。レモンには存在物としての一体があって、それぞれの特質とは表示に過ぎないのだ。
<L’unité de la chose demeure mystérieuse tant qu’on considère ses différentes qualités ( sa couleur, sa saveur, par exemple) . La psychologie moderne a fait observer que chacune de ses qualités, loin d’être rigoureusement isolée, possède une signification affective qui la met en correspondance avec celles des autres sens>
訳:それら特質の差(レモンの色、香りなど)のみに拘泥する限り、存在の一体性は謎めいたままに残る。心理学の教科書にても指摘されているが、それら特質は孤立しているのではなく、一種の意味合いを伝える。それをしてその特質が他特質の意味合いと関連を持つ起因となる。
現象学がだんだんゲシュタルトに近づいている、気になる文脈だ。

精神分析現象学ゲシュタルト 3の了(2022年5月20日)次回は23日。
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