鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

唐花透図鐔 西垣勘平

2009-09-16 | 




 肥後金工には茶の美意識の示された作品が多いが、この鐔は古典的な文様に取材しながらも軽味の漂う洒落た感覚の、構成美に溢れた作。微細な石目地処理によって渋い光沢が現われた色黒い鉄地の耳には、ごく淡い層状の鍛え肌が覗える。十字架の如く天地左右に意匠した唐花と引両、その間隙を唐草で埋めて西洋的な風合いを印象付けている。西垣勘平(にしがきかんぺい)は初代勘四郎の子で正保頃の生まれ。この鐔は七十三歳の製作年齢が刻された、円熟味のある作である。

月に兎図鐔 在哉

2009-09-16 | 




 棚引く雲に顔を出した月、これを待つ草原の兎と独特の形の笹の葉が、切り口鋭い透かしによってふうっと浮かび上がる。上質の赤銅地(しゃくどうじ)を大振りの丸形に造り込み、表面を微細な石目地(いしめじ)に仕上げ、陰の透かしと毛彫(けぼり)のみにより洒落た風景を描き表わした、在哉(ありちか)の個性が溢れる作品。在哉は佐藤珍久の門人で、同門の安親(やすちか)の先輩格。優れた意匠感覚は影響を及ぼしたことであろう、安親にも陰の透かしを活かした同図の作がみられる。拵に装着した際の美観を考慮し、耳には金の平象嵌(ひらぞうがん)で唐草文を廻らせている。

文透図鐔 赤坂

2009-09-16 | 


 時代の上がる赤坂(あかさか)鐔の魅力は、後に粋と表現される風情を江戸初期にして既に備え、ねっとりとした鉄そのものの美観との調和が成されている点にある。この赤坂鐔がその典型で、丸い耳の内側を木瓜形に構成して四方に植物を陽に透かした構成。簡潔な図柄だが、垂直に切り施された透かしの切り口は出入り複雑で変化に満ち、素朴な毛彫が加えられて赤坂独特の風情を湛えている。さらには地鉄が見どころ。耳の周囲には流文状の筋鉄骨が色合い黒く光沢強くに浮かび上がって視界に飛び込んでくる。江戸の武士の密やかな洒脱を感じさせる銘鐔である。