後藤家の聖域とも言い得る這龍(はいりゅう)図に挑み、見事に独創表現を成した桂宗隣(そうりん)の小柄。
町彫金工の技術はすごいと思う。後藤宗家の作品の存在意義と、それを手本とした町彫金工の作品とを同じ視点で眺め、比較しても意味はないので、ストレートに宗隣の技術と感性を楽しみたい。
桃山頃の後藤家を手本としていると思われるこの小柄は、赤銅地を綺麗に揃った魚子地に仕上げ、眩いばかりの金無垢地を打出高彫として据文した、風格を備えながらも迫力ある作品。殊に切り込んだ鏨の痕跡を活かした鱗・鰭・髭・触覚・爪、そして微細な毛彫を加えた三鈷柄剣、総てに生気が満ち溢れている。
安永三年常陸国水戸にまれた宗隣は横谷英精に学んで天性の才能を発揮し、桂永壽の養子となって家督を襲う。町彫様式と家彫様式を巧みにこなし、古典に題を得て瀟洒に表現するを得意とした。(背景が魚子地と呼ばれる綺麗に揃った微細な点の連続であるため、モニターによっては叢になり見え難い場合があります)