鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

勝軍草透図鐔 記内

2009-09-17 | 


 勝虫(かちむし)とも呼ばれる蜻蛉(とんぼ)が羽根を休めるところから勝軍草(しょうぐんそう)とも呼ばれる水草、沢瀉(おもだか)と葵(あおい)の葉を文様風に構成した洒落た鐔。鉄地は色黒く光沢があり、浅い鋤下彫による肉彫地透と鮮明な毛彫、ほどよく散らされた金銀の露象嵌によって一段と画面が引き締まり、造形美が浮かび上がってくる。記内派で知られる越前鐔工の作と鑑られる。
 図案がいいですね。記内派の鐔工には様々な図があり、多くは肉彫(彫口に立体感を持たせる手法)仕立てとするなど、赤坂鐔のような陰影の魅力とは異なる世界を追求している。

牡丹松葉透図鐔 京

2009-09-17 | 



 なんと優雅な美空間であろうか。我が国の文化の多くが大陸伝来のものであることは良く知られているが、日本刀とその外装の金具類は我が国で発展している。デザインについては各時代の好みが示されており、各時代に諸外国から様々な文化や様式が流入していたことが知れ、鐔の製作された時代を想像する大きな手掛かりともなっている。ただし、この種、この趣の鐔の文様には、奈良時代、平安時代の太刀飾りや文物へと想像を広げ得る、古典美が感じられるのである。
 牡丹を宝相華(ほうぞうげ)として意匠したものであろう、細く太くと変化のある曲線を複雑に組み合わせ、総体に繊細な風合いを漂わせることに成功した、優れた構成美の鐔。木瓜形(もっこうがた)に造り込んだ地鉄は色黒く深味があり、鍛えた痕跡が全面に残り、見どころが構成だけではないことを示している。花弁の広がる様子と、四方猪目(いのめ)が古典の風合いを漂わせている。

茗荷三階松透図 尾張

2009-09-17 | 




 骨太な戦国武士好みの鐔。
 切羽台を薄く耳際を極厚に仕立て、角耳にわずかに小肉を付けてがっちりとした造り込みとした、尾張鐔(おわりつば)の典型かつ大振りの作。鉄色黒くねっとりとして渋い光沢に包まれており、さらに色黒く光沢の強い小粒状と細い筋状の鉄骨がわずかに観察され、素材の魅力を一層高めている。小柄笄の櫃を構成する茗荷(みょうが)は左右対称に大きく反り返り、桐紋は古風、鋭く左右に突き出す三階菱(さんがいびし)も武張って強みがある。

菊花透図鐔 記内

2009-09-17 | 



 質の良い鉄地を肉厚に仕立て、菊花を糸巻状の菱形に意匠して余分な装飾を省略した、緊張感に満ち溢れた作。表面は微細な石目地仕上げで渋い光沢に包まれており、抑揚のある耳の線が、透かしの空間によってすっきりとしている。笄櫃が小振りであり、特別注文の作と推測される。記内(きない)派には独創的な意匠の作品があり、この派の特徴の一つとなっている。角形鐔は、床に置いた刀を手にとる際に転げないことから、実戦の武具として好まれた。

歳寒二雅透図鐔 古赤坂

2009-09-17 | 


 下方に雪を配し、松、梅、竹の真冬に存在感を示す植物を組み合わせ、古典的な美意識を背景とした歳寒二雅の雅な空間を創出した作。古典とは言え、赤坂派に特徴的な透かしの切り口が魅力。
 鍛え合わされた流文状の鉄肌が全面に現われている、時代の上がる赤坂鐔の特色が良く示されている。鎚目が残された鉄色は黒く渋い光沢があり、簡潔な毛彫が地肌と働き合い、自然な抑揚を呈して鑑賞の指先に伝わりくる。赤坂(あかさか)鐔の魅力は独特の意匠からなる文様化された透かしであろう。極肉厚の地鉄に鋭く切り込まれた複雑な構成線は視覚を心地よく刺激する。櫃穴の形、生ぶのままの寄せ鏨の痕跡も鑑賞の要点。
 赤坂鐔工は江戸時代初期から幕末まで連綿と続いているが、その初、二、三代を別格に扱い、古赤坂と呼び分けている。この三者の造り込みは、桃山の気風を伝えて大振り、透かしの文様も独特の風合いの中に強みがある。