加賀金工の作品をもう一つ紹介したい。写真は加賀国の伝統の一つである加賀万歳が描かれた鐔。製作は江戸時代中期の桑村克久(くわむらかつひさ)で、地方の風俗の記録としても貴重な資料である。加賀万歳は、前田利家公の治世と豊作を感謝した農民が奉納したことに始まる。加賀独特の文化が背景にあり、市井の万歳とは趣を異にして笑いの中に風格が窺える点に特徴があるという。
この鐔は、色合い黒い朧銀地を微細な石目地に仕上げ、顔は高彫色絵、総体は金銀素銅の平象嵌(ひらぞうがん)を施した上に細く太くと力強く変化する片切彫を施して躍動感ある場面を描き、さらに要所に様々な石目地を加えて微妙な質感を創出している作。
片切彫平象嵌による動きのある人物描写を得意とした金工と言えば、享保六(1721)年生まれの一宮長常を思い浮かべることであろう。克久は元禄七(1694)年の生まれ。両者の関係は不明だが、長常より先に、動きのある風俗図を題に片切彫平象嵌を駆使した工が存在したことは興味深い事実である。
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おおてまんじゅうさんありがとうございます。
名品は触らせていただけるだけでもあり難いものです。でも、名品でなくても充分に楽しめるものもあります。写真でしか伝えられないのが辛いところですが、これからもコメントをお願いします。